エピローグ:それぞれの正義のもとに
(ラウンド3が終わり、舞台の照明が徐々に柔らかくなっていく。円卓の上のホログラムが消え、代わりに星空のような光が天井一面に広がる。
あすかがゆっくりと円卓中央に立ち、4人の登壇者を見渡す)
あすか(司会):
「──皆さん、ありがとうございました。
『政治家の裏金問題』という、重く、そして現代にも深く突き刺さるテーマを、
ここまで深く、鋭く、時に激しく語り合ってくださったこと、本当に感謝いたします。」
(対談者たちが、互いに目を合わせる。静かな尊敬の眼差しが交差する)
あすか:
「それでは、最後に──
今日の議論を経て、今あらためて“裏金”というものに向き合って、
一言だけ、“あなた自身の言葉”で締めていただけますか?」
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◆ 孔子の言葉
(孔子がゆっくりと立ち上がる。背筋はまっすぐ、手には竹簡をそっと握っている)
孔子:
「人の心にある“欲”を断つことは、容易ではありません。
けれど、“恥を知る心”を育てることは、いつの時代にもできるはずです。
政は、人を育てる場でなければならない。
裏金を語るこの場こそが、“恥と信”の意味を問い直す場であってほしいと思います。」
(静かな拍手。マルクスが頷く)
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◆ マキャヴェリの言葉
(マキャヴェリが椅子に座ったまま、にやりと笑って言葉を紡ぐ)
マキャヴェリ:
「私は今日、敵に囲まれた街を守るときのように、理想と現実の狭間を行き来しました。
──正義と策略、清廉と計算。
もし“裏金”を“悪”と断じるなら、それを使って平和を守った者は、悪人になるのでしょうか?
政治とは、常に“矛盾の管理”です。」
孔子(柔らかく):
「矛盾の中にも、礼はありますよ。」
マキャヴェリ(目を細めて):
「それを探すのが、一番難しい。」
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◆ リシュリューの言葉
(リシュリューがゆっくりと立ち、マントを払って語る。声は落ち着いて深い)
リシュリュー:
「“正義”は理念であり、“秩序”は手段です。
だが、時としてその順序は逆になる。
私はその“逆転”に耐えてきました。
もしも民の平穏のために、何かを隠す必要があるのなら──
それは“罪”ではなく、“責任”です。
──ただし、その責任を担える覚悟がある者に限る。」
マルクス(目を伏せながら):
「……あまりに重い言葉だ。」
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◆ マルクスの言葉
(マルクスが立ち上がる。目には炎ではなく、静かな火種が宿っている)
マルクス:
「私は、搾取を許さない世界を夢見ています。
だが、その夢が“怒り”だけでは届かないことも、今日わかりました。
孔子先生、あなたの言う“教え”は、私にとっての“革命”とは違う方法だが……
それでも、“変えよう”とする意志は、同じです。」
孔子:
「志のある怒りは、美しいものです。」
マルクス(少し照れて):
「──ありがとう。」
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◆ 司会者あすかの締め
(あすかがゆっくりと中央に進む。対談者たちを一人ずつ見つめ、最後に観客席を見渡す)
あすか:
「“裏金”という言葉は、たった二文字です。
でも、それに含まれるものは──“恐れ”、“欲望”、“正義”、“犠牲”、そして“希望”すら含んでいました。」
(ホログラムに4人の顔が並び、それぞれの言葉の一節が浮かぶ)
あすか:
「私たちは今日、それぞれの時代、それぞれの思想から“対話”をすることで、
正しさとは何かを探しました。
すべての問題が解決されたわけではありません。
でも、“話し合える”こと、“言葉を重ねる”こと、
それがこの時代にできる、最も誠実な政治のかたちではないかと、私は思います。」
(観客席から温かい拍手)
あすか(一礼して):
「それではまた、時空を超えて、お会いしましょう。
『歴史バトルロワイヤル』──これにて閉幕です。」
(舞台の光が少しずつフェードアウト。4人の対談者たちが静かに一礼し、それぞれの時代へと帰っていく。
テーマ音楽が静かに流れ、エンドクレジットのように登壇者の名前が表示されていく──)