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幕間:知の交差点

(ラウンド2が終わり、舞台照明がふっと柔らかくなる。円卓の光が落ち、代わりに、二つの場所にスポットライトが灯る。一つは深紅のカーテンが揺れる談話室のような空間。もう一つは、竹と書が飾られた静謐な書院風の空間。)



---


マキャヴェリ × リシュリュー:裏金と政治の地殻変動


(舞台左手、談話室。重厚な木製の本棚、グラスと水差し、クラシックな暖炉。マキャヴェリとリシュリューが椅子に座っている。)


マキャヴェリ(グラスの水を軽く揺らしながら):

「不思議なものですな。あなたと私は数世紀を隔てていながら、随分と“実践的な精神”で一致している。」


リシュリュー(微笑しながら頷く):

「それだけ、国家というものは“理想”より“現実”に近いということです。

時代が変わっても、“支配の構造”は驚くほど似ています。」


マキャヴェリ:

「フィレンツェでは、隣国の裏切りや民衆の暴動が日常でした。

“正義”を語っている間に、城門が破られる。

金は──静かに敵を買収し、味方を繋ぎ止める“刃のない武器”でしたよ。」


リシュリュー:

「私の時代も同じです。フランス内では貴族が陰謀を巡らせ、外ではハプスブルク家の包囲。

表の戦争と裏の資金工作、その両輪で国家は動いていました。」


マキャヴェリ(身を乗り出し):

「ただ……現代の政治を見ると、少々様子が異なるように感じませんか?

裏金が、戦略ではなく“私腹の肥やし”に堕している。」


リシュリュー(静かに頷く):

「かつての“裏金”は、戦場の一部でした。

今は……どうやら、権力の維持より“個人の蓄財”が目的となっているようです。」


マキャヴェリ(少し皮肉めいて):

「我らが行っていたのは、“国家のための裏金”。

現代は、“国家を使った裏金”──つまり、主従が逆転したのですな。」


リシュリュー:

「秩序のための犠牲と、秩序を犠牲にした利益。──この違いは大きい。

その意味では、現代の政治家たちは“冷酷”であるよりも、“鈍感”なのかもしれません。」


マキャヴェリ(グラスを置きながら):

「私が語った“君主の道具箱”には、刃も金も偽りも含まれていた。

だが──あくまで“国を保つため”だった。それを忘れては、悪は悪に成り果てます。」


(二人、静かにうなずき合う。暖炉の火がぱち、と小さく弾ける音が聞こえる。)



---


孔子 × マルクス:徳と構造、共にある場所を探して


(舞台右手、書院風の空間。竹の屏風、香炉の香、簡素な文机。孔子とマルクスが向かい合い、湯呑に入ったお茶をそれぞれ手にする。)


孔子(柔らかく微笑みながら):

「あなたの言葉には、怒りがある。

だがその怒りの底には、“人を救いたい”という願いがあるように感じます。」


マルクス(驚いたように目を見開き、少し照れる):

「……怒りを語ると、しばしば“破壊者”と見なされる。

でも本当は、“何かが壊れている”ことに気づいてほしいだけなんだ。」


孔子:

「私もまた、礼が壊れ、君子が道を失った時代を生きました。

だからこそ、“仁”と“礼”で人を立て直そうとしたのです。」


マルクス:

「だが、“仁”が通じるのは、民に飢えがない時だけだ。

“徳を以て治む”──それが可能なら、私は革命など語らない。」


孔子(静かに頷き):

「それは、私の苦しみでもありました。

諸侯に礼を説いても、誰も耳を貸さなかった。

だから私は、まず弟子を育て、世に送り出す道を選んだのです。」


マルクス(少し黙り、茶を一口飲む):

「……教育か。」


孔子:

「そう。社会を支えるのは“人”です。

構造を変えるのも、“人”なのですから。」


マルクス:

「私は、“構造”が人を変えると考えていた。だが……

“人が構造を変えられる”なら、希望はある。」


孔子(にっこり微笑みながら):

「あなたの“怒り”が、“智慧”へと変わる時──

きっと、その希望は実るでしょう。」


マルクス(言葉を失い、ゆっくりと頷く):

「……ありがとう、先生。

こんなふうに話せるとは、思っていなかった。」


(書院に静かな風が吹く。二人は言葉を交わさず、ゆっくりと茶を口にする。)



---



(舞台の照明が緩やかに戻る。円卓の背後の壁がスライドし、そこには現代服の観覧者たちが座るスタンド席が現れる。まるで時空の観覧席。

司会のあすかが中央に立ち、柔らかく観客に語りかける)


あすか(司会):

「さて、ラウンド3の前に、ここで“現代の声”に耳を傾けてみましょう。

スタジオの観客の皆さんから、対談者へのご質問を受け付けます!」


(拍手。ひとりの若い女性が手を挙げ、マイクがスッと目の前に浮かぶ)



---


質問①:「裏金の“境界線”はどこにあると思いますか?」


観客A(20代女性・大学生):

「質問です。政治家の“裏金”と、たとえば“外交における機密費”って、どちらも“見えないお金”ですよね?

では、どこからが“不正”で、どこまでが“許容される秘密”なんでしょうか? その“境界線”って、あると思いますか?」


あすか:

「おお、核心を突いてきました! どなたかお答えを──」


マキャヴェリ(即座に手を上げて):

「境界線など、そもそも存在しない。あるのは“使い方が明らかになったかどうか”、それだけだ。

もし国益に資するなら、たとえ闇の中の金でも、民はそれを許す。“見えた時”、はじめてそれが不正と呼ばれるのだ。」


孔子(穏やかに、しかし厳しく):

「否。“見えぬまま行われる”ことこそ、罪である。

“心ある者”は、自らを律し、光の中で歩む道を選ぶべき。

見られていなくとも、天は見ている。」


リシュリュー(低く語る):

「私は“機密費”を使った。しかし、その一つ一つに“国家存続”という名目があった。

“個人の利益”と“国のための秘密”──その違いを見失えば、すべては腐る。」


マルクス(強い調子で):

「“境界”など曖昧にしていること自体が、支配者の狡猾さだ。

本当の透明性とは、“民がすべてを知ること”だ。そこにこそ、真の民主主義がある!」


あすか:

「なるほど……“見える・見えない”が問題なのか、“誰のために使われるか”が問題なのか、立場で全然違う……!」



---


質問②:「もし現代に生きていたら、あなた自身は裏金を使いますか?」


観客B(30代男性・会社員)(苦笑まじりに):

「ちょっと失礼かもしれませんが……

皆さんがもし現代の政治家だったとして、“裏金”を使うことはありますか?

ぶっちゃけ、“やるか、やらないか”で答えてください!」


(会場、ざわつく)


あすか:

「これは……なかなか大胆な質問ですね! 皆さん、いかがでしょう?」


マキャヴェリ(即答):

「やる。必要ならば、迷わず。国家の安定のために、使わねばならぬ時がある。」


リシュリュー:

「……やる。だが、それは“個人の私腹”ではなく、“国家の陰の支柱”として。

信頼できる者にのみ、責任を伴って使わせる。」


マルクス(即座に):

「断じてやらない。

その構造を許すこと自体が、革命の敵だ。」


孔子(静かに):

「やらぬ。

ただし──

“なぜやらずに済む社会を作れぬのか”と、自問することはあろう。」


あすか(驚きつつうなずく):

「ぶっちゃけ質問でしたが、皆さんの答えに、思想の本質が滲んでいましたね……!」



---


あすかのまとめ


あすか(司会):

「“裏金”というひとつの言葉から、“信頼”、“透明性”、“責任”、“権力”──さまざまな論点が見えてきました。

そして、対談者それぞれが、“自らならどうするか”という問いに対して、真剣に向き合ってくれたこと──それがとても尊いと思います。」


(観客席から拍手)


あすか:

「それでは皆さん、いよいよお待ちかね──

ラウンド3『裏金をどうする?──対処と処方箋』、始めてまいりましょう!」


(舞台中央に再び光が集まり、円卓に4人の姿が戻る。テーマのホログラムが現れ、文字がゆっくりと浮かび上がる)



---


次回:ラウンド3──裏金をどうする? 対処と処方箋

“隠す”政治から、“変える”政治へ──対立と提言が交錯する、最終ラウンドへ突入!

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