ラウンド1:裏金は本当に“悪”なのか?
(円卓の中央に、テーマがホログラムで投影される。「裏金は、本当に“悪”なのか?」──文字が浮かび、じわりと回転する。)
あすか(司会):
「さて、最初のラウンドは、ずばりこの問いから始めましょう。
政治家の裏金、それは絶対に許されない“不正”なのか? それとも、政治の中では“目的のための手段”として容認されうるのか?
この問い、4人の見解が真っ向から分かれる予感しかしません!」
(円卓のライトが少しだけ暗くなり、フォーカスがマキャヴェリに当たる)
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マキャヴェリの見解
あすか:
「では、まずは“現実政治のリアリスト”マキャヴェリさん、お願いします。」
マキャヴェリ(穏やかな笑みを浮かべて):
「ご承知の通り、私は“理想の国”より“維持される国”を重視する者です。
裏金……ふふ、言葉の響きは確かに悪だ。しかし、裏金によって戦争を避け、反乱を抑え、同盟を維持できるなら──
それは、むしろ善ではないか?」
孔子(小さく首を振って):
「それは“方便”であって、“道”ではない。善とは、行為の結果ではなく、行為の姿勢そのものに宿るものだ。」
マキャヴェリ(すかさず応じて):
「では孔子殿、国が滅びても、清廉であればそれでよいと?」
孔子:
「国が滅ぶのは、人が“清廉”を失ったときです。
金銭の力に頼った時点で、民の信頼は薄れ、やがて国の根が腐る。」
マキャヴェリ(にやりと笑って):
「その“信頼”もまた、演出できるのですよ。」
あすか(小声で):
「……ひとこと多いですね、マキャヴェリさん。」
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リシュリュー枢機卿の見解
あすか:
「では、国家と教会の均衡を守った政治家、リシュリュー枢機卿。ご見解をどうぞ。」
リシュリュー(ゆったりと、手を組みながら):
「国家という船を嵐の中で進ませるには、外に見せる舵だけでは足りません。
裏金というのは──船底に隠されたバラストのようなものです。見えずとも、重しとして必要な時がある。」
孔子(厳しい目で):
「見えぬ行為こそ、慎まねばならぬ。君子たる者、光の下でこそ歩むべきでは?」
リシュリュー(揺るがず):
「光の下にさらせば、闇が騒ぐ。秩序を守るには、時に“見せぬ誠意”も必要なのです。
それに──“裏金”と“戦略的支出”の境界は、常に曖昧なものでは?」
マルクス(顔をしかめて前のめりに):
「その“曖昧”が、人民を苦しめる温床だと言っているんだ、私は!」
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マルクスの見解
あすか:
「はい! では満を持して、マルクスさん。抑えきれないご様子ですが、お願いします!」
マルクス(机を軽く叩く):
「裏金とは、支配者階級が金の力で政治を操作する、最も露骨な証拠だ。
資本家が政治家を買い、労働者の汗を“非公式”に吸い取る。それが裏金の正体だ!」
マキャヴェリ(皮肉をこめて):
「なるほど。“ブルジョワの陰謀”と呼ぶわけですな。」
マルクス(鋭く):
「陰謀ではない、“現実”だ。
あなたが語る“必要悪”は、結局のところ支配者の都合でしかない。民は参加すらできない!」
あすか:
「マルクスさんは、“裏金”を構造的な問題と捉えていらっしゃるんですね。」
マルクス(即答):
「そうだ。倫理の話ではない。システムそのものが腐っている!」
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再び孔子、そして交差する見解
あすか:
「ここまでで、“必要悪”か、“絶対悪”か、それとも“構造の腐敗”か──
分かれてきました。孔子先生、最後にこの問いについて、もう一度お願いします。」
孔子(静かに目を閉じ、言葉を選びながら):
「道を行く者は、小利に惑わされず、民に恥じぬ行いをすべし。
裏金という言葉には、すでに“隠す”という意志がある。
“隠す”という行為に、清き政治は生まれぬ。」
リシュリュー(ふっと鼻で笑い):
「では、すべてをさらけ出した国が、どれだけ長く続いたか……歴史にそんな例があったでしょうか?」
マキャヴェリ:
「先生、世界は“徳”だけでは回りませんよ。時に“虚”も必要です。」
マルクス(低く唸るように):
「“虚”を積み重ねた先に、崩壊しかないのだ。」
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あすかのまとめ
あすか(両手を軽く広げて):
「いやあ……これは序盤から激しく火花が飛び交いました!
“裏金”──たった2文字に、ここまで違う価値観が詰まっているとは……
皆さんの意見を整理すると──」
(ホログラムが、対談者それぞれの立場を要約して表示する)
マキャヴェリ:「裏金は結果のための戦術。必要なら使え。」
リシュリュー:「裏金は国家運営の調整弁。見えざる秩序。」
孔子:「裏金は不義。徳と礼に反する。」
マルクス:「裏金は階級支配の証拠。構造的腐敗。」
あすか(くすっと笑いながら):
「……みなさん、“悪の定義”から違うんですね。
でも、これはまだ始まり。次は、“その裏金が誰のために使われ、誰が傷ついているのか?”──
ラウンド2では、“裏金の構造”に切り込みます!」
(照明が落ち、円卓中央に“ラウンド2:裏金の構造──誰が得し、誰が泣く?”の文字が浮かび上がる)
あすか(ナレーション):
「歴史の巨人たちが語る“政治の舞台裏”──
次なる焦点は、“その金の正体”です。」
(静かに幕が閉じる)




