かいじゅうさく
『超人的ヒーロー』と『怪獣』の特撮に心を奪われていた子供時代を時々思い出す。大人になっても『特撮の神様』と呼ばれた監督を敬愛するあまり、彼の出身地にあるミュージアムを訪れて怪獣の立像や作品の資料を実際に見てきたこともある。幼い頃はもっぱらヒーローの方に憧れたものだが、今はどちらかというと多種多様な『怪獣』の方の魅力に気付かされ、特に悪役でありながらどこか人間味のあるコミカルな怪獣(人)のことは何かと頭に浮かぶことが多い。
『怪獣に 懐柔された 会社員』
何を血迷ったか、その町の街道に点在する怪獣の像の前で跪いた己の姿を収めた画像をこの「俳句もどき」と共にSNSに投稿したことがある。見事なまでにスルーされ、後々その原因が『インパクト弱さ』にあると気付いてからは、界隈で話題性のある情報を日々探索するようになった。
そんなある日ずっと通っているピザ屋のマスターが何故かニンマリして、
「ナガちゃん、これ知ってる?」
とスマホに表示させたとある画像を見せてくれた。画像には『酒瓶』が見えるのだが、そのラベルが意外過ぎてその場で驚いてしまった。
「え、なんだ?これって怪獣との『コラボ商品』か?」
「そうそう。なんでもN市ってところの酒蔵がコラボ商品を作ってたみたいなんだよ」
N市。奇しくも『特撮の神様』の出身県にある町である。彼に縁があるのかどうかは不明ではあるが、とにかく現物としては『超人的ヒーロー』ではなくて『怪獣』が酒蔵で仕込んだという名目でこの商品が売られているらしい。マスターとは昵懇の仲だけに自分の怪獣愛も承知していてこの間なんかは、
『「怪獣ピザ」なんてどうだろう?』
と結構マジのトーンで相談されていはいたが確かにこのご時世、意外とも思える組み合わせがヒットに繋がったりするので強ち捨てたものではないアイディアではある。情報を教えてもらってから意気揚々とネットで商品を注文して、その日を待ち侘びていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
月夜のバレンタイン。我々にとってはよく見慣れた怪獣の姿がプリントされた箱から酒瓶を取り出し、お薦めにあったようにしっかり『冷やして』ワイングラスにその液体を注いでゆく。通販ページにあった妙に凝った設定では『酒の品評会で『金賞』を得る為に怪獣が努力した』とあり、その成果(?)なのか少しテイスティングしただけで香りも味も一級品であることがすぐに分かった。
<怪獣がこんなに素晴らしいお酒を作ってくれるなら、絶対退治する必要はないな!>
ほろ酔い加減で思ったままを投稿した。やはりコラボ商品の『インパクト』は大きいらしく、すぐに『私も飲みたいです!』とか『これ凄く美味しかったです』とかコメントが届いた。それで気分が良くなってしまったので杯がどんどん進んで、結局その日に瓶を飲み干してしまった。
「まあ、明日休みだからいいか」
そんな事を思いながら就寝。だが…怪獣が本当に現れてしまった。
『やあやあ、ご機嫌はいかがかな?』
薄暗い部屋で自分の寝床を取り囲むように人間と同じ大きさに縮小した怪獣が4体、正座でこちらを見下ろしている。
『え?あなた達はもしかして…』
自分の驚いた声に「「ははは」」と一斉に表情を変えず笑い合ったような声を出す怪獣達。
『そのまさかだよ。あのお酒を飲んだ者にはこれから『我々』に協力してもらう』
『どういうことですか?』
思わず敬語になってしまう。リーダー格と思われる怪獣の一体が、
『我々が何の見返りもなく酒を作ったりするものか!この星を征服する為に密かにあの「酒蔵」に協力を取り付けたのだ』
『俺はどうなっちゃうんですか?』
不安のあまり怯えた声を出してしまったが、別の怪獣がこんな風に言った。
『心配はする必要はない。君には我々のイメージアップを任せようと思ったのだ』
『イメージアップ?』
『そうだ、我々が非常に有能であり、この星の支配者として相応しいと喧伝してもらうのだ』
『え…?俺に出来ますか?』
でも何故か協力的だった自分。
『では任せたぞ!』
そこで怪獣達はだんだんと透明になってゆき姿を消した…。そしていつの間にかそんなリアルな『夢』から目覚めていたことに気付いて一瞬ゾワっとしていた。
「え…?夢だったよな」
よりにもよってリアル過ぎる夢だった為、今でも錯覚してしまいそうになっている。それでもたぶん…深酒が原因だろう。何にしても不思議な体験だった。後日あのピザ屋を再び訪れるとマスターから。
『怪獣ピザ』
の試作品をご馳走になった。それはピザの形と具材を怪獣に見えるように仕上げたもの。やはりこの上なく美味でインパクトもあるし、バズリそうな気配。
「俺、これ投稿しますよ!なにせ、『怪獣に懐柔された会社員』なので」
何となくではあるが、この『俳句もどき』も流行る日を夢見ていたりする。有能な怪獣さん達なら投稿を見ていてくれそう。