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ニート更生人西園寺君子

異世界転移しないで現世で起業するニートの話

作者: 山田 勝

『フウ~!父さん、実は僕、起業しているんだ。在宅ワークだ』


『バカ野郎。ビジネススーツを着て就活しろ!でなければ出て行け!』


『分かったよ。出て行くよ』



 ☆数ヶ月後


『最近話題のニュービジネスのサトルコーポレーションの最高経営責任者、里中悟様だ。里中君のご子息だったね。我社に仕事をくれるそうだ』


『父さん。ビジネスは親子の感情は抜きだよ。しっかり、働いてくれ』


『な、何だって!ギャフン!』



 ・・・・・・・




「・・・とでも考えているのだろう。あり得ない話だ」



 俺は四捨五入をしたら40歳の会社員、里中猛。家族は、妻と、短大卒業して、一人暮らしをしている娘、会社員の早苗と、

 今、目の前にいる高校をやめて部屋にこもっている息子の4人だ。


 息子は、高校をやめて、一年がたつ、一日中、部屋にこもってPCの前に座っている。

 今日は説教だ。



「それは父さんの感想だろ!!」


「馬鹿だな。起業して収入が103万円を超えたら、来年には父さんの会社に税務署から連絡が来る。がっぽり税金を取られ。扶養手当を会社に返さなければならない。

 月に10万8千円以上稼ぐ月が2ヶ月続けば、健康保険を切らなければならない。

 感想じゃないぞ。息子が起業してウハウハになったら親は強制的に分かる仕組みなのだよ」


 まあ、いわゆる。税控除と健康保険の扶養者の事だ。


 税金の場合の103万円は、その年の1月1日から12月31日までの収入で判断する。超えていたら、年末で調整されるか。翌年、会社が再調整をやってくれる。しかし、黙っていたら、税務署からお通知がくる。

 最悪、詐欺罪にまでなる話だ。


 対して、健康保険の場合は妻、子供がアルバイトをしても良い金額は年130万円までだ。

 年額130万を12で割って約10万8千円だ。

 税金は一年で考えるのに対して、健康保険は超えそうだったらすぐに切らなければならない。見込みで考える。


 例えば、年収一億円の妻が、仕事を辞めた。すぐに会社の健康保険に入る事が出来る仕組みだ。

 年収、200万円の妻が仕事を辞めても、その時点で税控除の金額が超えていたらその年は税控除に入れない。

 理屈上はそうなるが、例外を考えても仕方ない。


 ネットにはニートが願望を書いたニート作品があふれている。

 だから、すぐに分かる。



 正論をぶつけると、息子は論点をズラス。



「それはたいした問題じゃないよ!子供を大学に行かせる事を思えば安いものだよ!」


 だから、こう切り返す。


「だな。確かに安いな」


 すると、図に乗り出す。


「僕は絶対に父さんのようになりたくない。

 ビジネススーツを着て、毎日、会社に通って・・・顔色をうかがって、言われた事しかやっていないんでしょう!」


「うん。俺も、会社、イヤだな。いつも、やめたいと思っている」



「じゃあ、起業していいよね!YouTuberになる!ネット小説、AI絵師、マルチなビジネスモデルだよ」


 だが、ここで拒絶をして。


「ダメだ!」


「えっ」


 そして、一部、受け入れたように見せかけ、本命を切り出す。


「ここはな。会社の社宅だ。ここを事業の主体の本店にする事は規則で出来ないんだよ」


「えっ?」


 やっぱり、本気じゃない。会社法を調べていないな。

 本店を登記しなければならない。


「外でならいいぞ。応援する。知り合いの不動産屋を紹介していやる。大丈夫だ。学資保険を解約して、起業にあててやるからな」


「・・うん」


 さすがに、顔に不安が出てきたが、やめる意思表示はしないな。

 いいぞ。


 という事で、市内でニートがらみの物件を扱う不動産屋に連れて行った。






 ☆西園寺商事


 主任の西園寺君子さんが直々に対応してくれた。

 30歳前の女性だ。

 中々美人さんでもある。

 悟はチラチラ見ている。

 まあ、思春期だからそうなるであろうな。

 彼女はニート更生人と評判だが、説教とか一切しない。


 悟を褒めちぎる。


「まあ、素晴らしいわ。若くして起業されるなんて・・・」


「スゲー、俺が16歳の頃は、女の事しか考えてなかったよ」


「「「スゲー、スゲー」」」


 と社員も口々に言ってくれる。

 これは・・・当たりだ。分かっている。

 ニートの更生の難しさと面倒くささと他人がどうのこうの言って良い問題では無い事を理解してくれている。


 俺は依頼する事に決めた。



「学資保険解約したから、身の丈にあった物件と一切の援護をお願いしたいのだが・・」


「もちろんでございます!」



「父さん・・」

「もう、賽は投げられた。後戻りは出来ないぞ」



 物件に案内してもらった。



 ☆☆☆


 オーナーさんも一緒だ。かなりのご高齢の方だ。農家さんだ。

 近くに川がある。プレハブだ。

 悟は文句を言う。



「ここは・・・」

「家賃一万でええけ」

「でも、バス、トイレついてないよ。狭いよ!」


「説明するけーな・・・」



 このプレハブはな。今で言うニート部屋だ。昭和の時代にニートを住まわせた。

 ワシの親戚でどうしても働かない者がおってな。毎日、釣りばかりしておった。

 追い出しても働こうともしない。


 追い出したら警察が連れて来てな。元の木阿弥。親族会議で金を出し合って、プレハブ小屋を建ててここに住まわせ。月々三万円援助してやった。

 後は、ウナギやらを捕って、川魚料理店に売っておったな。


 もちろん、年間遊漁券を買わせてな。ド素人の川漁師だ。



「でも、生活保護を受けさせたら良かったんじゃ。ピロキーさんも言っていたよ!」


「さあ、精神病院につれて行ったが、〇〇〇症と診断された。まあ、何にも病気をつけられない時にとりあえずつける病名じゃって先生は言っておった。

 奴はな。病院で先生の前で詐病と診断されるような事をやったのじゃ。それに、生活保護は働けない人が受給するものだぞ?」


「その詐病と判断された理由は?」

「言えん。悪用されたらアレだからな」



 ・・・僕は里中悟。高校になじめなかった。

 だから、いつの間にか学校に行けなくなって、起業を思い付いた。

 クラスメイトは意識が低い。部活とアニメやドラマ、女の事しか考えていない。


 僕は違う。ここはさすがにイヤだ。父さんに文句を言おう。



「でも・・・大学まで行かせる事を考えたら・・・もっと良い物件を出しても良いのじゃない?」


「だから、電気とネット回線を引く工事と、仮説トイレと、良い自転車とPCやらを買ってやる。二キロ圏内にコンランドリー、銭湯があるぞ。これはお前の言うスモールスタートじゃないか?」


「でも、始めから儲けを考えたら大きなビジネスをする事はできないよ」


「それは、ホールディングスや、既に儲かっている人が、他業種をやる時に考えるものだ。始めは小さくても成功体験を積まなければならない。分かるかな?」


「わ、分かるよ」



 それから、西園寺商事のOLが役所に連れて行ってくれた。西田さんという人だ。


 市役所では。


「国民健康保険に入ります。加入した証明書をお願いします。こちらの里中悟さんです」

「はい・・・起業?生計を同一、維持する関係でなくなるのですね」


 法務局では。


「未成年の営業の登記を行います。後日、会社を起業します」

「はい、分かりました」


 何だか分からない。



 更に、司法書士の事務所に連れて行かれ。



「目的は?・・・」

「え、目的?」

「何を営業するかですよ・・」


「はい、YouTuberです!後、ネット小説を書いたり。同人を売ったり。後、商社的な事を、忙しくて買えない方のために、商品を買う仕事です」




「転売・・・まあ、商品の仲介業ですね。後は、動画作成と出版業ですね」


 司法書士の人と話をして、登記というものをしてもらった。

 更に・・・税理士さんを紹介してもらって。


 サトルコーポレーションは立ち上がった。


 部屋は狭い。ベッドを椅子にして、机で作業する。



「悟、細かい事は分からないから、好きなPCを言え」

「父さん・・・」


 数十万円のPCを買ってもらった。ついでに配信で使う機材・・・

 ネット回線もつなげてもらった。





 西園寺商事のOL,西田さんから、アドバイスを受けた。

 彼女は、なろうの底辺作家さんだと云う。

 さすがに素人だろう。


「何故、底辺が指導するのですか?」


 と意地悪く言ってみた。


「経営コンサルタントは経営が上手いですか?彼らはアドバイスが上手いから商売になっているのです。名選手、名監督にならずです」


「え、そうなの?」



「いいですか?まず。1作品でもいいから人気になって、本を出版してもらって下さい。そしたら、なろう作家です。なろう作家の肩書きがあれば、動画配信で箔がつきます。動画でなろうで本を出版される方法を配信して下さい」


「作家になれば就職できないの?」


「逆です。サラリーマンが副業で書いている例がありますが、逆は寡聞にして聞きません。なろうで何百万部も売れても、世間的な認知は全くありませんし尊敬されません。ニートが異世界に行く話は・・・アレです。そう、アレ」



「分かった・・・」


「ですが、なろう読者を舐めてはいけません。移り気ですが、馬鹿ではないのです。この作家さんのプロフィールをご覧下さい!」



「何、これ?」


「どうです。レビューが書かれて感想でも大絶賛をされていますが・・・面白いですか?」


「何か・・・分からない。総合評価100ちょっとの長編?・・題名がキモいし、面白くなさそう」


「そうです。なろうの感想を書いてくれる業者さんがいると推定されています。さすがに、大量の加点はしないようです・・これは、〇〇〇〇が怪しいと思っています。

 読者は簡単に見抜いて、敬遠します。100もあればハイファンの日間ランキングには載り。総合日間の端っこに載ることもあります。大変不誠実な行為です」



「え、作家仲間が評価し合うのも・・・」


「すぐにバレます。

 逆に、総合一万未満でも、ブクマ三千くらいでも、感想、レビューが沢山ついている作品があります。それは良い作品です。総合10万超は神の作品です。

 貴方はまずは総合1000を超える事を目指して下さい」


「分かった。やってやる!」



 小説を書く。ランキング上位を上から読みまくり。

 パターンを解析!


 親父は、会社たちあげの日に、封筒を渡してくれた。何だ。印鑑で封がされている。


「本当に困ったら、この紙を見ろ」

「うん・・・」


 分からず屋だと思ったけど、理解のある親父だった。成功したら車ぐらい買ってやるか。



 僕は頑張った。この頑張る様子を配信しよう。






 ☆一月後、東シナ海、クルージング船中


「皆様!新年でございます!乾杯!」

「「「「乾杯!」」」



 俺は息子には声をかけずに、年末年始、家族旅行をした。妻、幸子と娘早苗の三人だ。


「今年もよろしくお願いします。貴方」

「母さん。こちらこそ、よろしくお願いします」

「お父さん。お母さん。開けましておめでとう」

「早苗、おめでとう。お年玉だ」


「えっ、私、20歳だよ!いらないよ。しかも、封筒こんなに分厚いわ!」


「金が浮いた。西園寺不動産から平屋を買うことにした。悟が大学行かないこと決定したからな。母さんと相談したよ。その金は、何かの学費に充てるか。宝石を買うか。好きにしなさい」


「ええ、早苗、お父さんと相談したのよ」

「・・・お父さん。お母さん・・・グスン」



 もう、社宅は出た。悟に住所を知らせていない。

 あいつは、母さんの事を『ババァ』と呼んだ。


 奴の母親でもあるが、俺の愛する女だ。

 妻はお嬢様だった。心を病み心療内科まで行ったのに、

 あいつは、『ババァ』『飯』『小遣い!』しか言わなかった。



 単身赴任だったから気がつかなかった・・・いや、言い訳だな。


「幸子、愛しているぜ!今まですまなかった」

「お父さん。恥ずかしいわ」

「フフフ、お父さん。お母さん。写メ取るから肩を組んで!」

「なら、早苗も一緒だ。家族三人で撮ろう。そこの方、申し訳ありません。写メをお願いしたいのですが・・」


「はい、もちろんいいですよ。まあ、仲が宜しくていいですね」

「はい、仲良し三人家族です」


 パシャ!



 だが、悟は息子でもある。起業に成功すればそれでヨシ。

 ダメなら、日本国内だ。まだ、やり直しがきく。

 少しは成長するだろう。





 ☆同時刻、日本



「え、親父がいない。母さんも・・・」


 社宅を訪ねたら、誰もいない。引っ越したようだ。電話もつながらない。


 どうする?もう、資金が尽きた。明日、食べるものがない。


「そうだ。封筒があった!見てみるか!」


 多分、金か。


 と思ったら、地図だ。地元の食堂?


 それと。


「親権者同意書・・・・里中悟が貴社で働くことを承諾します・・って」


 嘘だ。まるで、僕の考えた話。親の知らない間に起業が成功していた話の逆じゃないか?


「何だよ!手紙が入っているじゃん。話は通してあるから、そこで働け!って、賄いだけはつくから・・って、最低時給だと!」



 ニート更生人と名高い西園寺君子は、ニートがらみの物件を扱うことで差別化をしていた。

 今日も一人ニートが更生した。





最後までお読み頂き有難うございました。


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