21話 コンコ「新しい朝が来た」
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こん、こん。部屋の扉を、外から軽く叩く音。それを聞いて、わたしの意識が浮上する。
「ふぁ?」
瞼が上がる。知らない景色。全身が、フカフカぬくぬく暖かい。え、なにが起きて……?わたし、起きた……?
「コンねーちゃーん……?」
気を遣ってか扉越し、音量控えめにかけられたその声で、寝ぼけた頭が一気に覚醒して弾かれたように上体を起こした。
「わっはぁっ?!!みみみみみ、みぃ君っっ!?」
「あゴメン、やっぱまだ寝てた?別に全然ゆっくりしてていいんだけど……」
「まって!大丈夫もう目、さめたから……!」
怒涛だった昨日の記憶が蘇る。思い出した。みぃ君と再開してから、なんだかんだと色々あって……お風呂に入ってご飯を食べて、柔らか寝具で眠る迄……。そう今ここは、みぃ君の家。
「慌てなくてもいーよ。朝ごはんの準備できたから一応、声かけに来たんだ───っと?」
がちゃり。寝巻きのままにベッドを降りて急くようにその声のもとへ。部屋の扉を内から開けた。するとそこには、ああ、少し驚いたような きみの顔が。
「んへへ……おはよっ。おはようございます、みぃ君っ」
「お、おお………………、おはよう、コンねーちゃん。」
すぐにでもその、顔が見たくて。まだ夢なんじゃないかって。この今が、現実だって確かめたくて。
だから、そこに みぃ君がいてくれて。本当にそこにいてくれて。顔を見て挨拶して、そしたら挨拶かえってきて、すでに幸せでたまらない。
「えへへへへ…………!」
「寝起きのすぐから何をそんなに満点笑顔なんだ……? マジ意味わからん可愛すぎる……」
ぶつぶつと独り言ちる みぃ君と共にリビングへ。食卓にはもう、タマちゃんが座って待っていた。
「おはようのじゃ!タマちゃんっ」
「おはようございます、コンコさん。」
「んじゃ、みんな揃ったし食べますか。これはハムエッグトースト……その、手で持って そのまま食べていいやつだから。」
そう食べ方を説明された わたしは、彼の気遣いを感じてしまって……顔が少し熱くなる。
昨晩の食事……カレーライスだけ食べて泣き続けていたわたしは、落ち着いた後お箸でサラダを食べようとしてみたのだけど、まあ案の定というか当たり前に……上手に食べることができず恥ずかしい思いをした。結局最後は諦めて、お匙でかきこむようにして食べることに。使い方、ちゃんと練習しないとなあ……。
「では……ありがとうの、いただきます。」
「ありがとーの、いただきまーあ。」
「ありがとう、の……いただきますっ。」
ふたりの食べ方を先に様子見で確認……とは言っても、これは普通に持ってかぶりつくだけのよう。
ひとくち、もしゃり。切られた食パンにマーガリンを塗って、ハムと目玉焼きを乗せて焼いた食べ物のお味は。うん……!おいしい!これも美味しい……!ふわー……。
「で、さ……今日なんだけど。ゆーゆ、なにか予定あったりするか?」
「(ハムエッグトースト3枚目のおかわりを用意しながら)私ですか?今日はトモちゃんと約束をしていて、帰るのは早くとも夕方になると思いますが……」
「マジか、そっか……ゆーゆにも居て貰いたかったけど、先約あるならしゃーないな。……いちおう訊くけど、コンねーちゃんは?今日、なにかやることある?」
「わたし? ええと……特に、なにも……?」
無計画に転がり込んだばかりのわたしには当然、用事や約束事なんてない。とは言っても、やりたい事やるべき事なら、それはいくらでもあるのだけども……。予定という予定は、今のところ特にない。
「そんじゃあ、今日は おれに付き合ってくれる?買い物がてら、この辺りの案内とかするよ。これからここで暮らすにあたって、必要なものとかも揃えよう。」
「あ……う、うんっ! ええと、じゃあ、よろしくお願いします……!」
提案の趣旨を理解したわたしはすぐさま首肯した。うわあ、一緒にお出かけだ。みぃ君と、お出かけ……う、嬉しい……楽しみ……。起きて挨拶、一緒にごはん、それに続いてお出かけで。どうしよう。もうわたし、ずっと幸せかもしれない。
「もむもむ……なるほろれす。んく、んっ……。私に居て欲しいというのは、つまり……」
「ん、そうそう。色々と……女性目線的な意味で、おれじゃ気付けないこととかあるだろうし。ゆうゆが一緒だったら何かと助かるかなと」
「……そういうことなら。トモちゃんに連絡して、明日に変えてもらいましょうか。やっぱり私も……」
「いやいや、いいって!大丈夫だから!いきなり当日に言われたら、トモちゃんさんも困るだろ。いいんだ、友達を優先して。」
「………………はい。すみません、兄さん……。」
そっか、タマちゃんは一緒に来れないのか……。ということは、みぃ君と2人だけ。…………それはそれで、嬉しいかもしれない。タマちゃんがいるのも、楽しそうだけど。ふたり、わたしと、ふたりだけ。みぃ君と一緒、ふたりかぁ……。
「もぐぅ、こくん……。ごちそうさまでしたっ。」
トースト1枚を食べ終えて、両手を合わせる。朝はこれで充分おなかいっぱい……おいしかったです。みぃ君はわたしより少し先に食べ終わって、食器を片付けている。そしてタマちゃんは……わたしが1枚を食べ終わるのとほぼ同時に、トーストの6枚目を食べ終えていた。………………慣れよう。きっと食べ盛りの育ち盛りさんなのだ。健康的で、素晴らしい。うん。
「んじゃコンねーちゃん、出かける準備できたら言ってよ。急がなくてもいいからさ。」
「了解のじゃっ!」
一晩経って、朝を迎えて、あらためて わたしは実感する。
これまでの暮らし方と全然ちがう、まったく新しい生活が。きつね妖、ここのおコンコの初めての───。
人間としての生活が、本当に始まったんだって。




