クレタ聖刻文字の解読
地中海東部の古代文字の研究も、2024年の夏で6年を過ぎた。クレタ島の線文字Aや「ファイストスの円盤」から始まり、キプロスの古代文字に及び、急ピッチで進んでいる。研究の対象は、更にインダス文字にも及び、その経験や知見を活用しつつ、地中海東部の古代文字の解読に役立てている。その一つが、クレタ聖刻文字である。
英国のアーサー・エヴァンズ卿が、クレタ島で発掘を始めるきっかけは、1893年、アテネの市場で象牙や石でできた、絵文字の刻まれたミノアの印章(Minoan seals)の発見だった。現地語で「galopetrais」(乳の石)、「galousais」(乳をもたらすもの)、英語で「milk stones」と呼ばれ、クレタ島の女性が、出産前や産後、お守りとして身に着ける由で、彼は好奇心にかられて出土した場所へ向かい、これがクノッソス宮殿の発掘に繋がった由。
ミノアの印章は多様だが、絵文字が刻まれた物があり、クレタ聖刻文字と呼ばれている。この文字体系では、動植物や人体の特定部位、また生活道具から絵文字が作られており、「地球ことば村」HPで「世界言語博物館・世界の文字」を検索すると、分かりやすい説明が登場する。
クレタ聖刻文字は、ミノア文明の古宮殿時代から新宮殿時代にかけて、具体的には紀元前1800年-前1600年頃に使用され、線文字A(前1800年-前1450年頃)より古いと推定されている。クレタ聖刻文字には、線文字Aやインダス文字と酷似する記号があるが、後者は、両方とも日本語として解読出来るので、クレタ聖刻文字(Cretan hieroglyphics)も、古代の日本語の記録用と考えられる。絵文字の性格の強いものは、Archanes scriptとも呼ばれる。
ついては文献やネットの写真や模写を頼りに、クレタ聖刻文字を日本語として解読したが、成果は取敢えず、次の通り。
(注)文献によっては「ファイストスの円盤」の絵文字も、クレタ聖刻文字に網羅しているが、両者は区別すべきだろう。「ファイストスの円盤」は、おそらく子供用の双六のゲームボードであり、刻印された絵文字は、「特注」で開発されたと考えられる。「アルカロコリの斧」に刻まれた文字も同様である。
1.ネコの印章(飛び出す目玉⇒「めでたい」)
(1) 緑の碧玉の印章
英語版Wikipediaで「Cretan Hieroglyphs」を検索すると、冒頭に緑の碧玉の印章が登場する。刻まれた記号につき、音価を次の通りとする。
(左端)横になったネコの顔なので、NEKO。
(中央)目玉の飛び出しそうな目、あるいは出産の記号で、MEDETAI-ME。
(右側)「印鑑」の記号。インダス文字のNEに似ているので、NE/NEN。左上の3つの小さなマルは、SAN。
(右端)「×」に、隣接する淵の線を加えれば、インダス文字風に、DAI(台)。
左から右へ読めば、
NEKO MEDETAI-ME SAN NEN DAI
ネコ 目出たい目 3 ねん だい
これを右から左へ読めば、「第3年目。目出たい 子ね」、あるいは「3歳になった、目出たい子ね」。
従って、3歳の誕生日を祝うお守りだろう。幼児死亡率が高かったので、子供が3歳に到達するのは、大変めでたく、これが「七五三」の祝いに継承されていよう。
(2) 猫のトーテムポール
ケンブリッジ大学のTorsten Meissner教授による、YouTubeの番組「Some thoughts on Cretan Hieroglyphic」(23:40)に登場する印章。上から下へ、ネコの顔が4つ縦に並び、それぞれ目玉が飛び出しそうに描いてある。
NEKO×4と見做せば、YONE YOKOとなり「4年/人 良い子)で、ネコの目玉は、MEDERUとの表現だろう。従って4歳の誕生日/4人目の誕生、を祝う「カード」やお守りと考えられる。
(3)台の上のネコ
Cats in the Aegean Scriptsで検索し、CREWS Project のサイトに入ると、表題の下に登場する印章は(3つとも)縦長で楕円形。中央にネコがいる。1909年のA.エヴァンズ卿著「Scripta Minoa」の153頁、上から3段目、左側の印章。カーネリアン製なので、赤か橙色だろう。
右側の印章を基準に考察すれば、ネコの周囲で、左側の記号は、腿(MO)、頭上の記号は、線文字AのRE。ネコは、目が出そうなので、NEKO MEDETAI。ネコの右手で、縦長の3回波打つ記号は、KUNE×3。次にネコの乗る台に関し、インダス文字風に読めば、櫛(KUSI)が逆さなのでSIKU。更に印章の色から、全体的に夜(YORU)を表すだろう。
ついては縦長の、波打つ記号は、KUNEを3回、織り込みつつ、ネコの左手から時計回りに、音の重複を避けながら読めば、
MO RE NEKO KUNE MEDETAI KUNE YORU SIKU KUNE。
もれなく、ね。めでたくね。宜しく、ね。
この内容なら、年初に、家族の安寧と繁栄を祈念するお守りだろう。
2.年賀の印章
「From Icon to Sign, Silvia Ferrara」のサイトの6頁に、クレタ聖刻文字の印章が、イラストで8個(上段に5個、下段に3個)登場する。
(1)上段、左から2つめの印章(記号が2つ)
(右側)双斧の記号であり、NENの記号を横にして中央に棒を通したと見做し、NEN-SI。他方、見方を変え、線文字AのA(AB08)の上部中央に、縦棒を加えたものとすれば、A-I。従って、(NEN-SI)/(A-I)。
(左側)釘形の記号で、線文字AのSA(AB31)とインダス文字の「TU」の組み合わせと見做し、SA-TU。
以上、続けて読めば(NEN-SI)/(A-I) (SA-TU)となり「年始の挨拶」。
(2)下段、中央の印章(記号が3つ)
(下)双斧の記号で(NEN-SI)/(A-I)。
(中央)釘形の記号なので、SA-TU。更に矢尻(鏃)の形なので、ZOを加える。
(上)インダス文字風の「木」の記号が、三つ連なるものと見做し、(KI/KO)-(SAN/MI)。
次に、印章の写真を90度、左に倒し、右から左に読めば、
(NEN-SI)/(A-I) (SA-TU-ZO) KIMI/(SAN-KO) となり、「年始の挨拶だぞ。君に、三呼/ 三幸」。
(3)まとめ
以上、年始の挨拶の習慣が窺われて興味深く、NYメトロポリタン美術館所蔵の、尻尾の立つ、石灰岩のオブジェ(紀元前5世紀)に「年の瀬」の挨拶が、キプロス音節文字で記されている事が想起される。
3.良縁祈願・年賀
「Cretan hieroglyphs hi-res stock photos and images」で画像検索すると、最初の段に7つの印章が登場する。(左側の印章は、1909年のA.エヴァンズ卿著「Scripta Minoa」153頁、上から2段目に、右側の印章は、同155頁、上部に掲載)
(1)左上の印章(記号が2つ、横に並ぶ)
(左側)天秤/「やじろべえ」の様な記号で、インダス文字で「RYO」の省略形。3つのマルに着目し、EN(円)とSAN(三)を加えて、RYO-EN-SAN。
(右側)4つの目でYOME。上下に線文字AのKO(AB70)があるのでKOKO。左右の目を繋ぐS字型は、I/YA/SI/NOからYAを選ぶ。以上合わせて、YOME-KOKO-YA。
(総合) RYO-EN-SAN YOME-KOKO-YA(良縁さん、嫁ここや)
「独身女性、結婚相手を募集中」との趣旨だろう。
(2)右上の印章(左端の船を含め、記号が4つ、横に並ぶ)
(左側)船(FUNE)のマストに、三日月が2つ(NI-TSUKI)。オールが7/(3+4)本でNA/(MI-YO)。合わせて、FUNE-(NI-TSUKI)-NA/(MI-YO)
(中央、右寄り)4つの「目」(ME/MA)が、十字に交差する棒(I/YA/SI/NO)で繋がっているので、YO-I-MA。
(右端の近く)長方形のピーマンの様な記号はインダス文字風にNA。
(右端)格子の升なのでKOUSI-MASU。
(総合)繋げれば、FUNE-(NI-TSUKI)-NA/(MI-YO)- YO-I-MA-NA- KOUSI-MASU
「船に月並み、波よ。酔い魔無くします」となり、船酔い止めのお守りである。
(3)左側、中段の印章(上下に2つの記号)
(下) 印鑑(NEN)の把手に横棒(SI)が刺さっているのでNEN-SI。他方、玉が2つあり、男性器を模しているので、KIN-TAMA。合わせてNEN-SI-(KIN-TAMA)。
(上)馬(UMA)と見られる四つ足動物が、下の記号を飛び越えようとしている。頭が男性器を模しているので、NO-ATAMA-NI-KIN-TAMA。合わせてUMA-(NO-ATAMA-NI-KIN-TAMA)。
(総合)NEN-SI-(KIN-TAMA) UMA-(NO-ATAMA-NI-KIN-TAMA)
「年始、来たまう。午年の頭に、来たまう」。午年の到来に際し、男性から男性への挨拶用。12支の使用が垣間見られる。
(参考)12支の原流はインダス文明に
インダスの印章には、12支の動物と関係の深い星座が登場し、12支の文化が感じられるが、インダス文明でも日本語を使ったので、ミノア文明は同じ文化圏であり、クレタ聖刻文字の印章に、12支への言及があっても不自然でなかろう。
〇 東京都美術館・NHK「インダス文明展」(2000~2001年)の図録で、印章(339)には、北極星の象徴として、擬人化されたネズミが登場するが、12支の「子」に相当する。
〇 「子」に続く12支の動物は、インダスの印章にも描かれた、冬の南の動物の星座と一致する。
パルポラ「第1巻:インド」の印章M-304Aには、台に座る高齢者(首長)が登場し、周囲を多様な動物が取り囲む。首長をオリオン座とすれば、すぐ下にウサギ、左手にサイ/一角獣がいるので、冬の南の、動物の星座と一致する。
他方、首長の右手にトラがいるが、パルポラ「第2巻:パキスタン」の「儀礼的場面」の印章(M-1186A)と合わせ考察すれば、右手のトラが首長に襲いかかり、征服した結果、首長は、右手の牡牛座に生まれ変わり、トラがオリオン座の位置に入った、との神話であり、12支の、丑、寅、卯の並びと一致する。
(4)右側、上から3番目の印章(3つの記号が横に並ぶ)
(左端)飛び出す目玉/出産の記号で、MEDETAI。上部に月(TSUKI)、右側に短い斜線が2本(NI)あるので、MEDETAI-TSUKI-NI。
(中央)印鑑の記号(NEN)が、マス目の織物上にあり、NEN-MASUME-ORI。また、左右に上下を結ぶ、計4本の長い縦棒(SI-YA)があり、これを合わせて、NEN-MASUME-ORI-SI-YA。
(右端)インダス文字風の天秤の記号(RYO)で、両側に円(EN)。下の円の内側には小さな円があり、インダス文字風にWOと読む。斜めの支柱は、線文字Aの「穂先」記号の修正形なので、TE-NI。またこれを矢尻と見做せば、ZO。以上から、RYO-EN—WO-TE-NI-ZO。
(総合)以上を繋げれば、
MEDETAI-TSUKI-NI NEN-SI-YA-MASUME-ORI RYO-EN-WO-TE-NI-ZO
「目出たい月(正月)に、念じや。娘おり、良縁を手に、ぞ」。
(5)左側、下の印章(2つの記号が横に並ぶ)
(左側)インダス文字で、歯4本の「櫛」記号(KU-YO)に「台座」(I/YA/SI/NO)が加わった記号として読めば、(KU-YO)+SIあるいはYOKU TO SI。
(右側) イノシシ (INOSISI)。
(総合)合わせれば、YOKU TO SI INOSISIとなり、「翌年は、亥」。年賀の印章であり、やはり12支が引用されている。
4.喪中欠礼
Oxford Journal of Archaeology (2018)から、Roeland P.-J.E. Decorte による、ネット上の論文「The First European Writing:Redefining the Archanes Script」の359頁に掲載の、多数の印章の中で、最下の段、左から2番目。長方形で、大きな記号が3つ刻まれている。(Wiley Online Libraryにも、同イラストが20/39頁に掲載されているが、画像が小さい)
(1)記号の音価
(左側)縦に長い、縄梯子の様な記号で、左側下方に、車輪の記号が付いている。
分析すれば、次の通り。
〇 車輪:KA/2(TUKI)
〇 縄梯子:中央を縦に、3本目の縄(I/YA/SI/NO)が貫いており、インダス文字の「櫛」記号を参考に、KU+(10本の櫛)+SI+(I/YA/SI/NO)、と考える。
(中央)双斧の記号であり、上記2.「From Icon to Sign, Silvia Ferrara」の6頁の印章の場合と同様に、(NEN-SI)/(A-I)。
(右側)縦にした魚/釘の様な記号で、同様に、SA-TU。
(2)解読(左から右へ)
(ア)櫛の数=(7+3)本
「縄梯子」の横木は、上から7本目だけ、左上に向かうので、上部7本、下部3本に区切られている。
KA/ 2(TUKI) KU-NA-MI-SI-(I/YA/SI/NO)
(NEN-SI)/(A-I) SA-TU
KA NA SI KU YA MI (NEN-SI)/(A-I) SA-TU
悲しい悔やみ、年始挨拶。
(イ)櫛の数=(8+1+1)本
「縄梯子」の中央を降りる「縄」は、上部8本の横木の下を通り、底部2本の上を通るので。
KITU-TUKI KU-YA-SI-I (NEN-SI)/(A-I) SA-TU
傷つき、悔しい、年始挨拶。
(3)まとめ
上記の文脈を踏まえて、「年始挨拶」から読み始め、また「縄梯子」の左側下方の「車輪」= 2(TUKI)として調整すれば、次の通り「喪中欠礼」の趣旨となる。
(NEN-SI)/(A-I) SA-TU KU YA MI NI-TU-KI NA SI
「年始挨拶、悔やみにつき、なし」。
この記述で、通常の「年始挨拶」の場合と異なるのは、左側の「縄梯子」記号である。取り敢えず、3本の「縄」が降りてくる姿と考えたが、印章を右に倒し「三途の川」と解釈すれば、「三重の川」(三途の川)に「橋」が10本かかった姿であり、右側の「年始」部分が、この世。「川」の左側下方に付いた「車輪」記号が、川を渡り、あの世に着いた亡者を表す、完成度の高い漫画に見える。
5.良縁と子宝
図説「古代文字入門」(大城道則編著、河出書房新社)の37頁。左下の4つの横長の印章。「Scripta Minoa」の154頁、上部に掲載されたもの。
(1)一番上(大きな記号が3つ):「Scripta Minoa」154頁、上部の(b)。但し左右が逆。
(左側)線文字AのREに相当するが、MITE/SATEと読み換え可能。更に、3つ又の先端を「出目」(DEME)とすれば、MEDE-RE/MITE/SATE。その底部、左右に巻貝状の記号があり、線文字AのKOに相当するので、KOKO。従って、KOKO-MEDE-RE/MITE/SATE。
(中央)「やじろべえ」の様な記号で、インダス文字「RYO」の省略形。左右のマルに着目し、EN(円)とNI(二)を加えて、RYO-EN-NI。
(右側)インダス文字風に読めば、NENだが、把手が木(KI)の形なので、KI-NEN。周囲を3つ、小さなSIME(締め)が取り囲むので、SAN-SIME。合わせれば、KINEN-SAN-SIME。
(総合)以上を繋げれば、KOKO-MEDE-RE/MITE/SATE RYO-EN-NI KINEN-SAN-SIME
「ここ目出てさ、良縁に、記念の3本締め」。
(2)上から2番目(大きな記号が3つ):同(d)。左右が逆。
(左側)3重の円(SAN-JUU/EN)を越えて(KOE)、足(SI)が2本出ており、突端が目(ME)なので、SAN-JUU/EN-KOE-NI-MEDESI。
(中央)「目」の出そうな「出産の記号」なので、MEDETAI。更に、「目」の下側のまつ毛の突起が、(3+5)本あるので、SAN-GO。合わせればSAN-GO MEDETAI。
(右側)把手が木(KI)の形の印鑑(NEN)なので、KINEN。周囲に2つ(NI)のSIME(締め)+3つ(SAN)の小さな「〇」(インダス文字風にWO)+ 櫂/繋ぎ棒(KAI/YA)。合わせれば、KINEN-NI-SIME-WO-SAN-KAI/YA。
(総合)以上を合わせれば、
SAN-JUU/EN-KOE-NI-MEDESI SAN-GO MEDETAI KINEN-NI-SIME-WO-SAN-KAI-YA
「30年を超えて、めでし。産後、めでたい。記念に締めを、3回や」
30歳を超えて出産したので、これを祝賀する印章。当時なら高齢出産だろう。
(3)一番下(3~4個の記号クラスター):同(c)。
(左端)2本の歯で、HAHA。上部に円(WO)が4つ(YO/SI)。接続の縦棒がKAI/YA。従って、HAHA-WO-(YO/SI)-KAI/YA。
(中央、直角に曲がった腕)上腕がNA、先端がTE。上腕の上に、繋がった円(WO)が2つ(NI)あり、接続の横棒が、KAI/YA。合わせて、NA-TE-WO-NI-KAI/YA。
(中央、2重の三日月)月が2つで、TUKI-NI。下部、左側に「締め」(SIME)の記号。合わせてTUKI-NI-SIME。
(右端)全体として花の形なので、HANA。周囲には、4つの目(YO-ME)。中央には大きな目(ME)があり、中心の円(WO)から白黒(SIRO-KURO)と色の入れ替わる同心円である。以上から、HANA YO-ME ME WO SIRO-KURO。
(総合) 以上を繋げれば、
HAHA-WO-KAI/YA-SI NA-TE-WO-NI-KAI/YA NI-TUKI-SIME HANA YO-ME ME WO SIRO-KURO
「母を介助し、何て鬼かいや。2月、占め(飯とオシメに)、花嫁は、目を白黒」。
左端の記号が、「垂乳根の母」を示す。義理の母の介護に専念した、嫁の感慨。右端の大きな「花」は「墓」を兼ねているか。
6.安産祈願
(1)日向数夫編「古代文字」(グラフィック社。2014年初版)。95頁の中段に「4.クレタの紅玉髄印章」として掲載された四面のイラストのうち、右から2番目。(前出「Scripta Minoa」では、157頁の上から3段目、左端に掲載)記号が3つ、縦に並ぶところ、次の通り。
(上)
犬(INU)の頭部。目が大きいので、MEDE。舌を出しているので、SITA。以上から、INU MEDE TASI。
(中央)
直角に曲がった腕(NA/UDE)の記号。手で「爪」を握っているので、TE-TUME。合わせれば、TUME-TE NA/UDE。犬の舌の先に、歯(HA)の記号が書き込んであり、左右が、2本ずつの突起(SI)に分かれているので、YO-SI。以上から、HA YO-SI。合わせれば、TUME-TE NA/UDE HA YO-SI。
(下)
鹿の角形の記号。インダス文字の「櫛」記号をV字形に折った形(KUSI-ORE)と見なせば、右側は5本歯なので、(GO/TE)-KU。左側の角(6本歯)は、ROKU/(SAN-NI)。合わせれば、(KUSI-ORE)(GO/TE)-KU ROKU/(SAN-NI)。
(総合)
以上を合わせて上から下へ、
INU MEDE TASI TUME-TE NA/UDE HA YO-SI(ORE-KUSI)(GO/TE)-KU ROKU/(SAN-NI)。
「イヌ(安産)。めでたしの妻で、腕は良い。嬉しくて、御苦労さん」
犬は、安産で知られる、縁起の良い動物。現代の日本でも、妊娠5か月過ぎの安定期に入ると、戌の日を選び、安産を祈願して神社に参拝する習慣がある。
(2)「Materiality of Minoan Writing」で検索可される、クレタ島・ヘラクリオン考古学博物館のGeorgia Flouda の論文。151頁にクレタ聖刻文字の印章が、(a)~(h)まで掲載されている。
(a) Crete #205。上下、2段に分かれており、次の通り。
〇上段(3つの記号。右から左へ)
-下向く魚:SA。
-髪の長い女性の頭部:大きな斜めの目(ME)+突起2つ(NI)+支えの棒(TUKI)。
合わせれば、ME-NI-TUKI。
-水差し(MIZUKAME)+左下に 「十」(拍手)。
以上を合わせれば、SA TUKI-ME-NI MIZUKAME (拍手)。
〇下段(2つの記号。右から左へ)
-双斧 +「十」2つ:(NEN-SI)/(A-I) + (拍手2回)。
-下向く魚:尾+魚+「目」として、O-SA-ME。
以上を合わせれば、(NEN-SI)/(A-I) O-SA-ME(拍手2回)。
〇総合
SA TUKI-ME-NI MIZUKAME (拍手)
(NEN-SI)/(A-I) O-SA-ME(拍手2回)
「五月目の水甕で、拍手。年始、相収めで、拍手2回」。
妊娠5か月目で安定期に入り、お腹の目立つ女性の年始挨拶と安産祈願。水甕は、安定期の象徴だろう。上段・中央の記号は、女性の頭部から胸。左の水差しの記号が、体形を表現。下段は、右側の記号のクラスターが、赤子の顔を表す。
(f) Gouves Pediados #292。二つの面に記号があり、印章(a)の記号と酷似するが、「十」(拍手)の記号は登場しない。
〇上の面
印章(a)の上段と酷似するが、中央の目(ME)の記号で、支線2本の位置が異なる。印章(a)の場合と同様に読めば、
SA TUKI-ME-NI MIZUKAME (五月目に、安定の水甕)
〇下の面
印章(a)の下段と同じ記号が、左右逆に並ぶ。同様に読めば、
(NEN-SI)/(A-I) O-SA-ME (年始、相収め)
〇総合
以上から、「五月目で、安定の水甕。年始、相収め」。
上の面では、中央の記号が、長髪の女性の、顔の左半分の漫画となり、頭に角が生え、目を吊り上げている。左側の水甕の記号では、把手が、自分の腹を指し示す様に描かれている。下の面では、左側の肥大化した双斧の記号が、太鼓腹を表すのだろう。
印章(b)、(c)、(e)にも水甕が登場し、酷似するので、同じ趣旨だろう。特に印章(c)の下段には、3つの台が登場し、「五月目に水甕で参内」と読めるが、日本では、妊娠5か月目で、水天宮に安産祈願のお参りの習慣がある。
これらの印章については、アテネでエヴァンズ卿がmilk stones を発見した際、クレタ島の女性が「出産前や産後、お守りとして身に着ける」と説明した事と符合する。
7.子供の誕生
Martina Trognitz の論文「A Graph Database of Aegean Seals with Uncertain Attributes」を検索すると、3.4章の末尾、Fig.5として、長方形のクレタ聖刻文字の印章「CMS II,2 316」の各面が、イラストで掲載されており、4つの面のうち、右から2つ目。
この面では、右端から約3分の1の地点で、上から垂直に切り込みが入り、その右側は、もやもやとして、判然としない。この切り込みの左側に、大きく分けて2つの記号があり、こちらを対象に解読する。
(1)音価
(ア)右の記号
〇 上部、鳥が翼を広げた様な記号:線文字Aの類似記号から、RE/MITE/SATE。
〇 下部、乳首/歯が2つ並ぶ記号:TITI/HAHA。
合わせて、RE/MITE/SATE - (TITI)/(HAHA)。
(イ)左の記号
〇 上部の×印:線文字Aの類似記号から、KE。
〇 中央、大きなY字型:線文字Aの類似記号から、SA。
〇 Y字型の中央で、左右を結ぶ、2本の横棒:NI。
〇 Y字型の右下、2つの小円。加えて、Y字型の左下、2つ繋がった小円:
両者を加えて、4つの小円+ 横棒と見做し、YO-I。
〇 Y字型の左側に付いた筒型:インダス文字風に、TUTU。
〇筒型の上に付いた、小円:インダス文字を参考に、WO/WA。
以上を合わせれば、KE SA NI YO-I TUTU WO/WA。
(2)解読(左から右へ)
KE SA NI YO-I TUTU WA/WO RE/MITE/SATE-(HAHA /TITI)
〇 今朝/産気 に 酔いつつ、俺見て、母と父。
(3)まとめ
合わせれば、「今朝、産気に酔いつつ、俺を見て、母と父」となり、「俺」とは新生児であり、子供の誕生劇と判明する。
この文脈から、印章の右側の、判然としない模様を漫画と捉え、印章を左に倒せば、左側を向いて、うつぶせになり、腰の辺りを枕形の支えで持ち上げ、出産に臨む妊婦の姿が見えてくる。
8.総括
以上の様に、クレタ聖刻文字の日本語解読は、短期間で予想以上の成果を生んだ。注目すべきは、線文字Aに加え、インダス文字の音価が随所で役に立った事だが、インダス文字が線文字Aより古い事に鑑み、インダス文明を経験した日本語グループが、気候変動等によりクレタ島に移住し、土着の日本語グループと合流した形跡とも見られ、興味深い。
なおA.エヴァンズは、既出の「世界の文字」のサイトに掲載の通り、クレタ聖刻文字を135種類に分類したが、以上から判明した音価は次の通り。
5番 飛び出しそうな目玉/ 出産の記号 MEDETAI-ME。
11番 腿 MO
18番 印鑑 NEN
24番 長方形のピーマン NA
27番(左) 逆「V」から伸びる「腕」が「バトン」を握る。 TI-TO-TUKI-(I/YA/SI/NO)。
30番 牛の角形。(線文字AのAとRUの合成) A/RU
36番 双斧 (NEN-SI)/(A-I)
40番 水甕 MIZUKAME
57番 船 FUNE+(オールの数)
60番 下向く魚(線文字AのSA) (ME-NI- I/YA/SI/NO)/SATUKI
73番 目が大きく、舌を出す犬の頭。 INU MEDE TASI
75番 座るネコ NEKO
92番 線文字AのRE (13番は上下逆さ) RE/ MITE/ SATE
133番 36番を線文字A風に抽象化 (NEN-SI)/(A-I)