ヤンデレだけどポンコツな幼馴染みちゃんと、ハイスペックで彼女の世話係的な幼馴染みくんの話
大好きな彼と両思いになりたい幼馴染みちゃん「にわか雨が来たッ!」→相合傘作戦を実行し、ラブラブになれると思っていた結果
放課後の教室。
「あ、雨が降ってきた……」
りゅうくんが外を見て、呟きました。
たしかに雨がざぁーざぁーと降っています。
このままでは降り止む可能性は極めて低いかも。
クラスメイトも「あー雨か」とか「どうして雨がー」とか言っています。
それもそのはず、今日は元々晴れの予定だったのにー。
突然の雨というのはお困りものなのです。
「し、しまったな。今日は傘を忘れたのに……」
頭を掻いて、あたかもしまったという顔でりゅうくんが言います。
クラスの人たちもみんながみんな、雨を恨む気持ちを抱くなか、あたしだけはガッツポーズです。
むふふふふ、これをこの日をあたしは待っていたのですー!
にわか雨が降れば……流石のりゅうくんでも対応できないのです。
しかしー。
なのですよー。
抜かりのないアカリちゃんはいつもいつも折り畳み傘を学校に持ってきているのです。えっへん、とっても偉いのですー。
むふふー今日は二人で相合い傘をして帰るのですよー!
だ、だから……このままなら……むふふふふ。
『このままじゃあ……濡れて帰ることになるなー』
『むふふふふ、りゅうくんあたしは傘を持ってきているのですー! 一緒に帰らないですか?』
『えっ? いいの?』
『大丈夫です。むしろ、りゅうくんなら大歓迎です』
『気が利くなー。やっぱり僕の将来のお嫁さんは違うなー』
『えっ? りゅうくん? 今、なんて?』
『だ、だから……僕の将来のお嫁さんは気が利くなーってさ。あ、ごごめん』
「むふふふふふふふふふ……良いのです良いのです。最高なのですー!」
何度も何度も脳内シュミレーションしたのに、ニヤケが止まらないのですよ。
「雨が滴るけど、隣り合う二人の体温はさらに高まって……あぁー考えただけで興奮するのですー!!」
「な、何を言っているのよ。アカリ」
「えぇ?」
我に返ると、両手で鞄を持つサナちゃんがいました。
他のクラスメイトはもう教室から居なくなっています。
濡れるのを覚悟して、下校を決意したのかな?
「あれ? りゅうくんは?」
「あー兄さんならもう帰ったわよ」
「え……でも雨が降ってますよ」
「マサトくんの傘に入れてもらうんだってー」
マサトくんとは、りゅうくんのお友達なのです。
茶髪で耳にピアスをしてるチャラ男っぽい人です。
一部の女子に人気があって、そこそこモテてると聞いたことがあります。
あたしはちょっとだけ苦手なのです。
「あううー。それでは困るのですー」
「ど、どうして?」
「相合い傘が……あわわわわ、何でもないのですー!」
あたしは一番の親友である、サナちゃんにさえ『りゅうくんが好き』だということを明かしていません。本当はサナちゃんに相談してもいいと思うのですが……『りゅうくんが好き』という気持ちを誰かに教えるのはとってもとっても勇気がいることなのです。
だ、だから……まだまだあたしの心の整理が付くまでは言えないのです。
「あー。なるほど」とサナちゃんは意味深に呟きました。
りゅうくんが先に帰ったということは仕方ありません。今日はサナちゃんと一緒にガールズトークをしながら帰ることにします。
「サナちゃん。一緒に帰ろ」
と言ってみたのですが、サナちゃんは僅かに目線を下げて。
「あぁ、ごめん。実はりっちゃん先生に急な呼び出しをされてるのを忘れてた」
と言って、教室を一目散に去っていきました。
あううー。りゅうくんにも逃げられ、さらにはサナちゃんまで。
あたしは一人で下校することになるのですー。あううー。
せっかく、今日は傘を持ってきたというのにー。
下駄箱で靴に履き替え、傘を出そうとします。
「お、おかしいのですー」
か、傘がない。絶対に入れておいたのにー。
何故か傘がないのですー。こ、これでは……濡れて帰ることになるのですー。
あううー。本当に困ったのですー。
いくら探しても……傘が見つからないのです。
あ、そういえば。朝からどうせ今日も降らないだろうからと思って……あのまま玄関に置いてきてしまったのですー。あうー。ずぶ濡れで帰りたくはないのです。もう、サナちゃんを待っておくしかないかな?
「あれ? アカリ。まだ学校に残ってたんだ」
声がする方を見てみます。
そこにいたのは傘をさしているりゅうくんでした。
「えっ? どうしてりゅうくんが?」
「あぁー実は教室に忘れ物しててさ。それでアカリは?」
「あ、あたしは……傘を忘れてしまったのです」
「なるほど。じゃあ、少しだけ待ってて。教室から忘れ物を取ってきたら、一緒に帰ろう」
「……いいのですか?」
「うん。いいよ。一緒に帰ろ」
それからりゅうくんが忘れ物を取って、戻ってきた。
二人で相合い傘をしながらの下校。
緊張して胸が張り裂けそうですが、とっても幸せです。
でも一つだけ気になっていたことを尋ねてみることにしました。
「でもりゅうくん。今日は傘を忘れたとか言ってませんでしたか?」
「マサトが貸してくれたんだ。マサトの家は学校から近いからさ」
「なるほどなのですー」
マサトくんは良い人なのかもしれません。
そ、それにしても……りゅうくんと相合い傘だなんて幸せなのですー。
ほんの少しだけ肩が当たるだけで意識してしまうのですよー。
「あううー。雨に濡れたらダメだからもっとりゅうくんにくっつくです」
「あはは……アカリは甘えん坊だなー。風邪は引いたらダメだからね」
「分かってるです。絶対引かないです。最近は学校が楽しいから」
◇◆◇◆◇◆
相合い傘をして帰った翌日。
りゅうくんは授業開始時刻になっても学校には来なかった。
一時限目が終わり、あたしはサナちゃんの元に駆け寄ります。
「サナちゃんー、今日りゅうくんはどうしたのですかー?」
「あぁー兄さんは休みよ。休み」
「ええー。あのりゅうくんが休み……。そんなに体調が悪いんですかー?」
「アカリ、別に大丈夫よ。ただの風邪だから」
「えー。あ、あの……りゅうくんが風邪」
信じられないのですー。りゅうくんは病気や怪我とは縁がないと思っていたのですー。
そ、それなのに……りゅうくんが風邪とは。
「そう。風邪……兄さんはカッコつけすぎなのよぉ」
「えっ? カッコつけすぎ?」
「あぁー。べ、別に気にしないでいいわ」
「そう言われると気になるのですー。教えて下さいなのですー!」
サナちゃんは「ううっ」と目を反らしますが、逃しません。
「教えて下さいなのですー!」
「わ、分かったわ。教えるから……ちょっと離れて」
サナちゃんに静止され、前のめりにしていた身体を戻します。
「離れたのですー。教えてなのですー」
「ぜ、絶対にこれ兄さんには言わないでね」
サナちゃんは話し始めます。
「アカリ、昨日兄さんと一緒に帰ったでしょ?」
「……は、はい。帰ったのですー」
思い出しただけで……ほおが緩んでしまうのですよ。むふふふふ。幸せな気持ちで満たされるのですー。
で、でもどうしてそのことが関係するのか……。
「実はね、昨日兄さん右肩だけ濡れて帰って来たのよ。で、傘を持っていたはずなのにどうしてなのかって聞いてみたの。そしたら……アカリが風邪引いたら困るからと思って、傘をアカリ側に寄せていたんだってよー」
「…………」
「あ、アカリ? どうしたの?」
「ま、またあたしはりゅうくんに迷惑をかけてしまったのです。あたし、気が付かなかったのです」
自分だけ相合い傘なのですーとか思って、浮かれていたのです。
で、でも……りゅうくんは。
いつもいつもあたしはりゅうくんに迷惑をかけてばっかりなのです。
「本当、あたしはダメな女の子なのですぅぅ」
「大丈夫よ。アカリ」
安心してと、サナちゃんが肩に手を置きます。
「で、でも……」
「そんなに気になるなら兄さんのお見舞いにでも来る?」
「あ、あたしが行っても……また迷惑をかけてあううー」
サナちゃんが両手であたしのほおを押さえつけます。
そのせいで、「あううー」とタコさんみたいな唇になってしまいます。
「アカリは考えすぎよ。兄さんは絶対喜んでくれるから大丈夫よ。それにアカリが来てくれれば……兄さんはすぐに元気になるって」
その後サナちゃんに説得され、あたしはお見舞いに行くことに。りゅうくんにしっかりと謝らないといけないのですー!!
◇◆◇◆◇◆
放課後。
サナちゃんに連れられ、りゅうくんの家(サナちゃんの家でもある)まで来てしまいました。
と言っても、りゅうくんの家は隣なんだけど。
りゅうくんの家は庭付き二階建て。
立派な一軒家なのです。あううー。
あたしも将来的にりゅうくんとこんな家に!!
「サナちゃん、あたしも本当に入っていいですか?」
「何を弱気になってるの。大丈夫だって」
サナちゃんが背中を押してくれ、そのまま家に入ることに。
家の中はりゅうくんの匂いで充満。
あたしは胸いっぱいに空気を吸い込み充電中。
「ただいまー」
「お、お邪魔します」
久々のりゅうくんの家です。小さかった頃は毎日のように来ていましたが、中学生になってからちょっとずつ来ることはなくなりました。
それはやっぱり、りゅうくんを意識し始めたからかな?
「私、今から兄さんのところに行ってくるわ。だからちょっとだけ待ってて」
サナちゃんに指示され、あたしは玄関の前で待つことに。
あううー。それにしてもりゅうくんの家は久々なのです。
もっと違う形で来たかったのです。
それからすぐに、サナちゃんが戻ってきました。
「大丈夫だって。ほら、行こっ」
「は、はいなのです」
あたしは靴を脱いで、りゅうくんの部屋がある二階へと階段を上ります。部屋のドアには『りゅう』と書かれたプレートが吊るされています。
昔と全く変わらないのです。何だかちょっぴり嬉しい。
トントンとドアをサナちゃんが叩きます。
「兄さんー。入るわよー」
「という前に入ってきてるけどな」
りゅうくんは笑っています。
ベッドから身体を起こし、後ろにもたれかかっています。
マスクを付けずにそのままの素顔。見る限りは元気そう。
あたしは恥ずかしくなって、サナちゃんの後ろに隠れてしまいます。
あううー。今日のりゅうくんもかっこいいのです。
「ほらっ、アカリ。恥ずかしがらずに……」
サナちゃんに諭され、あたしは少しずつりゅうくんに近づきます。勇気がちょっぴり必要です。ぺこりと頭を下げて。
「りゅうくん。ごめんなさいなのですー。あたしのせいで、りゅうくんは風邪を引くことになって。本当にごめんなさいなのです」
「アカリ……顔を上げて」
言われた通りにし、りゅうくんを見つめます。
「サナから話は聞いたよ、アカリ。僕が風邪を引いたことを心配してくれたんでしょ。僕はそれだけで嬉しいよ。それにお見舞いにも来てくれて」
「で、でも……りゅうくんはあたしに傘を」
「いいんだよ、アカリ。僕はアカリが風邪を引かなかっただけでばんばんざいだよ」
「で、でもあたしはりゅうくんに」
「考えすぎだよ、アカリ。僕のことを思ってくれるのは嬉しいんだけど……。僕はアカリのことが心配だよ。アカリはいつもいつも気が利きすぎて、一人で考え込むタイプだからさ。もっと僕を頼ってもいんだよ」
「で、でも……あたしが」
「僕たちは幼馴染なんだからさ。もっと僕を頼ってよ。もっと迷惑をかけてもいいんだよ」
「もちろん、私も頼ってね。アカリ」
サナちゃんも言ってくれました。
あたしは考え込むタイプなのです。それは事実なのです。
「分かったのです。りゅうくん、サナちゃん。あたしは本当に良い幼馴染を持ったのです」
三人で顔を見合わせ、笑みが漏れてしまいます。
何だかとっても幸せな気持ちになるのです。
それに懐かしいのです。
「ところで、風邪の容体は大丈夫なのですか?」
「僕は大丈夫だよ。アカリが来てくれたからかな」
りゅうくんが爽やかな笑顔でさらっと言いのけます。
本当にりゅうくんは冗談が上手なのです。
だけど、あたしはそんな冗談でも胸のドキドキが鳴り止みません。あううー。今日もりゅうくんに会えてハッピーですー。