異世界に行かないか?
とあるVRMMORPG
「そっちに行ったよ!」
トリケラトプスをモチーフにしたモンスターが大きなハンマーを構えるキャラクターのほうへ向かって突進をしていく。
「翠さん、防御は任せますよ」
ハンマーのキャラクターの友人から返事が聞こえる。
モンスターが仲間に接近する直前に呪文を唱える。
「キューブ!」
モンスターと仲間の間に半透明な立方体が現れる。モンスターは突進の勢いの立方体に直撃して、宙に舞う。
「止めです」
宙に舞ったモンスターは大きく振りかぶったハンマーをぶつけられて霧散した。
「お疲れ、これでクエスト達成?」
労いの言葉をかけて友人に近づく。ハンマーを操作するこのキャラクターは会社の同僚の荒殿。
「お疲れ様です、おかげ様でクエスト達成です。助かりました。」
「じゃあちょっと休憩だね。そういえば岡島は?今日ログインするって言ってたよね?」
「言ってましたよ。そもそも岡さんはニートだからいつでも暇なはずです!」
「お前それ本人に言うと殴られるよ。」
「いないから大丈夫ですよ!!」
「ところがどっこい、それがいるんだよなぁ、あ・ら・ど・の・く・ん?」
俺たちの背後から声が聞こえた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
「斥候役を甘くみないでもらおうか。それにフレンド登録してあるからどこにいるかもわかってるんだ。お前はバカだな。」
「だとしてもこんなに近くにいるとは思わないじゃないですか!」
「まぁとりあえず、一発いいか?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!言葉の綾じゃないですか!」
「どこが言葉の綾だ!悪口だったよな?!」
一方的に荒殿が悪いのだからしょうがないけども、このままじゃ終わらないな。
「まぁ二人とも落ち着きなよ。基本的に悪いのはいつも荒殿なんだから。」
「ひどい!」
「いつも一言多いんだよコイツは!」
「とりあえず、岡島もお疲れ。」
「お疲れさん、まぁ家でゴロゴロしてただけだけどな。そっちの方はどうよ?仕事忙しい?」
「自分のとこは程々だけど荒殿がいるところは聞いてると結構ブラック過ぎるよ。」
「そうなんですよ、岡島さんも聞いてくださいよ!」
「早く俺みたいにやめちゃえばいいのに。」
「ですかねぇ、僕もやめちゃおうかなぁ。」
岡島も元同じ会社の同僚にあたる友人で、新卒で入社した時からになるので3年ほどの付き合いだ。趣味が合い、入社してすぐに二人と仲良くなり、今ではこうして仕事が終わった後や休日にVRMMORPGで遊んでいる。
「アニメや小説みたいにゲームの世界や異世界に行けたら、あんなクソ上司の為に仕事しなくて済むのになぁ。毎日毎日ぐちぐちぐちぐち文句ばっかりで自分は何もしないで踏ん反りかえってるだけなんだよ?このハンマーで叩き潰してやりたいよ」
「おおう、、、結構不満溜まってるじゃん。」
「毎日あんな上司の相手してみてくださいよ。ほんとに殴りたくなってきますから。」
「翠の方はどうなん?順調?」
「特に大きな問題はないよ。」
「翠さんのとこは美人な上司で日本語通じるからいいですよね。僕のとこは日本語通じないからもうダメです。」
「言葉の端々が尖ってるな。」
「あんなのが上司で自分よりお金貰ってると思う反吐が出ます!チェンジでお願いします!」
「俺たちに言っても意味ないぞ。」
「その願い叶えて進ぜよう」
「「「えっ」」」
急に目の前が白い光に包まれた。
光はすぐに収まり、目を開けるとそこは見渡す限りの真っ白な空間と髭を生やした仙人のようなおじいさんがいた。
「ここは?」
岡島が目をこすりながら問いかける。
「ここは世界と世界の狭間じゃよ、お前さんたちの願いを叶える為に連れてきたのじゃ。」
「あなたは何者なんですか?」
「簡単に言えば神じゃよ。」
「まじかよ、神なんているのかよ。」
「噓かもしれないですよ?」
二人も驚きながら周りを見渡している。
「いきなりここに連れて来られて私は神じゃと言われても信用しないのはわかるぞ。まぁだがしかし、お主たちの願いを叶えようと思っての。」
「何のために?」
「世界のためじゃよ。」
「えっ、じゃあ世界に影響与えるほど僕の上司はクソってこと?」
「お主の上司は関係ないぞ。」
「えぇー、願い叶えてくれるんじゃないんですか?」
「わしが叶えるのはそっちではない。アニメや小説みたいに異世界に行きたいと言っておったじゃろ。それじゃよ。」
「なーんだ、そっちか。」
「いやそっちじゃなくてもこの状況やばいだろ。夢でも見てるか?」
荒殿はこの状況を理解してるのか分からないが普段道理アホなことを言ってるが、岡島はそんな荒殿にツッコミつつも事の異常さを理解はしている。しかし、三人揃って同じ夢を見ることは多分ないだろう。夢にしては意識や視界がはっきりしているし。
「つまり神様は私たちを異世界に連れてってくれるんですか?」
「そのとーりじゃ」
「テンプレきましたね。」
「テンプレだな。」
二人ともテンプレとか言わないでよ。もっと異常事態ってことを理解してほしいんだけど。
「何故そんなことを?」
「その世界をより良い環境にするためじゃよ。」
「私たちが行くことによりよくなるんですか?」
「お主達がその世界へ行けば自ずと文明レベルが上がっていく。それが目的なんじゃよ」
「さすがに三人で文明レベルを上げるのは無理なのでは?どのような文明レベルか知りませんが、、、。」
「心配しなくともよい。何かしてほしいわけではない。お主達が行くだけでいいのじゃ。何もしなくとも大きな時間の流れの中では格段に良くなる。それだけで長い年月を見たら文明レベルが上がるのじゃ。もちろんそなたら世界の技術や知識を使って異世界で好きに生活しても良いぞ。より文明レベルが発展するからの。」
「なるほど、ただ行くだけでいいならデメリットはないですね。魔王倒して欲しいとか言われたら困まりましたけど。」
「因みに、どんな世界に行くんですか?」
荒殿が尋ねる。
「お主達が今やっていたゲームと同じ世界じゃよ、細部は違うかもしれんが大体同じと思ってくれてよい。」
「ゲームの世界じゃ文明レベル低そうですよね。魔法のおかげで便利なところもありそうですけど。」
「お主達が異世界に行っても苦労せぬようにするから、どうじゃ?」
神っぽい人はどうしても異世界に行って欲しいそうだ。
「どのようにしてくれるんですか?」
「まずは異世界ですぐに死なないようにお主達のゲームで使っておるキャラクターのレベル、スキルをそのままにしよう。魔物とかがいる世界じゃからの。腕っぷしは必要じゃ。」
ゲームの世界と同じなら街の外に出れば魔物がいて、ダンジョンがある世界になる。また、現代日本と比べたら治安も悪いだろうしなぁ。
「次に生活に困らないようにひと月分の生活費を。お主達が所持している金額をそのまま持っていかれるとさすがに街や都市の金融バランスが崩れかねないのでそこはゆるしてくれ。」
自分たちはこのゲームのトッププレイヤーではないけど、全体からみればそこそこ強い部類に入るだろう。そんな3人の所持金を合わせたらまぁ小さな町を傾けるくらいはできてしまうのか。
「持ち物も今装備している、武器、防具だけにしてもらう。それらがあるだけでどうとでもなるはずじゃ。」
ダンジョンで手に入れたエリクサーとかは持っていけないのか。それがあれば万が一大けがしたとしても安心だったんだけど。
「お主達がその世界へ行けば強い部類に入る。冒険者になれば腕っぷしだけで生活できるだけの力もある。困ることはないじゃろう。どうだろうか?」
「その世界に行ったら元の世界には帰れないですよね?」
「もちろん、そうなるぞ。」
「二人はどう思う?」
岡島と荒殿に問いかける。
異世界に行けば文明レベルが低いけど難なく生活はできるだろう。神っぽい人の話が本当であるのなら。ゲームみたいな生活するのは悪くない。魔法とか面白そうだし。
「僕は異世界に行くのありだと思ってる。クソ上司はいないし、絶対こっちの世界より楽しそうだし。」
荒殿は笑顔でそう答えた。
「岡島は?」
「俺もありだな。胡散臭いけど。ニートで親のすねかじって生活している身だから家から出てった方が親の為にもなるしな。」
二人とも意外と行くことに抵抗はないみたいだ。
「翠さんはどうなんですか?」
「二人がいくなら行こうかな、楽しそうだし。」
「俺たちと違って仕事がないわけでも環境が悪いわけでもないのにいいのか?」
「いいよ。人生一度きりだし、楽しそうな方を選んだ方がいいでしょ。」
「では、決まりかの?異世界に行ってくれて助かるぞ。最初は目の前に見える街へ行くとよい。お主達の人生に幸福があること祈っておる。さらばじゃ。」
こうして3人の異世界生活が始まった。