とある惑星人類の場合4
「アルドシア・フェブリス、か」
白髪の頭を撫で付けた初老の男が革張りの椅子に深く腰掛けながら、電子機器に不得意が故に秘書から紙で手渡された情報に目を通していた。
特に目を瞠るのは戦争の二文字。
男が若かりし頃、未開発の天然資源を巡って領土戦争が起きたが、それとは比べものにならない規模となるのは想像に難くない。
「ようやく暗雲が晴れそうだ」
多くの血が流れるであろうことは無論、男も理解している。
しかし、為政者である男にとって此れはメリットの方が大きかった。
過去、資源を巡り争う二つの国々をそれぞれの友好国が支援した際、戦争終決後には立て続けに軍備を強化し財政に多大な負担を強いたことで傾いた両国に対し、支援を行った国々は戦争特需によって多大な利益を得たのだ。
それを武器商人だった大伯父を通して強く記憶に刻まれている男にとって、戦争とは儲かるものだという認識が強かった。
更に五年程前に小国ではあるものの、三つの国が立て続けに財政破綻したことを発端に世界的な経済不況に陥っている現状の打破として、戦争はこの上ないものだった。
「問題はどの国を矢面に立たせるかだな」
自身の立場を危険にさらさない為にも、可能な限り自国の人命を失わずに利益を得る方法はかつてと同じく他国への支援を行い、更に戦後の復興支援に介入すれば、さらなる利益を齎すことが出来るだろうと男は考えた。
しかし、利益を得る為にも矢面に立たせる国は自国に取って都合が良い国を選ばなければならない。
新興国家を矢面に立たせることが出来れば疲弊させ、自国の優位性を確立させることが出来る。また、主要な産業面で競合している国に対して行えば莫大な恩恵を得ることが可能だろう。
「国際法違反を行ったとして、適当な国を叩き潰すという手もあるか」
自国の利益のため非情になることは為政者にとって重要な素質ではあるが、この男もまたアルドシアほどでは無いにしても、少々道徳倫理の欠けた人物であった。
「まあ、イカれた兵器を使う者達を相手に進んで戦争を仕掛ける国もそういまい」
そう感想を口に出しながら、男の脳裏には些か為政者としては気の弱いとある国の首脳の姿が浮んだ。
「手を挙げる国がいなかった際に担ぎ上げるのは奴の国にするか」
口の端を上げ顎を撫でながら、これから先で行われる外交でどのように立ち回るのが良いか思案に耽た。