叶わないから夢でした
完全オリジナルの一次創作小説です。
獅子宮に起こったたった一度の重大事件。それを知る数少ない人物、蟹座のメレフが回想形式で語っていくお話です。
都合のいいおとぎ話に夢を見ていた。ただこの日常が続けばいいと思っていた。
――だが、夢は夢でしかなかった。
「……!何だこの揺れは……!?」
ある日、突然獅子宮が音を立てて揺れ、壁や天井が崩れてきた。
「みんな大丈夫か!?」
「ええ、なんとか……」
ルヴェリエや他のみんなと互いに声を掛け合う。とりたてて大きな被害は無さそうだと安心したのもつかの間、誰かが叫んだ。
「始星様の部屋が塞がれてる!!!」
振り返ると、後ろは瓦礫が山となり道を塞いでいた。はっとしたその時、彼がいないことに気づいた。
「師匠も見当たらねぇ…!ちょっと俺が行って見てくる!」
「ちょっと!メレフ!!!」
俺を呼ぶ声は無視して瓦礫を崩し、進んでいく。
「始星様!師匠!どこですかー!!」
大声で二人を呼ぶが、返事はない。大丈夫なのだろうか。心配になって何度も二人の名を叫んだ。
瓦礫が邪魔で仕方がない。
「はぁあっ!!」
魔力をためて瓦礫に向けて放った。道が開けて、始星様の部屋の扉が見えた。
「始星様……!」
思わず大事な人の名を呼びながら俺は駆け出した。扉を開けようとしたら鍵がかかっているかのように固く閉じられていた。鍵なんてついてないはずなのに。急に怖くなって扉を叩いて叫んだ。
「始星様!!大丈夫ですか!そこにいるんですよね!?」
俺の必死の叫びが届いたのか、突然扉が勢いよく開いた。バランスを崩して前に倒れる。やおら起き上がって目を開けたとき、俺は目に映った光景が理解できなかった。
「……え」
上ずった声が漏れた。そこには確かに師匠と始星様がいた。しかし、師匠の様子がおかしかった。
俺の師匠・シャウラは他の誰よりも敬愛していた始星様に手をかけようとしていた。
「し、しょう……?」
恐る恐る呼ぶと、ゆっくりこちらを振り返り、“そいつ”は冷たく微笑んだ。
「邪魔が入ったか……始星様、いずれまた。」
そう言ってそいつはどこかに消えた。それと同時に始星様が倒れてしまったため、俺は慌ててルヴェリエのもとに運び出した。
――あの時、師匠シャウラの格好をした赤髪黒服の男はのちに反逆者・アラクランとしてその名が知れるようになった。その日から師匠の行方も分からなくなり、俺の新しい師匠はラートスの姐さんになった。あれから時折、姐さんは俺を見て悲しそうな顔をするようになった。それを見ると俺も胸が苦しくなる。すべてあいつのせいだ。
いつか、ヘラヘラと薄っぺらい笑みを浮かべた師匠が帰ってきて、またみんなで楽しく平和な日常を取り戻せる――そんなおとぎ話のハッピーエンドみたいな日が来ると夢を見ている。そんな日は来ないことなどわかっていても。