サイのスケッチ
のそのそと巨体を揺らしながら木陰に移動してきたサイが、岩の上に重ねられた草を食んだ。舌を器用に使って葉を口に入れると、唇が波打ち、顎は細かに上下し始める。続けざまに二口、三口と食べると、また、のそりと歩き出した。
足が持ち上がり、接地するたびに、皮膚にある皺が引っ張られ、寄せられる。人体にはないダイナミックさ。皮膚が持つ鎧のような硬質さが、離れていても伝わってくる。
私の頬を汗が流れた。リュックからスポーツ飲料を取り出し、一息に飲む。ぬるく甘い液体は、それでも潤いと清涼感を与えてくれた。手の甲で汗を拭い、大きく息を吸うと、草と土と糞の匂いが流れ込んでくる。不快感は無かった。
サイの体を仔細に眺めてみると、実に面白かった。肩にイボイボとした突起もあれば、足や横腹は鱗がついているようにみえる。耳はロバに似ていて、耳先の茶色の毛が、たんぽぽの綿毛のように揺れるのだ。太い首は皮膚が蛇腹上になり守っている。目は小さく、丸く、可愛らしい印象すらある。
そして、そのサイには角が無かった。
本来角があったであろう場には、鈍く光る不格好な隆起があるだけだった。
取られたのだろうか? 分からなかった。断面が滑らかなことから、角がなくなったのは最近ではないのだろう。でも、どうして。
しかし、私の関心とは無関係に、角なぞ最初から無かったように、サイはのそのそと歩くのであった。