雪を踏む
起きると雪が降っていた。
窓際に立ったまま、少しの間外を眺める。
風に煽られ、舞い落ちながら雪はアスファルトを濡らしている。雪化粧した木々や地面が少し眩しい。いつもとは違う風景は、新鮮で清らかな印象を与えた。
清廉潔白。そんなイメージ。
いつまでもぼうっと見ているわけにもいかないので、電気ケトルでお湯を沸かす間に卵とウインナーをフライパンに放り込み、朝ごはんの準備をする。
温かい茶を飲むと、思考がじんわりと浮かび上がってくる感覚がした。同時に空腹を自覚する。朝食の準備を終え、外を眺めながら、即席味噌汁、目玉焼き、ウインナー、プチトマトと白米を頬張る。
私が住んで来た場所は、年に二、三回しか雪が振らない。
雪にウキウキした時期もあれば、移動が面倒だと思った時期もあった。
そのときどきで感じ方が違うのは、すこし面白い。それが成長なのか、あるいは何かを失ったからなのか考えてみたが、わからなかった。
片付けをして歯磨きと身支度をし、外に出る。
鋭い紙で肌を撫でられたような感覚が走った。思わず身震いをする。アスファルトは濡れてはいるが、凍っている箇所はなさそうだった。
寒いと歩くのが早くなる気がする。早く温かい場所に行きたいし、体を動かしたほうが温まるからだろう。
早足で歩く中、土に積もった雪にふと目を留めた。歩道の植物が植えられている箇所には、誰も触れていない雪が残っていた。
私は思わず足を雪に向けた。
踏んでみるとさほど抵抗もなく靴は沈み、雪の結晶が圧力で崩れる音と、土の感触が伝わった。そのまま歩く。
ざくり、ざくり。
ぐっ、ぐっ。
小気味良い音が楽しく、私は路傍にある雪を見つけては踏んで、ゆっくりと駅に向かった。