海のスケッチ
撮影した写真を眺めながら情景を思い出すと、否が応でも自分の変化を感じるように思います。
曇り空の下、堤防に設置された階段を登る。砂利を含んだコンクリートには所々に苔が生え、どことなく陰鬱な印象を私に与えた。
一メートルほどの階段を登り終え、堤防の上に立つと、眼前には海が広がっていた。白と灰色の混じった空のどこかぼんやりした印象に対して、海は力強く存在を主張している。空と海の境ははっきりと分かたれ、紺青の波が続いていく様は、きらびやかな美しさよりも海の持つ荘厳さを感じさせる。
涼やかに耳をくすぐる風にはかすかに潮の匂いが混じっている。周期的に繰り返される波が立ち騒ぐ音が心地よかった。
テトラポッドには波が打ち寄せ、白いあぶくを生み出しては消えていく。
しばらく眺めていると、雲の隙間から光が指している箇所があることに気づいた。
光芒だ。
光のカーテンはやわらかく海に降り注ぎ、色彩を豊かにしていた。遠景に望む山陰を霞ませ、より神秘めいた存在に仕立てている。
海の紺青と深碧、空と光が織りなす錫色と白藍色のコントラストは、強い印象を私に刻みつけた。
幾枚かの写真をとって満足した私は、ゆっくりと堤防を後にした。