チューペット
冷たいものが美味しい季節になってきました。
チューペットを食べたいという欲求に抗えず、しとしとと雨がふり続く中、私は靴をつっかけて外に出た。湿度の高い空気がまとわりつく。温度はそれほど高くないせいか、不快ではなかった。
チューペット。
名称は色々あるらしい。棒状のポリエチレン製容器に、色のついた甘い飲料が入っいて、凍らすとシャーベッドみたいになる。凍らしたチューペットの両端を手で持って力を入れると、上手くいけば容器はきれいに割れる。上手くいかないとぐにゃりとポリエチレンが伸びて白く変色してしまう。一回伸びてしまうと割るのはさらに困難になる。なのでチューペットを割るときは勢いよく力を込めるのが基本だと思っている。しかし、勢いが良すぎると、容器が割れた瞬間に中身が飛び散ってしまう。なので割るときは注意が必要である。
生協に着くと、まず切らしていた卵やごま昆布や肉を買い物かごに放り込んだ。冷凍食品コーナーに行くと、果たして隅っこにチューペットが並べられていた。グレープやメロンなど色とりどりの種類が入ったチューペットや、パイナップルのチューペットが有った。少し悩んだ後、パイナップルのチューペットを買い物かごに入れ、レジに向かった。
雑然とかごに投げ入れられた食材がレジ係の人により整然と並べ替えられるさまを、魔法のようだと感心しながら眺め、お金を支払う。水たまりに落ちる雨粒が波紋をつくっては消えていくさまを視界に捉えながら家に戻った。
買った食材を冷蔵庫と冷凍庫に入れ、さっそくパイナップルのチューペットを一つ取り出した。凍っているのですぐに食べられるのだ。チューペットの両端を掴み流し台の上に掲げる。
これなら多少飛び散っても問題がない。こういう生活の知恵が人類を進歩させてきたのだろう、などとくだらないことを思いながら両手に力を入れるときれいにぱっきり割れた。
爽快だ。
さっそく片方のシューペットを口に頬張る。前歯で氷を砕き、中身を押し出すように手に力を入れると、口内にチューペットが転がった。
甘い。冷たい。心地よい。美味しい。
甘みとほんのりとした酸っぱさが混じった味が舌の上でとろけていく。
Yes! Pineapple!
椅子に座って両手に持ったチューペットを代わる代わる食べる。
食べ終わる頃には溶け出したチューペットが液体となって容器のそこに残っていた。最後の楽しみである。残った液体をチューチューと吸い、容器をゴミ箱に入れる。
お風呂上がりにもう一本食べよう。そう思った。