目玉焼き
「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンの材料は、卵、肉、味噌などに多く含まれているそうです。
セロトニンは感情のコントロールや睡眠に関わり、うつの改善につながる神経伝達物質なんだとか。
参考文献:不調を食生活で見直すためのからだ大全(NHK出版)
朝ごはんには大抵、目玉焼きを食べる。
起きたばかりの薄ぼんやりした意識の中、私は冷蔵庫を開け、水の入ったポットを取り出した。コップにじゃぽじゃぽと水をそそぐ。水滴が飛び散ったが、気にせず喉を鳴らして一気に飲む。冷たい水が食道から胃へ通り抜ける感触が、意識をわずかに覚醒させる。首を回しながらカーテンを明け、しばし陽の光を浴びた。
フライパンに油を敷き、IHヒーターの電源を入れた。温まるまでの間に卵とウインナーを取り出して、電気ケトルでお湯を沸かす。
卵をキッチンの縁に叩きつけると、小気味良い音とともに表面に亀裂ができた。年に二、三回、力を入れすぎて中身が飛び出してしまうが、今日はうまくいった。白身と黄身が床と手にベッタリと付き、悲しい気持ちで掃除をせずに済むのは、素晴らしいことだ。いつもそうならいいのに。
卵をフライパンに落とすと、白身がじゅわりとひろがり、黄身がつるりとした表面を元気にのぞかせた。続けてウインナーを二本放り込む。目玉焼きとウインナーが焼けるまでの間に、トレーを取り出し、お茶碗とお椀、小皿を並べる。
冷蔵庫からごま昆布のパックと、プチトマト三つを取り出す。パックはトレーに置き、トマトは水で軽く洗って小皿に置く。ちょうど、ケトルが湯気を出しながらお湯が湧いたことを伝えた。
菜箸でウインナーを転がすと、黒色ときつね色の焦げ目がいい塩梅に付いていた。ときおり油がはねる音を聞きながら、即席味噌汁の具と味噌をお椀に入れる。わかめ、油揚げ、とうふ、長ネギの種類のうち、今日は長ネギにした。一番好きだ。お湯をお椀に注ぐと、味噌が流れにもまれながら溶けていった。湯気がふわりと顔にかかる。
笑みがこぼれるって素晴らしい表現だよなあ、と唐突に思った。
ご飯を茶碗によそい、中心にごま昆布をたっぷりのせる。
さあ、あとはメインだ。
二本のウインナーをごま昆布の横にそれぞれ配置し、ヘラを使って目玉焼きをかぶせた。目玉焼きは、裏に軽い焦げ目が付き、表は変色した白身の上に透明な部分が残っている。
完璧な焼き加減だ。
食卓へトレーを運び、テレビを付けた。いつもと同じ、朝のニュース番組。手を合わせた後、まず味噌汁を箸でかき混ぜながらすする。
即席味噌汁を開発した人にはノーベル平和賞をあげたいと思いながら、プチトマトのヘタをもぎ、口内で噛み潰す。張りのある皮から酸味のある汁と甘い肉が飛び出す。トマトを舌で弄んだ後、水とともに飲み込んだ。
箸を目玉焼きの黄身に入れると、とろりと中身が溢れ出す。黄身と白身を絡めて、ウインナーと共に頬張った。口の中にあふれる旨味。白米をかき込む。たまに紛れるごま昆布が絶妙なアクセントになり、箸が止まらなくなる。
ご飯、味噌汁、目玉焼き、ウインナー、トマト。
結局私は、ものの五分で全て平らげてしまった。
手を合わせる。
ごちそうさまでした。