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小市民な彼は魔法を否定する  作者: 火海坂猫


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六話 勧誘

「っ!?」


 目の前で血を噴き上げるレイルズに思わず鶴城は夏奈火を見る。

その視線は困惑と非難が入り混じったような、彼自身にも把握できないような感情だった。


「ん、もしかしてあんたこいつを殺さないで済ませるつもりだったの?」

「それは…………」


 答えられない。水波の時と同じでレイルズは絶対に許すことが出来ないが、それでも彼を殺している自分を想像できなかった。


「言っとくけど動けなくして警察や対策機構に引き渡すなんて無理な話よ? 例え無力化しても私達が離れればすぐにこいつらは復活するだろうし、かといって奴らが来るまで一緒にいたら私達まで捕まる」


 そんなリスクを冒してまでレイルズの命を助ける理由はないし、そもそも捕まっても逃げられる可能性がウィズにはある。

 それに万理の海はウィズのグループの中では大きいほうであり、レイルズが捕まれば残りの信徒は奪還に動くだろう。


「ま、そりゃ人を殺すのは気分のいいもんじゃないけど…………今こいつを生かしておく理由はないわ」


 夏奈火は初対面の鶴城たちの為に面倒を買って出るくらいにはお人好しではあるが、同時に一党を率いるリーダーでもある。


 将来の危険を排除するために手を汚すことに関して躊躇いは全くない。


「ぐ、あなたも神の意思を介さぬ愚者でしたか…………」

「あんたは神の意思よりも普通の人間の感情を知るべきだったわね」


 地の溢れる腹を抑えるレイルズを冷淡に見下ろしながら夏奈火が右手を振り上げる。

 それが振り下ろされると同時に鋭利な風がレイルズのその体を縦に切り裂くはずだった。


「教主様!?」


 だが若い女の信徒がそこに割り込む。レイルズを切り裂くはずだった風は変わりの彼女の背を肩口から両断する。


「ちぃ…………!」


 レイルズに止めを刺せなかったことに舌打ちつつ夏奈火は再び手を振り上げるが、彼にもたれかかるように倒れ伏す若い女の信徒に思わずその手を止める。


 夏奈火は元凶を扇動者であるレイルズと考えているだけに、その思想に先導された信徒たちは弱みに付け込まれた被害者と思っていた…………故に、彼らまでは容赦なく殺せない。


「教祖様をお守りしろ!」

「全員で盾になれ!」


 その逡巡の間に蹴散らしたはずの他の信徒たちも集まってくる。

 彼らはウィズの力お振るいながら駆け付け、それぞれの願望が形となった物が夏奈火目掛けて飛んでくる…………真っ先に到達したのは水で作られた無数の槍。


「消えろ」


 だがそれも鶴城の一言で霧散する。そしてそれは追随する他の攻撃に対しても同様の結果をもたらした…………夏奈火が防御に力を振るう必要もなく、全ては何事もなかったように。


「なるほど、味方だと頼りになるわね」

「どうも」


 応じて返すが鶴城の力は防御寄りだ。彼らの力は無効化できてもその歩み事態を止めるものではない。

 レイルズに駆け寄った信徒たちは彼を護るように取り囲み、肉の壁となって鶴城たちを睨みつける。


「…………ぶっ飛ばしても今度は駄目そうね」


 さっきは綺麗に周りだけ吹き飛ばせたが、恐らく次はしがみついてでもレイルズから離れないだろう。


「その子の力でどうにかできない?」

「できる、とは思いますけど…………」


 答えが煮え切らないのは出来ればやらせたくないと鶴城が考えているからだ。

 すでに現実濃度を低下させるお願いはしてしまったいるが、出来れば直接的にいのりが誰かを傷つけるような願いごとはしたくない。


「ん、そうね。確かにその子にやらせるのは間違ってるわ」


 そんな彼の表情で察したのか夏奈火は考えを改める…………しかしそうなると手詰まりだ。

 鶴城の力があるからこちらの負けは全くないが、彼らを皆殺しにしない限りレイルズを殺すことは出来そうにない。


「ち、時間切れね」


 そして考えをまとめる時間も残されていなかった。鳴り響いて聞こえて来るサイレンは明らかにこちらに向かっていた。


 昼間から銃声をバンバン鳴らしてウィズが大暴れしているのだからそりゃあ通報もされるだろう。


「退くわよ」

「え、でも」

「今はこいつらより対策機構のが厄介」


 言うが早いか夏奈火は鶴城といのりの体を掴んで浮かび上がる。それと同時に周囲へと目晦まし代わりに突風を解き放った。


 そして悲鳴を挙げる間もなく、鶴城の身体は空へと舞い上がった。


                ◇


 空の旅は人間だれしも憧れるものだが、それは安全が確信された状態でのみ楽しめるものだと鶴城は理解した。自身を支えるのは夏奈火の腕と、後はまとわりつくように吹く風だけという状況は腹の奥の方がきゅんとし続ける。


「ど、どこまで飛ぶんですか!」

「安全と思えるところまでよ」


 当の夏奈火は慣れているのか平然と答える。

 鶴城からすればすでに駅付近から随分と距離ができたしこの空の上なら安全なのではと思うが、彼女はそう考えてはいないようで時折下を確認している。


「人が乗って空を追っかけられるのはヘリくらいしかないけど、追跡するだけなら無人のドローンはいくらでも飛ばせるからね」


 鶴城の視線に夏奈火は察して答える。飛行機などは鶴城も昔に映画などくらいでしか見たことはないが、ヘリは時々飛んでいるしドローンはそれよりもよく見かける。


 つまりは空であっても安全とは言い難いのだ。


「…………いのり、俺たちの痕跡を消せるか?」

「はい、鶴城」


 仕方ないと頼む彼にいのりはいつも通りの様子で答える。


「それで済むの?」

「多分」

「その子も大概ね」


 感心したような呆れる様な表情で夏奈火は呟く。


「それじゃ空は落ち着かないみたいだし一旦適当なところに降りますか」


 そして不意に彼女は体を下降させる…………それに追随させられた鶴城が悲鳴を挙げたのは言うまでもない。

 殆ど落下するような勢いで鶴城たちは高層ビルの屋上へと迫り、直前でふわりと速度が軽減されて着地した。


「はい、休憩。確かに追手もいないみたいね」


 ほとんど何もない平坦な屋上から周りを見渡して夏奈火が言う。

 レイルズたちに気づいた時もそうだったが彼女は何かしらの方法で遠方まで見る術を持っているようだ。


「パパ」


 それはともかくへたり込んで地面があることに鶴城が感謝していると、いのりがその袖を引く。


「どうした?」

「いのり、ちゃんとできた?」


 尋ねる鶴城に返って来たのはそんな言葉と不安げな表情。

 これまで何度もお願いしたがこんな反応を見せたことは無かった…………レイルズによってその素性が明らかにされたことが影響しているのかもしれない。


「ああ、いのりはよくやってくれたよ」


 鶴城は安心させるように笑みを浮かべていのりの頭を撫でる。それに彼女はほっとしたように笑ってくれるが、こんなことくらいしか返せないのがとても申し訳なく思う。


「そうしてると普通の子よね」


 そんな二人の様子に夏奈火が呟く。


「さっきあんたが力を使うように頼んだ時はちょっと違ったけど」


 感情の無い無機質な声が夏奈火の印象には残っていた。


「僕が力を使うように頼んだ時にはああなるんですよ。それ以外の時は年相応に子供らしいんですけど」

「それって最初から?」

「いえ、最初はずっとあんな感じでしたけど」

「なるほどね」


 納得したように夏奈火は片目を瞑る。


「レイルズが言っていたことが本当ならその子はあいつらによって作り出された神様。あいつらがそれに子供らしい人格なんて持たせるとは考えられないし、力を使う時に現れるのが本来のもので子供らしいのはあんたと過ごす間に生まれた人格ってことかしらね」


 レイルズはいのりを新しい世界を生み出すための神と言ったが、自分達を導く存在とは口にしていない。

 それはつまり彼女に人格は求めておらず、本来は求められるままに力を行使する機械的な存在として生み出したのだろう…………そんな彼女を鶴城が人間として扱い名前まで付けたことで人間としての人格が生まれたのでは、というのが夏奈火の推測だった。


「ちなみに変な願い事はしてないわよね」

「天地神明に誓って」


 まだ疑ってたのかと憮然とした表情で鶴城は断言する。


「ま、信じとくわ」


 そういうと夏奈火はふっと笑う。本気で疑っていたというよりはいのりの話題を駆る方向へ逸らすのが狙いだったようだ。


「それで、あんたはこれからどうするつもり?」

「どうするって」


 その質問は二度目ですでに鶴城は答えている。


「あの時とは状況が変わったでしょ? あんたが日常に戻ろうとしてもあの狂信者はいずれまたやってくるわよ? 普通なら致命傷だけどあいつもウィズだからしぶとく生き延びてるでしょうし」


 それに仮にレイルズをあの場で殺せていても残った信徒たちは復讐の為に鶴城たちを狙うだろう。

 根こそぎにしない限り争いの種は残るのだ。


「それは…………」

「あの子の力で何とかする?」

「…………」


 見透かされて鶴城は押し黙るしかない。


「別にあの子に頼ることは否定しないわよ。別にあんたはあの子を道具扱いしてるわけじゃなくてちゃんと面倒見てるんでしょ?」

「それは、はい」


 恩人でもあるし、道具扱いしないように自分を戒めてきたつもりだ。


「私が気になるのは力の検証がちゃんとできているのかって話よ。その子の力の限界は? 効果範囲は? 力の持続時間はどれくらいあるの? 多分これまでにも対策機構の目をごまかすために力を使ってるでしょうけど…………それはまだ有効?」

「それは…………」


 答えられないのは検証どころか考えたことすらなかったからだ。その事実に鶴城はショックを受ける。

 つまり鶴城は自身で特に考えずいのりに全て任せていたということで、それは便利な道具として使っていたのとあまり変わらない。


「それにあいつらはあんたの顔を見て名前も知った。万理の海は所属してるウィズの数も多いし一般人の協力者も多いって聞くし…………その子の力があってもずっと見つからないなんて保証はないわよ」

「…………」


 それはその通りだろう。いのりは神様じみた力を持っているが基本的には鶴城が願ったことをするだけだ。逆に言えば何かを鶴城が見逃せば追手に把握される可能性が高くなるわけで…………これまでの自分を考えると不安は大きい。


「それに今頃あいつらの何人かが捕まってて、対策機構に情報が漏れてるなんて可能性だってあるわよ」

「あ」


 これまでの話はレイルズたちがあの場から逃げおおせている事前提だったが、考えてみれば夏奈火の言う通り対策機構に捕まっている可能性もある。

 レイルズもその信徒も鶴城と夏奈火によって散々に痛めつけられている。信徒は命を張ってレイルズを逃がすかもしれないが、彼ら自身も全員逃げられると考える方が可能性は低いだろう。


「つまり万理の海と対策機構、両方から追われる可能性があんたにはある」

「…………みたいですね」


 どうしてこうなったと思いたくなる重苦しい事実だ。


「で、提案」


 その事実を軽くするように夏奈火は明るい声で言った。


「うち、来ない?」

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