(7/8)オレは象の目が
ベットの上で、中原さんがきつく目をつぶっている。オレは右手で中原さんの髪を撫でて、左手を中原さんの手に絡めてたんだけどわりと痛い。
なにせ中原さんがオレの手をえらい握力で握ってるからだ。こりゃあ机も椅子も運ばされるわ。会社の女の子たちみたいに「荷物もってあげようかー」「すみませーん♡」とはいかないわ。下手したらオレより握力あるもん。リンゴも潰せるんじゃないの? すげえなぁ。
『いやそんな緊張しないで』とは思うのだが、もう人の話を聞ける感じでもない。必死すぎる。あと左手が痛い。
この感じ……どっかで見たなと思った。
あ! そうだ。小学校3年のときに行った家族旅行だ。
『レンタカー付き! 北海道ワクワクツアー3泊4日!!
ラベンダーも! 夜景も! 動物も!! よくばりレジャーチケットさらにお土産あり!』
あのパックツアーで泊まったホテルで見た解体ショーの………。
解体されるマグロそっくり!!!!
◇
オレは中原さんの耳にささやきかけた。
「さりな」
はい!? なんですか? 私今取り込み中なんですけど!!! とでも言いたげに中原さんは目をうすーく開けた。
『アリを踏み潰す前のゾウみたいな目』!!!
「髪の毛。痛いでしょう? シーツと体に挟まれて引っ張られてるよ。枕の外に逃してあげるから体を少し起こしてくれる?」
中原さんの左手が緩んだ。少し体を起こした。オレは彼女の首に両手を差し込むとそのまま上の方に手をすーっと滑らせた。さらさら〜っ音がして髪の毛だけ枕の外に逃げる。
大丈夫。もうこれで痛くない。
そうだったなぁ。小学校3年のときの旅行楽しかったなぁ。お姉ちゃんはレンタサイクルではしゃぎまくってて。母親は六花亭のお土産を買うことに夢中で。親父はそこらの風景を撮りまくって。
オレは。
オレは旭山にあった動物園の。今はペンギンの行動展示とかですっかり有名になったあの場所の。
象が見せる優しい目が好きだった。