(2/8)花沢からの視点
オレは最初から中原さんに興味津々だった。何せ178センチの身長。モデル並みの体型。腰まで届く茶髪。顔もわりと可愛い。さらに入社筆記試験同期100名のトップクラス。役員面接ほぼ満点。鳴り物入りで我が社の華『システム営業部第一課』に入部。
これで興味持たない方がおかしいでしょ!
もうオレ中原さんを見かける度に『どーもー。同期の花沢でーす』って感じですり寄って色々話しかけてみたんだけど、返事がつれない。
「うん」「違う」「大丈夫」「さよなら」
とにかく二言目がない。さっさと立ち去る。顔すら見ない。
たまに目が合うこともあったんだけど、その目つきがさー。
『アリを踏み潰すゾウの目』
っての?
いや。ひがみも入ってますよ。何せ中原さんは178センチ。オレは165センチ。13センチも差があるしどうしても見下ろす感じにはなりますよ。でもちょっとくらいオレに笑顔を向けてくれてもよくない!? なんでいつも無表情なの!?
『いや、おそらく中原さんはこういう人』とオレは無理矢理自分を納得させ『仕事で忙しいんだ! 我が社でもっとも期待されてる新人なんだからしょうがない!』と己を慰め。
でも違ったんだよね。
オレは気になってたまらないから、どうしても中原さんを目で追っちゃうの。
そしたらさ。同期の上条や大倉と『ワッハッハー!』って感じで話してて、お昼には同期の女子たちと『キャッキャッ』て感じで笑ってて、上司とかにもニコヤカで。守衛のおじさんとも仲良くなってんだよ!?
オレだけなの! あの人!! 視線すら合わさないの。
まあそれでもわりとメゲない方だから、根気強く話しかけていたわけ。しかし決定的なことが起こってしまった。
◇
入社して半年くらいたったと思う。
オレは中原さんを廊下で見かけた。
中原さんとんでもない量の書類を抱えてて、会議室に向かって歩いてた。
オイオイ。何あの量。誰も手伝ってやらないのかよ。
中原さんはとにかくデカイし力もあるから。ほぼ女子とは扱われてなくて。常になんか重いもんもってるとか、椅子や机を運ばされるとかしてたけど。
『それにしてもあれはないでしょ』と中原さんに声をかけたわけ。
「オレも運ぶよ!」と。
中原さんびっくりしたように振り向いて2.3回横に首振ったけど「運ぶよ。女の子にこんなに持たせて」って書類を半分持って歩いた。
中原さん無言。その頃にはオレもだいぶやさぐれていたので『いいですよー。どうせオレは中原さんにとっては「アリ以下」なんでしょ』って心の中で思って。『どうせオレは小市民ですからね。はいはい。書類だけ運んだらすぐ消えますよ』ともう卑屈の極み。
でも中原さんの隣を歩けるのがちょっと嬉しくて。
それなのに中原さん会議室を目にした途端『ゲッ』って顔になって。やおらオレの方を向くと。
「もういい」って一言いった。
「いや、会議室そこでしょ。運ぶよ」「いい。自分でできる」「その荷物でドアを開けるのは無理だよ。せめてドアは開けるから」
「いいって言ってんでしょ!!! 早く書類のせてよ!!!!」
オレは、中原さんに怒鳴られた。
◇
家に帰ってからオレは泣いたよ。あまりに酷すぎる。『このままでは花沢と会議室で2人きり』って思ったんでしょ?
2人きりって言っても書類をおく30秒くらいでしょ。会議室で何かおこるわけでもないし。その30秒すら嫌なの?
オレはベットの上に仰向けになって。照明の丸型蛍光灯を見ながら泣いたよ。ハエとか飛んでてさー。最悪の気分。
さらにさらに最悪なことにオレは気付いてしまった。オレ、中原さんが好きだわ。恋しちゃってる。だからこんなにショックなんだ。
なんでなの。相手はオレの事『アリ以下』って思ってるのに。その夜オレは泣き続けた。夕飯も食べる気になれなかった。
◇
これが中原さんの記憶にチェンジすると驚くべき展開になる。