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秋風に告ぐ
結香ー」
「紫翠! おかえりなさい」
「あぁ、ただいま」
来るべきその時まで、紫翠は結香の側に居たい。
弱々しい子狐が無理をしていることを知ったからだ。
足の色がどんどん黒く変色していることに、きっと結香は気が付いていないのだろう。
秋時雨が上がった直後の庭は、じめじめとした空気が漂ってきていた。
さよならを言えずに秋が終わる。
消えるその日が近いと知って、子狐はこれからどうするのだろうか
きっとどうもしないのだろうと知っている。
昔から知っていたことだ。
覚悟ができていないのは、紫翠だけ。
それがなんとも情けなくて、少し泣きたくなった。