いやなもの
が降るお陰で辺りの自然は鮮やかに色づいていた。
土気色の地面はくっきりとして、はっきりとした輪郭の赤い葉が、叩きつける水に耐えきれずぼたりと落ちた。
そうか……もう秋なのか。
番傘のずっしりとした重さに、雨の重さも加わる。
結香は軽く持っているように見えるが、妖力がなければ難しいと言っていた。
行き交う人々の笠や着物、医師の蛇の目傘。色とりどりに着飾った娘達……
久々に見た活気のあるこの雨の町に、笑みを溢す。
「ごめんね紫翠、あとでみたらし団子食べに行こ……」
お使いの量が多くなったと眉を下げていた結香を思い出す。別に良いものを、彼奴は阿呆で愚直だから気にするのだろう。そんな真っ直ぐなところも愛しいと思うのも、きっと家族だからだろう。
「結香、そろそろ戻るぞ」
日々の感謝につつじちゃんに贈るんだと言って香袋を買い終えた結香に声をかける。まぁ十中八九牡丹一華だろうな。緊張した面持ちの結香に苦笑したその時。
「紫翠!? 貴方、紫翠よね!!」
不愉快な甲高い声が聞こえてきた。
人の名前を往来で叫ぶなど、相も変わらず非常識な人だ。それが俺が家を出たきっかけだとも知らないで。
馴染みのありすぎる醜いその声に、高貴というものを履き違えたような無闇矢鱈にねっとりとした臭いに、顔を顰めながら振り返る。
「嗚呼神様感謝いたします……紫翠今までどこにいっていたの! お父様だって心配しているのよ!」
「あの耄碌爺がか? ありえないな。寧ろ清々している筈だろ」
「あなたっ……お父様になんて事いうの!」
振り上げられた手が、俺の頬を引っ掻き振り下ろされた。ぱん、と存外乾いた音が、湿った空気に鳴り響く。
頬が熱い、赤くなっているんだろう。
じろりと目の前の女を見上げ睨むと、怒りで顔が赤くなっている。豪奢な着物に美しい傘。しゃらりと揺れる簪からは、俺が出ていく前と変わらない生活だったことが見てとれた。
旅をして解った、俺の育った家庭の異常性。
だけど、俺は……
「あんたらは俺が大切なんじゃない。子供と仲の良い夫婦という世間体が欲しいだけだ。俺自体に興味なんてないんだろう」
狼狽えると思った。こう言えば、嘘でも違うと返してくれると思った。愛しているといってくれると思った。
「――――あら、当たり前じゃない」
現実は残酷だ。
「世間体以外にあるわけないわ。それ以外、貴方に何の価値があるの? そのままの貴方? はんっ、誰も愛しやしないわ。そんな価値のないもの」




