猫又の少年
お使いをしていると、少年に出会った。
「……てんしさま?」
てんしさまとは一体何なのだろうか……。傘を持っていないようだったから、取り敢えず持っていた傘を貸して、抱き締めると予想以上に冷たく震えていたため、抱き締めたまま移動した。
「おれ、は……ねこまたの、できそこない……です」
はて、そういわれたがよくわからない。人間への変化は問題なくできているし、猫に変化できなかったからと言ってなにか問題があるのだろうか。脆弱とはいえ獣妖怪としては、雨に濡れて平気だった事に価値を感じるのだが
団子を食べた時驚いていた。甘いものを食べさせてはいけない教育だったのだろうか。そうだったなら悪いことをした……僕はとことん間抜けだなぁ……でも、喜んでいたから良かった。
「てんしさまは、きょうだい、いるのか?」
本来は美しい髪色だったのだろうが、ぼさぼさで見る影もなく、切れ長の大きな瞳も隈のせいで見映えが悪くなっている。きめ細やかな肌は陶器のようにすべすべで、見たことはないが話に聞いた南蛮の人形のよう。
身なりを整えたら、もっと愛らしくなるのに。
「てんしさまの……おとうと」
息を吐くように静かに微笑んだ少年を見て、嬉しくなる。
『笑いなさい結香…… 笑えば、自然と楽しくなってくるのよ』
『あねうえ……』
嗚呼たしか、あの人が言っていたのだ。あの人の言った通りなら、この子は今楽しいのだろうか。僕は弟を楽しませてやれているのだろうか。
それなら良かったと、僕も自然と笑みを深める。
……しばらく話していると、団子屋から帰る人、店仕舞いをする人が増えてきた。いけない、遊郭が始まる前にお使いを終わらせておかなければ。
「あなたのおなまえを、教えていただきたい……のです」
あ
名乗っていなかったと今更気がつく。僕ったらなんという失態を……! しゃがみこんで、目線を合わせた。青紫の宝石のような瞳と目が合う。
このこはやっぱり綺麗な子だなぁ。どこができそこないなんだろ?
それをいうなら僕こそが落ちこぼれで出来損ないなのにね。
「僕は結香。君は?」
「……朝霧」
幸福そうに、宝物を見せる無垢な少年のように名前をこぼす朝霧。なまえとは、そんなに大切なものなのだろうか。
そういえば、この子とであった今日の朝は珍しく霧が立ち込めていただけだったなと思い出した。すぐに雨が降ってきたけど、この子に声をかけた時は霧だったっけ。
随分と珍しい偶然もある物だなと思った。




