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薬師と仔狐の乱  作者: 蝸牛
第二部 雨の牢獄
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てんしさま

その日、おれは、てんしさまにであった。


「あれ、君……」


きれいな黒髪のてんしさまは、おれを見て傘をさしのべた。上等なかりぎぬがぬれるのもいとわず、寒いだろうと抱きよせてくれた。


母は人間、父は猫又の間に生まれたおれは、変化のできないでき損ないだった。そんなおれを父は早くに見捨て、やさしい母が育ててくれたのだ。

今日はそんな母のお使いで市に来た。傘は、使うのがもったいないから持っていない。


「君は猫又ですか。こんなに小さいのに、雨に濡れても平気だなんて……偉い、偉い」

「え……」


だから、そのくらいでほめられるのなんてはじめてだった。つり銭はすきにしていいと言われているんですよと言って、団子をかってくれた。甘いものなんて食べたことがなくて、おどろいてしまった。


「そんなに急がなくても団子は逃げませんよ……ふふ、君も弟みたいで愛らしいですね」

「? てんしさまは、きょうだい、いるのですか?」


抱き締めて撫でてくれた手は暖かかった。笑った顔は優しかった。匂いが嗅いだことのない太陽の匂いのようで、抱きあげられるのは心地よかった。

大きな手で、しっかりと体を支えてくれているのが頼もしかった。


「て、てんしさま……?

さぁ……ね。遠い昔は居たかも知れませんが、今は妹一人と、兄一人です」

あぁ、君もいれると弟一人になりますね。


そういったてんしさまは、おかしな遠慮のようなものも無くてきれいだった。

母が良いところのご令嬢なため、弟のように扱ってくれる人などいなかった。

何よりこんなにも気味の悪い半妖など、関わりたくない。


だけど、てんしさまは、てんしさまだけは、おれ自身を見て、傘を向けて、ずうっと降り続いていた雨を止ませてくれた。


いつかこの人に、恩返しがしたい。たとえ寿命で死んでも、亡骸のそばで守り続けたい。お側にいたい。そして、生まれ変わったてんしさまを、支えて生きていきたい。

いつかこの人と。


「さてそろそろ行かなくては……またつつじちゃんや紫翠に怒られてしまう」


はたと気がついたてんしさまはおれを地面におろす。


まって、てんしさま、おれにはあなただけしか


「……?」


ついつかんだかりぎぬにひっぱられ、てんしさまはこちらを振り返った


「あなたのおなまえを、教えていただきたい……のです」


「名乗っていませんでしたか。失礼しました、僕は結香です。君は?」


「おれは……」




朝霧。


朝の霧が立ち込めるとき、貴方と出逢ったから

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