かぞく
お兄ちゃんったら、何で風邪引いてるの! 体が弱いのに働きすぎるから……」
「ほ、本当に夢の中で」
「ありえないから!」
「ごめんなさい……」
部屋で、風邪を引いた結香の看病をしながらつつじが叱りつけていた。言い分は本当だと思うが、それを理解してもつつじとしては心配なのだろう。
まぁ、俺も唐突に倒れた結香をつつじが背負ってきたときは驚いたがな。力持ちだなつつじ。
「紫翠お兄ちゃんも、笑ってないで何か言ってあげて!」
「うぅ……ほんとなんだよ、紫翠ぃ……」
うるうると仔犬のような目で見られたら甘やかしてしまいたくなるが、ためにならない……とはいえ、今回は本当に不可抗力と言うやつだろう。つつじには悪いが、今回は結香の味方だ
「まぁ、嘘をいっている訳じゃ無いようだし、許してやれ」
「しっ、紫翠!」
「もうっ、紫翠お兄ちゃん結香お兄ちゃんに甘すぎるの!」
こと、と薬効を記していた手を止め、筆おきに筆をおいて体も後ろを向く。つつじが文句をいいながらも額の布巾を変えていて、薄っぺらい布団をつつじ、俺、結香の分と重ねて高く厚くしてあるところに、つつじの心配がうかがえた。
適度に衣類が汗で濡れていないか、体温が高すぎないか確認しているし、これじゃあどちらが上かわからないぞ。
「朝起きたらふらふらしてるし、お仕事してる途中に急に倒れたんだよ!」
「はは、そりゃ困るなぁ」
「笑い事じゃないのー!」
もー!と頭から湯気を出して怒るつつじ。確かに結香は体が弱いが、そう心配するほどでもないだろうに。軽口の応酬のようなやり取りを交わしていると。
「ふ、ふふ」
結香が突然笑いだした。怪訝な顔をするつつじの頭を撫でて、嬉しげな笑顔を見せた。
「いま、まるで僕ら家族みたいじゃなかったですか?」
「家族?」
「家族……って?」
はい、と明るい声で返事する結香。
あぁ確かに、と納得する。今の会話はまるで、普通の兄妹のような会話だったなぁ。
「紫翠が長男、僕が次男。年子ですけど紫翠がしっかり屋で、年が少し離れたつつじちゃんは僕らの大事なお姫様です」
「そのお姫様に看病させてるのは何処の誰だか……」
「いててっ、ごめんなさいっ」
「訂正な、お前はうっかり屋で後先考えない奴だよ、結香」
こつん、と頭を小突く。既につつじに頬をつねられていた結香は既に目に涙を浮かべている。失礼なとむくれるが、今回の事を鑑みれば妥当な評価だ。全く、こんな次男で大丈夫か?
降り続く雨も気にせず、話は弾んだ。
「結香が嫁をとる時は、絶対大変だろ」
「普通の女にお兄ちゃん任せらんないよ!」
「婚期がどんどん遠ざかる……」
そうだなぁ、俺よりも薬学の知識があって、見目麗しくて……勿論性格もはずせないな。
「私より髪が綺麗で、世話好きで、お兄ちゃんから目を離さなくて、お兄ちゃん一筋で、紫翠お兄ちゃんより優しくて、私より体力があって……」
「俺よりお前のために何でもするっていうのも外せねぇな」
「り、理想高すぎません?」
まぁどんな理想の女だったとしても中々渡しはしないがな! 結香は変な女に騙されそうでとても心配だ。
全部結香にないものを持っていて補いあえるといいなと思う。
「僕はいいですよ。それよりつつじちゃんは……」
「うちの妹はやらん」
「あぁ……私の婚期も遠のく……」
長男だ、と笑う結香と遠い目をするつつじが何だか対称的だった。いや、簡単にうちの可愛い妹を渡してたまるか。
「まず薬学の知識は必須だ。つつじのために何でもできる、高収入でつつじ一筋……」
「婚期が……」
「結香は?」
何も言わない結香を不思議に思い、声をかけると、眉を八の字にした結香がうーん、と呻いた
「やっぱり、どんな条件でもつつじちゃんがお嫁に行くのは寂しいです。折角できた家族ですから。でも、つつじちゃんだって好きな人と一緒になりたいでしょうから、一つだけ」
結香……。柄にもなく感動する。俺が出会ったときは、寂しいとも悲しいとも言わず、否、言うことを知らず、我儘といっていい我儘も言う相手すら居らず、一人に慣れきってしまっていたからか、こんな風に家族として自然に誰かを求める結香を見ると、頬が緩む。
つつじに至ってはもう怒りを忘れてるみたいだぞ。ありゃ暫く何としてでも嫁には行かねえな。
そんな、我儘も言わない結香が出す条件というのも気になり、静かに聞いてみる。
「一つだけ……僕より、頭がいい事ですかね」
「いや無理かな!? 結香お兄ちゃんが一番ひどい条件だよ!」
「え?」
「しかも無自覚か……たちがわりいな」
「えっ」
無自覚だ。親友の勘がそう呟く。本気で困惑している結香に、さてどうやって結香の知識量が異常であることを教えようかと算段をたてながら、夜は更けていく
平和だった頃の、とある一夜のお話




