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薬師と仔狐の乱  作者: 蝸牛
第二部 雨の牢獄
23/31

花魁・香織

今日も雨だなぁと、賑やかな夜の遊郭を散歩しながら外を見た。

ざあざあと降り続く陰気な雨、ここのお客さん達や遊女さん達は気にならないのだろうか?

それに、ずっと雨が降り続く場所だなんて初めて見た。素直にすごいと思う。


紫翠の代わりに三味線を演奏した日以降、どうやら僕の腕前を気に入ってくれた人が沢山居るようで、たまに客座敷で三味線を弾かせてもらうようになった。

僕自身、何で自分があんなに三味線が弾けるのかよく解らない。これも失われた記憶のひとつにあるのだろうか。

ところで雨どいからぽちゃんと水が落ちる音は、雅とは言わないのだろうか? 僕は凄く綺麗だと思うのだけど。


いけない、食事を届ける用事があったんだ。


カチャカチャなる漆喰の器、赤いお盆をかかえて、三階の更に上、天守閣と呼ばれる場所に登っていく。


ここには確か、遊女なんて目じゃない、"花魁"という格の高い方がいらっしゃるのだと、あねちゃんに聞かされている。


「…………失礼します、食事をお届けに参りました」


返事はない。豪華な襖だ。この和紙だけで何両するのだろうか。

歩いてきた廊下も塵一つ無く、美しいものだ。

急に緊張してきた。つつじちゃんに失礼のないようにと言い含められて教えられていた事を反芻する。


「失礼致します」


"返事がなければ開けてもいい"と言われたので襖をすっと引く。


まず始めに、美しい、白髪のようにも見える金の髪が目に入った。

そして白魚のように細く白い手元の、装飾が施された綺麗な煙管。

雨降り続く今でさえ、儚さとその清廉な美しさが背中からわかるような人の姿が、そこにあった。


「ああ、ありがとう。其処に置いていてね」

「……食べられないのですか?」

こんなにもほかほかで美味しそうなのに!


声にそんな思いが出てしまったのだろうか。

ちょっとねと苦笑気味に言われてしまった。

あぁ、つつじちゃんの呆れ顔が目に浮かぶ……


「そんなに残念そうにするほど、美味しいのかい?」

「はいっ! 今日は新鮮なお魚も手に入りましたので、とっても美味しくでき……た、と」


両手に握った拳をぽす、と両膝に置く。つい語ってしまった。美味しく出来たので、早めに食べてほしかっただけなのに……


失礼だよね、恥ずかしいよぉ、絶対に顔が赤くなっている。申し訳なさで一杯で、相手の顔が見られない。これも失礼なのかなぁ。


「そっかそっか、君が作ったのか」


朗らかに笑われてしまっては、逃げ場もない。うぅ、ごめんねつつじちゃん


結局、花魁の方……香織さまは寛容で、僕の非礼も怒る事無く許していただいた。しかし、無作法だったことは事実なのできちんと詫びさせていただいた。


ところで……


「香織さまはおのこのようなのですが、おのこでも花魁には成れるものなのですか?」

「あれ、今更? あ、このお魚美味しい」


きょとんと此方を見た香織さまだけど、次の瞬間には興味はお魚に移っていた。そうでしょうとも、秋の味覚、秋刀魚を皆で七輪を使って焼いて、塩焼きにした物なのですから!


でも、七輪の匂いはとれないから、あの後の接客大丈夫かな。僕自身、まだ匂いがとれてないし。美味しそうでお腹が空いちゃうよ……


「新鮮なお魚なんて珍しいね、何かあったの?」

「たしか……出雲の大名さまが、ぜひ僕にと送ってくださったものなのですが、沢山すぎて食べられなかったのです」

「へぇ……出雲の?」


この間お魚が食べたいと話していたのを聞いていたのかな。出雲の大名さまの尼子様は、沢山贈り物をしてくれるけれど、量を考えないから……塩などの高価な調味料も尼子様がくださるため、たまにいらしたときはご馳走することにしている。


「たまに金平糖を手ずから食べさせていただくのです! とても美味しいのですよ!」

「へぇ、よかったじゃないか。……手ずから?」

「風流な方なのか、たまに簪を贈ってくださいます。女性ではありませんが、髪もかなり伸びたためたまに使わせていただきますよ」

「簪? 一介の禿に?

……ねぇ、出雲の大名から、『不忍池に蓮を見に行かないか』と誘われたりしてない?」


香織さまは僕の話を聞くごとに険しい顔をしていく。そんな顔をしてほしくなくて、楽しかったことを話すけれど逆効果みたい……。

けれど質問が来た! しっかり答えなきゃ。確か……


「ありますよ!」


きっと風景の好きな方なのだろう。たまにお話しさせていただく軍略のお話はとても参考になり、新鮮さを感じる。記憶の中にもない、戦の仕方、兵の動かし方、情報の駆け引き……見たことも聞いたこともないお話は本当に楽しく、尼子様のあげる戦場は、見たことはないが現実的で頭を使う。


「あそこは自然に入れるにも関わらず、軍馬も弱る上てつはうもやり方次第では封じることができます!また、あの上を通ることの出来る伝書鳩はいないでしょう。飛脚や狼煙が主となりますので、籠城されたと想定した軍略を立てたいと言う話になったのです!」


香織さまが一気に脱力した。これで正解だったのかな。

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