あめふり
ざあざあと外では雨が降り続いている。
縁側の内側の畳に座った結香は、そっとその白く細い手を空にかざす。
湿った空気と貼り付く着流しが気持ち悪いなと、三角座りになり顔を埋めた。
とたとたとた、と足音がし、結香は右手に力を込めた。
「結香お兄ちゃん、またお外見てるの?」
「……おや」
ひょこっと、開け放たれた障子からのぞいたのは、ここの遊郭の禿であり、結香と紫翠の妹分であるつつじだ。
ふっと息を吐くように笑った結香は、隣をぽんと叩きつつじを呼び寄せた。
「お外は今日も雨ですねぇ……」
「んー、お兄ちゃんたちが来たときの方が珍しかったんだよ」
「……けれど、これではつつじちゃんの好きな鬼ごっこも出来やしません」
元来気弱な結香だが、誰かが喜ぶことは大好きなのだ。
はぁと大きくため息をつくと、つつじはこてんと首を傾げた。
「むしろお兄ちゃんたち、今までどうやって晴れにしていたの?」
「あれ、ぼくたちが原因なのですか?」
鏡写しに首を傾げる結香に、今度は大きく頷く。
「わたしも、ここでは数えるほどしか青空を見たことがないの。ここはいつも雨に覆われているから」
先程結香がやっていたようにつつじは空に手をかざした。重苦しい曇天がまるで檻のようにも見え、眉をひそめる。
結香はそんなつつじの様子を不思議そうに見ている。
「……はぁ、そんな場所があったんですねぇ」
数多の書物を読んできましたが、そんなこと一つも知りませんでした。
そう言って興味深そうに空を眺める。純粋に好奇心による発言なのだろう。
ぽす、と細く小さな手がつつじの頭にのせられ、よしよしと髪を鋤かれる。
「……結香お兄ちゃんは、いつもなにかを知らないね」
「面目ないです」
紫翠お兄ちゃんが昔言ってたな、とつつじは思い返した。
"あのちっちぇえ頭には、たくさんの知識が詰め込まれてんだろーよ、だけどな"
「お兄ちゃんは何だかいろいろ知ってるけど」
「?」
「"世間知らなきゃ意味はない"ね」
「……」
紫翠ですか? と恥ずかしそうに頬を染める結香に、つつじはにこにこ笑って秘密と返した。
「でもそんな結香お兄ちゃんが太陽を呼べるんだから、世界って不思議だね」
「あれっ、僕なんですか」
「うん、紫翠お兄ちゃんには呼べなかったから」
つつじは立ち上がった。
結香はその断定的な言い方が気になり、つつじをじっと見つめた。
結香に手を貸して起こしながらつつじは言う
「住んでたんだって、ここ」




