幕間
カラコロカラコロ、と高下駄の音が嫌に耳に響いていた。
むせかえるような香の匂い、きらびやかで豪奢な着物にしゃらしゃらとそよぐ簪がなんだか妙に目についた。
此処は花魁町。女にとっては地獄、男にとっては天国の、美しい蝶達を囲う大きな監獄。
「ははは、やっぱりここは賑やかでいいねぇ」
「……こういうところは苦手だ……」
「くく、ゆづはちょっと女の子苦手だからなぁ」
「それを抜きにしても、な……狙っているような視線が好かん。ゆいの趣味がわからん」
二人の年若い男性が、そこに足を運ぶ。
その内の、白く一目で上質なものだとわかる狩衣を着た癖毛の酷いゆいと呼ばれた男が、道行く女を指差しにこにこと上機嫌に笑う。
ゆづと呼ばれた絶世の美男が傍に控えているが、足運びは上品だがゆいと言う男にたいし遠慮がないため幼馴染みか、はたまた親友か。
至極の美しさを持つ"ゆづ"と、大した特徴の無い"ゆい"の関係はなんなのかと道行く人々のなかでも問答が繰り広げられる。
「何でこんなところに連れてきたんだゆい。天照大御神様が不浄なものを嫌うと知っての事だろうな」
「そりゃねぇ。僕だって伊達に一心に仕えてきた訳じゃあないよ……というか、ゆづは声が大きすぎる。そんなのだから人の子に溶け込めないのだろう?」
注目されているのだからと、言外に告げたゆい。
ゆづはそれで押し黙り、満足したゆいは話を続ける。
「お前さ、また予言したんだよね、覚えてないだろうけど」
「なんだと?」
ゆづはその細い柳眉をぴくりとはねあげる。
橙色の光をじっと見つめる友人の瞳は、あまりにも静かに凪いでいた。
「それ自体は喜ばしい事だけれど、お前が来たってことは、不都合な事になるんだろう?
……それに、僕もいやだなぁ」
喜ばしい事と言うわりには、ゆいの目は絶望をとらえて離さない。
静かな語り口調に、激しい嫌な予感が駆け巡った。
「ゆいっ」
「ま、でもそれはともかく楽しもっか!」
声をかけようとした瞬間、それはいつもの笑顔に変わった。
何となくホッとしたゆづは、また彼の流れに乗ってしまう。
この時、彼を問い詰めていたら
「あ、勿忘草! ……丁度良いし、ゆづにあげるよ」
この時、隠された願いに気が付いていたら
「ゆづ、……ずっと傍に、居てあげてね」
この時、なぜお前は居ないのかと聞いていたら
「ねぇ」
この手を掴んでいたら
「おわらせて……」
この願いを叶えていたら
きっと何かが、変わっていた?




