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5.お願いします
「そんなとこでどうしたの?大丈夫?」
自分に言われているのかわからなかった。
雨を遮るように傘の中に入れてくれたその老人は、真っ白な髪を結えて困った顔でこちらを見ていた。
そんな中で茶色の着物が雨に濡れて黒い染みを広げているのが、なぜか目に入った。
「あ、あの。靴が…じゃなくて傘も無いし….…家も無くて、わからな……くて…」
何を言えばいいか、わからなかった。
傘の中が暖かいなんて思って。
「…助けて下さい……お願い、します…助けて下さい。お願いします、お願いします。」
泣きながら頭を下げ続けた、何も考える事ができなかった。
「あら、あらあら。大丈夫よー。ほらいらっしゃい。」
そう静かに笑って言うと、手を引いてくれた。