出逢い②
『お帰りなさいませ』
ベルボーイの笑顔がまぶしい。
生まれて初めての帝国ホテル。
私には縁の無い場所だと思っていたけれど、こうもあっさり来れるなんて…
なんて、幸せに浸ってる場合じゃない!
私は、見ず知らずの男性に拉致されたんだった!
『何か飲みますか?』
『いえ。私は帰りますから』
『そうですか。では、明日、ランチをおごらせて下さい。
ここを出られないので、ここのレストランになるけど…』
…出られない?
理解できない言葉もあったけれど、まあ…日中のランチくらいならいいかな?
帝国ホテルだし。
私は、彼に拉致された事より、帝国ホテルでのランチにひかれてしまった。
『わかりました。じゃあ、明日、お昼に来ます』
『待ってますから』
彼は軽く手を振った。
私は頭を下げて、また、駅に向かって歩き始めた。
私…どうしたんだろう?
今までは、ナンパとかは全部無視してきたし、初めて会った男性と食事なんてした事なんて全く無い。
コンサートのせいかな?
イケメンを見て、気持ちにスキが出来たのかな?
てか…ホテルから出られない…って?何?
自分の気持ちに疑問を持ちながらも、帰りの電車に乗った。
次の日は日曜日。
日曜日で良かったな~
平日なら断っていたかもしれないから。
日曜日、白地に黄色の花柄のワンピースを選んだ。
ブランド物じゃないけれど、一目惚れして買ったワンピース。
電車に乗っている間、彼の顔を思い出していた。
でも、あまり思い出せない。
私は直視出来なかったし、彼も、目を伏せていたから。
もしかして、彼は真面目なのかな?
ホテルについた。
また、ベルボーイが笑顔で迎えてくれる。
…が、ここで大事な事を思い出した。
名前を聞いてない!
待ち合わせ出来ない。
キョロキョロとうろたえていると、ホテルの女性スタッフさんが声をかけてきた。
『どうかされましたか?』
『あの…レストランでランチの予定なんですけど、相手の方の名前を聞くのを忘れてしまって…』
『わかりました。では、こちらにかけてお待ち下さい。コンシェルジュに聞いてまいります』
『ありがとうございます』
恥ずかしいな~
そう思っていると、女性スタッフさんが戻ってきた。
『確認出来ました。昨夜、当ホテルまで、お客様を送ってきて下さった方ですよね。
外見を聞いておりました。
お客様は、もう少ししたらいらっしゃいます。
コーヒーか紅茶、どちらになさいますか?』
『あ、紅茶をお願いします』
目を伏せていても見ていたんだ。
なんか…ツッコミ所満載かも…
ププッと思い出し笑いしてしまった。
紅茶を飲み終えた頃
『待たせちゃったね』
後ろから声をかけられた。
『あ、いえ…』
振り返ると…
そこには、昨夜のコンサートのピアニストが立っていた。
『え~っ?』
思いがけず大きな声が出て、慌てて、両手で口を押さえた。
声が出ない。
昨夜、何故、気がつかなかったんだろう?
昼間、近くで見ると、心臓が止まるくらいに美形。
中性的なのかな?
もう…目を見て話せないよ…
ホテルのスタッフさんが、レストランのドアを開けてくれた。
見回すと、窓辺のテーブルが予約されていた。
テーブルに飾ってある花が綺麗。