出逢い①
青い空に、青い海。
海辺のホテル。
テラスから見える砂浜は、プライベートビーチ。
海風が、さわさわとカーテンを揺らす。
その度に、潮の香りが部屋に満ちる。
私は、ベッドに座って、潮風を感じていた。
彼は、ベッドの中で、丸くなって眠っている。
昨夜はマリーンのライブ。
ライブ後に、スタッフさん達と、ホテルのバーで飲んでいた。
部屋に戻ろうとした私を、彼は引き止めた。
『ここにいて。見える所に』
初めは、彼の近くに座っていたけれど、なんとなく居心地が悪くなり、隅の席に移動した。
彼はお酒に弱い。
お酒より、おしゃべりするタイプ。
彼はマリーンやスタッフと楽しげに笑っている。
軽く酔ったままで、バーのピアノを弾くこともある。
部屋に戻りたいな。
私の英語力は、幼児並みだし…
深夜を過ぎた頃、ようやく皆が部屋に戻り始めた。
『どうして隅にいたの?探したよ』
と、子供のように聞く彼。
『英語…分からないし…』
『そんな事?大丈夫だよ。聞いていれば自然と分かるようになるから』
彼は、私の頭を撫でた。
私のバッグから、カードキーを出して、ドアを開ける。
彼は、真っ直ぐにベッドに向かい、倒れるように眠ってしまった。
『おやすみ…』
微かな声が聞こえた。
『おやすみなさい』
私は、そう言って、シャワーを浴びて、冷蔵庫から、ミネラルウォーターを出して飲んだ。
これは…夢。
だって、私なんかが彼と付き合っている事自体、嘘のような気がする。
彼と出会ったのは、数年前。
友達に誘われたコンサートだった。
『イケメンピアニストを見に行かない?』
『聴きに行く。じゃないの?』
『クラシックだよ。眠くなるし~。でも、ピアニストは超イケメンなの。
取引先に頼んで取ってもらったチケットだよ!
タダなんだから』
そんな訳で、友達とコンサートに行った。
本当にイケメンらしく、あちこちから
『キュン死するよ~』
『そこらの男性なんて雑草』
『私もピアノを再開しようかな』
などと聞こえてくる。
貼ってあるポスターには、彼の手もとしかない。
グッズのCDにも、後ろ姿や手もとだけ。
顔出し不可?
そんな事を考えながら、席についた。
『…ヤバい。本当にイケメン』
演奏中に呟いてしまった。
『しーっ!』
隣のおばさんに睨まれた。
コンサートが終わったとたん、友達が聞いてきた。
『どうだった?本当にイケメンだったでしょ』
『うん。イケメンの中のイケメン?』
『彼を見た人は、彼氏が出来なくなるらしいよ』
『どうして?』
『他の男性が人に見えなくなるから笑』
この言葉を聞いて笑ってしまった。
『じゃ、またね~』
ホールの前で、友達と別れた。
駅までの道を歩いていると、声をかけられた。
『すみません、帝国ホテルはどう行けばいいですか?』
『帝国ホテル…?』
新手のナンパ?
そう思いながらも
『歩いて行くんですか?電車かタクシーの方が…』
と言うと、彼はもう、タクシーを止めていた。
『お礼に、何かおごらせて下さい』
半ば強引にタクシーに拉致された。




