7限目 歓迎
はじまるよん。
「あの、これ、どういう状況ですか?」
ボクは今寮の一階の食堂の横にある少し広い和室にいた。
「何って、歓迎ですよ、か・ん・げ・い!」
「そうですよ!ここに新しい人が来るなんて本当に久しぶりの事なんですからね!」
「いや、で、でも・・・ヒナタさんが・・・。」
「あの殿方はほっといたら来るんでしょう?ならいいじゃないですか!!今夜は無礼講ですよ!!」
「そもそも無礼も何もないでしょ。」
長机に並べられた見たこともない料理。ジュースよりも多い酒瓶。レイアさん、ミシリスさん、エミルさん以外の多くの寝巻を着てはしゃぐメイドさん。そしてたった二人、寝巻ではなく普通の恰好(長いシャツを羽織っている)をした男の人がいた。片方は黙々と料理を食べ、もう片方は数人の女の人達と話していた。
「この寮って、何人の人が住んでるんですか?」
エミルさんに聞く。
「レイン様とヒナタ様を含めると、女が12人、男は3人。動物は、ピイ様1匹だけです。」
「そうですか・・・。」
例のピイは、数人のメイドさんにおもちゃにされている。ピイはピイでまんざらでもなさそうだが。
「まあ、畏まらないでください。歓迎なんて皆、酒が飲みたいだけの口実ですから。」
「は、はあ・・。」
「そんなことよりも、レイン様もしっかり食べてくださいよ?私たちが腕によりをかけて作ったんですから!!」
エミルさんも少し酔いが回っているようだ。昼間のようなあの落ち着きが少しなくなってる。顔も赤いし。
そう。もうすでに乾杯は始まっていた。料理は半分ほど無くなっている。
それに、レイアさんとミシリスさん・・・。どう見ても子供のような見た目なのにお酒を飲みまくってべろんべろんに酔っている。その他にも二人のような小さい体形の子供(?)はいるのに、ジュースよりもお酒のほうが早くなくなってるし・・・。皆何歳なの?
ボクはあまり料理に口をつけていない。
いや、美味しいことはおいしい。だけど、地球では食べたことのない肉の味、白身でも赤身でもなく、黄身の魚。どうしても抵抗が生まれてしまう。
「・・・私たちの料理、口に合いませんでしたか?」
箸を動かしていないボクを見て、エミルさんがそういった。
「あ、いえ、そんなことはありません!本当においしいですよ!!」
「そうですか!ならよかったです!でしたら、ぜひあの料理も食べてみてください!」
エミルさんが指をさした先には、少し小さい豚のような生き物の丸焼き。お腹の部分の肉は、既に食べつくされていた。
「あの心臓が、とっても美味しくて、酒のつまみにはもってこいなんです!!」
し・・心臓!?
「いや、ボク・・・あの・・そ、ほ、ほら!お酒飲めませんし、それに、美味しいのなら、みんなで分けたほうが・・。」
「あれ?レイン様、酒はお飲みになられないんですか!?」
「はい・・。未成年ですし・・。」
「え!?そうだったんですか!?でもそれにしてはずいぶん落ち着きがあって大人びていますから、てっきり成人なのかと・・。」
「でも胸がない。」
「そう、胸がない。」
レイアさんとミシリスさんが会話に入り込んできた。
「し、失礼ですよ二人とも!!酒が回っているからって、いい加減にしなさい!!それに、ほ、ほら!あなた達だって、別に胸があるわけではないし、成人だからって大きいわけではないし、ひ、貧乳はステータスだっていうし・・。」
「遠回しに傷つけてる。」
「そーだそーだ!!エミルさんは大きいからって!!」
頬をプクーと膨らませて二人が言う。
「な、そんなつもりじゃ・・・。」
「だ・・大丈夫ですよ・・?ボク、傷ついてなんていませんから・・・。」
そう言って笑うレインの顔は、若干引きつっていた
――――――――――――――
・・目が覚める。
いや、目が覚めたといっても現実ではなく、夢世界でだ。・・何回やるんだこのくだり。
窓の外を見る。紺色の空に一つ、大きな三日月。街灯のない街を優しく照らしている。高層ビルが立ち並ぶ現実の世界では、見ることのできない美しさだった。
景色だけなら、魅入ってしまうほど綺麗なのだが、何やら下から聞こえてくる騒ぎ声が完全に雰囲気をぶち壊していた。
「・・レインは今頃何してるんだろ。」
ふとそう思い、左隣のレインの部屋に行く。
「あれ?いない。」
ノックをしても返事が返ってこない。レインも現実で目を覚ましたのだろうか?
「・・とりあえず下の階にでも行ってみるか。」
階段を下りる。それにつれて、下からの声はどんどん大きくなっていった。
「・・飯でも食ってんのか?」
階段を下りてすぐ右隣りに見える、食堂と書かれたプレートの部屋に入るが、電気はついておらず、その横のふすまの部屋の部屋から騒ぎ声は聞こえてきていた。
そ~っと中をのぞく。
・・・中はカオスだった。
長机に並べられた見たこともないような料理。大量の酒瓶。全員ではないが、酔いつぶれた幼女と女の人。少し前に現実で、親戚の人たちが集まった時にもこんな状況を見たことがある。性別も年齢も違うがな。
それにしても何が起きてんだよこの状況。隙間から覗いてみて、唯一まともそうなのは・・・。
「あ、レインだ。」
長机の一番端にレインがいた。レインは周りとは違って、酔ってはいないようだが、中に座って何かを食べていた。・・というより口を開けて食べさせられていた。すげえいやそうな顔してる。よく見ると、それを食べさせていたのは、あの時城の入り口にいたボインの人だった。
「・・・部屋に戻ろう。」
流石にこんな女の子の空間に入ろうとは思えないし、ココからでもわかるくらい酒臭いし、なんだかんだレインも楽しそうだから邪魔はしないでおこう。俺が言ったら場を濁すだろうし。
本音を言えば関わりたくないだけだがな。
そっとふすまを閉め、階段を上がろうとした時だ。
「・・・ちょっと待ってくれ。」
「え?」
女の人のものではない声。振り向くと、そこには眼鏡をかけた、いかにも真面目そうな白髪の青年がいた。酔ってはいないようで、とても背筋が良く、身長も俺よりも拳一つ分くらい高そうだ。
「急にすまないな。俺は、ココの204号室に住んでいる、エリック・ペンシエーロというものだ。」
お、ココにもいたか、『4』仲間。
「おう、よろしく。俺はヒイラギヒナタだ。適当に呼んでくれ。お前はエリックだから・・・リッキーでいいか。」
現実のノリで返す。俺は初対面で話しかけられた相手(男子に限る)には、あだ名をつける癖がある。実は、今でこそ学年で統一されているデカとタッキーも俺がつけたものだ。1年の時、適当にそう呼んでたら学年全体にインフルエンザ並みに広まっててびっくりした。
「・・・それで構わない。」
「よし、そんで?リッキー。どうしたんだ?」
「いや、あの空間に少し居づらくってな。外の空気を吸いがてら、お前・・・。ヒナタがいたから、少し話しときたいことがあってな。」
「・・・・?」
「『黄泉送りの森』。あそこの魔物討伐に駆り出されることになったろう?」
「ああ、そうだな。」
「そのパーティに、俺も加わるという事を伝えておきたかったんだ。」
「え?そーなの?」
まあ、それもそうか。流石に二人で行くわけないもんな。命かかってるし。
「おう。それでだ。勿論俺だって無駄死にするために行くわけじゃない。あの森の魔物の強さは知ってるからな。聞いた話だと、魔物の体に描かれている文章を解くと、魔物の防御力が0になるらしいんだ。」
どんな体だよ。
てか、マークとかいう英雄が倒した魔物の問題って、『酸素の原子記号は?』みたいな内容だったんだろ?もしかして、『おーーーーーーー!!!!』って掛け声を上げながら倒したりしててな(笑)
「つまり、戦況を優位に運ぶには、より早い頭の回転、そして多くの知識を持つことが大切なんだ。」
リッキーが続けた。
「俺も、あのギャベロン達に少しは知識を叩き込んでもらった。だからだ、ゲームをしてみないか?」
ギャベロン――リャーギェル達の事か。
「ゲーム?なにそれ。」
「お互いが、お互いの知っている知識の中での問題を言い合って、それにこたえていくんだ。」
・・・それ今朝デカとやったんだが。
それに、俺あんまり知識とか無いぞ?分かるのは、今日デカに教えてもらった社会の部分と、一年生の内容くらいだ。勝負になるのだろうか。
・・・まあ、リッキーも地球の学問はリャーギェル達に教えてもらったくらいだ、って言ってたし、あんまり難しいことは知らないだろう。
簡単な問題でも出してやるか。
俺は少し上から目線な気持ちになる。
「じゃあ、俺から。『1894年、領事裁判権の廃止をしたのは?』」
「陸奥 宗光。」
はやっ!!!え?嘘だろ?
リッキーは俺が廃止というフレーズを口に出したあたりですでに某首都にある大学のトップを争うテレビ番組のごとく答える準備をしていた。
いや、大丈夫だ。答えるのが早いだけだし、もしかしたらたまたま覚えたばかりの事かもしれない。
それに社会なら少しは・・・。
「じゃあ、次は俺だな。『何種類かの組織が集まって、特定の働きをする部分は?』」
り か か よ
ワンチャン詰みましたよこれ。いや、でも頑張れる。えーと、集まるってことはいっぱいあるんだろ?体の中でいっぱいあのものは・・・。
「・・・細胞?」
「惜しい。[器官]だ。じゃあ、もう一個。そうだな・・・。『土砂や生物の死骸、火山灰などが、上に堆積したものの重みで押し固められてできた岩石は?』」
間髪入れずに問題を出してくる。
「え・・・?・・・凝灰岩?」
「それも違う。答えは[堆積岩]だ。・・・待て。ひょっとしてヒナタ・・・。」
「はい。あまり勉学は得意でございません!!」
「・・だと思ったよ。全く・・・そんな知識で大丈夫か?」
大丈夫だ、問題な(ry
・・・とは流石に言えない。
「ていうか、何でそんなにリッキーは知ってるんだ?」
「ギャベロン達が、万が一に備えて城の兵士やお手伝い達の為に時々勉強の場を開いててな。俺もたまにそれに行ってる。」
WAO sonnnakotositerunokayo
「それに、今の訓練兵のメニューには座学で地球の学問が取り入れられてるみたいだからな。」
Oh my God
やばいじゃん俺。
「まあ、兵の中には少し不真面目なものや、何故地球の学問を覚える必要があるんだというものもいるし、やっぱ得意不得意があるんだろうな。」
ほっ。それ聞いて安心。やっぱ現実と変わらないところもあるんだな。
「ところで、ヒナタは夕飯食わないのか?」
「ああ、別にここに来る前食べたし・・・。」
と口に出した時だ。
グウウウウゥゥゥゥゥゥ
体の内側から音が鳴る。
「れ?」
「・・・腹は正直なようだが・・・。」
「いや、待ってくれ。俺は確かにこっちに来る前に夕飯は食べたはずだ。それに今日は刺身だったからご飯もお替りした。腹がすいてるはずはないのに・・・。ってことは、現実とこっちの腹はリンクしてないのか・・・?」
「・・・ちょっと何言ってんのか分かんないぞ。」
「あ、いや、俺は地球とこの世界を夢でを行き来しててだな・・・。」
あらかたの事をリッキーに話した。
「成程。つまりお前は腹がすいてるんだな。」
「ま、そゆこと。」
「じゃあ、部屋に入って何か食べて来いよ。雰囲気は最悪だが飯はうまいぞ?」
「いや、とはいえだな・・・。」
再び部屋をのぞいてみる。
中は相変わらずカオス。むしろ悪化している。
あ、やばい。何か野球拳とかいう単語が聞こえる。
「・・・はあ。あいつらも酒が入ると何するか分かんないな・・・。」
やれやれというような顔でリッキーが言った。
「ちょっと待て。野球拳しようとか言ってんの男だぞ?」
「・・・は?」
「しかも相手は・・・。やべ、よりにもよってレインかよ。おい、どう辞めさせりゃあいいんだよ。」
男に誘われているレイン(性的な意味ではない)は、どう見てもいやそうな顔をしているが、周りも酔っていて、何故か止める者はいなかった。
まずい。レインは城でも見たけど、あまり断るのが苦手なタイプだ。今にもいやいやだが立ち上がろうとしてる。おい、周りも手拍子するんじゃねえ。
「・・ヒナタ、その男の周りに酒瓶は何本落ちてる?」
リッキーが尋ねてきた。
「え?えーと、1,2,3,4・・・6本位。」
何に使うんだと言おうとしたとき、
「よし、じゃあ任せろ。」
と、そういった瞬間、リッキーがふすまを勢い良く開けて部屋の中へと入り、すぐさま男の背後に忍び寄って蹴りを食らわせた。
「ぎゃ!?」
男はそう声を上げて、その場に倒れた。すげえ見事に決まってた。
その後、リッキーは、男の周りにからの酒瓶をいくつか置いた。
そしてその状況を見て静まり返った部屋の中で叫んだ。
「おい、お前ら!宴会はこんなもんでいいだろ!!いくら歓迎会だからって飲みすぎだ!!エミル、ソフィ、シェインは食器を片付けろ!!レイア、ミシリス、アイ、ロップルは机と座布団をしまえ!後の奴らで掃除だ!!残飯はまだ食べれそうなものは貯蔵室で冷やしとけ!!今日はもうお開きだ!!汗かいてるみたいだから風呂入って寝ろ!」
・・はーい。
という全員の残念だというような声とともに宴が終わる。それぞれがリッキーに言われた仕事をこなし始めた。何か空気壊して申し訳ない気分になる。
てか、すげえなアイツ。この集団にいう事を聞かせられるなんて。
リッキーが戻ってきた。
「これでいいだろ。ああ、ヒナタ。多分残飯が運ばれるから、食べればいいぞ?」
「いや、別にいいや。流石に食いかけってのもな。一日くらい我慢できるし。・・てかすげえなお前。この寮の何もんだよ。」
「・・・ただの住人だよ。ここには別に代表とかいねえからな。」
「そ、そうか。てか、あの男の人どーすんだ?完全に伸びちまってるぞ?」
「ああ、あのまま寝かせておく。周りに酒瓶が置かれてたら、酔いつぶれて寝たとでも思うだろ。ぶっちゃけアイツバカだから。」
・・・イケメンだなコイツ。
「あ、あの・・・。」
気が付くと、レインがこちらによって来た。
「えーと、君はレインだったっけ?どうかしたのか?」
「さっきは、ありがとうございました。ボク、ああいうのに弱くて・・・。」
「いいよ。ここではいつもの事だ。ココでの耐性がついたらじきに慣れるさ。」
「あ、はい!」
レインが笑う。
・・・待て。リッキー、お前少しやりすぎだ。
「あれ?ヒナタさん。戻ってきてたんですか?」
・・ほれ見ろ。俺の存在がおまけになってる。
「ついさっきな。流石にあのムードの中入ろうとは思わなかったけどよ・・・。」
「そうですか・・・。でも、ココの人たちは、みんないい人たちばかりですよ。少し、お酒に弱いけど、優しいし、料理もおいしいし。」
笑ってレインが言った。
「・・・そっか。」
「あ、そういえばエミルさんとレイアさんとミシリスさんが、よろしく言ってましたよ。」
「名前を言われても、誰が誰だか分からんがな。」
そういうと、レインが指をさしながらその3人を探しし始めた。
「えーと、あの方と・・・あ。」
「ん?どうした・・・あ。」
「え?何かあったのかい・・・あ。」
俺たち3人は、レインが指さした方を見て、言葉を止めた。
・・・何故ならピイがあの男の下敷きになって潰れていたからだ。
おわりだよん。