6限目 二人と一匹
マスクつけて走ったら死ぬかと思った。
『では、ヒナタ、レイン。ここがお前たちの寝る場所だ。』
「え?ココ?」
俺達は城内を出て500mほど歩いただろうか。目の前にあるのはどこか昭和を感じさせる木造建築の3階建てのアパートのような場所だ。
いや、アパートというよりは寮か。
『入口から入って2つ階段を上がった4番目。まあ、『304号室』だ。それがヒナタの部屋。その横の一番奥、『305号室』がレインの部屋だ。』
いや、304て。30『4』て!!!!確かそれって不吉な数字ではないのか!?
『一応ココは王に使える者たちの宿泊場でもある。さっき場内で見た奴もいるかもな。ほら、鍵。』
リューギェルが俺にカギを差し出す。受け取ったカギの先には・・・。
「うわ!?トカゲ!?」
『はははははは!!!おもちゃだよおもちゃ。本当に最高だよ君は!!』
「いや、手品か!!!この悪趣味変態タキシード山羊が。」
「ヒナタさん、よく言ってくれました。」
レインもカギを受け取り、(レインのカギにはムカデがついてた。さらに二回目なのに驚いてた。)俺達は寮の中へと入っていった。
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階段を上がっていった二人と一匹をコッソリと見る二つの小さな影
「レイアさん、あの二人は俗にいうカップルというものでしょうか。」
「いいえ、ミシリスさん。分からないわよ?聞いた話だとあの二人が知り合ったのは今日の朝だそうですから。」
「うむむ。となると短期間でベッドインという事に・・・。」
「何でそうなるのよ。」
「あのテュエンピイがついていってるのは何ででしょうか?」
「・・・わかりませんね。あの生物があれ程までにおとなしくなっているとは。」
「とにかく、これはつけてみる必要がありそうですね。」
「ええ、慎重によ。慎重に。」
影は音を立てずにサササと階段を上っていく。そして3階の踊り場 廊下の奥で部屋の鍵を開ける二人と一匹をじっと見つめていた
「へえ、トイレと風呂がないのは気になるけど、部屋は広いし、木のいいにおいがするな。」
『ピイ!』
「ええ、そうですね。トイレは一階の階段横にありましたよ。」
「ふ~ん、あ。」
バタ!!
何かが倒れる音
「!?ヒナタさん!!」
『ピピ!ピイ!?』
それはヒナタが部屋に入るな否や、突然気を失い、倒れこんだ音だった
「むむ。レイアさん。この状況はあの姫君の女子力というものが試されますね。」
「ええ、そういっても過言ではないでしょう。」
その姫君―レインとピイはヒナタのもとへと駆け寄り、少し重そうにしながら倒れたヒナタの体を部屋へと運んだ。
「おっと!?あの姫君、とても積極的ですね、レイアさん。」
「ええ、ミシリスさん。でも、ここであの姫君は自分の部屋ではなくあの殿方の部屋へ体を運んだわ。ここまでの流れだと、営みは・・・。」
「何してるの、あなた達。」
「!?エ、エミルさん!?」
ぽこん
二人の頭が小さくたたかれる音
「全く・・・。あの殿方たちに挨拶をしようと上がってみたら・・・。何をこそこそと付け回しているのですか。」
「だ、だって・・・。この寮に殿方なんてあの人を含めても3人しかいないんですよ?しかもあの二人は一日交替で城にいるし・・・。」
「そうですよ!しかもその二人は真面目さんとちゃらんぽらんだし!この寮にはときめきもくそもないんですから!少しくらい妄想を膨らませてもいいじゃないですか!!!」
「そうです!エミルさんだって少しはそういう欲が・・・。」
ぼこん
さっきよりも鈍い音
「「いった~い」」
「失礼なのよ、あなた達は。」
「?誰かおられるのですか?」
『ピイ?』
廊下の奥から二つの声がする。それは殿方の部屋から出てきたあの姫君とテュエンピイのものだ。
「あ、どうも初めまして。私、ノモスコンスティ城でお手伝いをさせていただいております、エミルと申します。」
エミルさんが素早く90度の礼をする。
「同じく、ミシリスです。」
「レイアです。」
それに続いて私達も深々とお辞儀をする、というよりはエミルさんに頭を掴まれて無理矢理させられた。
「すいません、この子たちはまだ見習いなものでして。何か至らない点がありましたらお教えください。保護者としてしっかりと説教いたしますので。」
「いえ、大丈夫ですよ。迷惑なんて一つもかかっていませんから。ボクはレイン・フォレスターといいます。」
『ピイピイ!!』
「・・多分、僕はピイだ!!と言っていると思います。」
レインがピイ語を翻訳した。
「はい!レイン様とピイさんですね!!今後とも、同じ屋根の下、よろしくお願いします。」
「よろ」
「しく」
「ちゃんとしなさい。」
小声でそう言われ、頭をぺしっとたたかれた。
「あのー、それで、殿方様のほうは・・・。」
エミルさんが尋ねる。
「あー・・・。今ちょっと寝てまして・・・。」
・・何か表情が曇ってる。
「レイン、嘘ついてる?」
「レイア!!失礼ですよ!その言い方は!!」
「いや、でもそんな風に見える。」
「・・・やっぱり、顔に出るんですかね、ボク。はい、実は今ヒナタさんは、現実のほうで目覚めているのです。」
「現実?目覚める?どういう事?」
ミシリスが尋ねた。
「実は・・・。」
私たち3人はその殿方――ヒナタがこことは違う世界の住人で、この世界とを睡眠によって行き来しているという事を教えてもらった。
「成程・・・。そういうことだったんですね。」
「だからさっき倒れたのか。」
「納得。」
「では、どれ程時間がたてばお会いできるでしょうか?」
「・・・ヒナタさんの気分次第ですね。」
「つまりその間殿方は無防備であると!?」
「ご奉仕を受けても気づかないと・・・!?」
私とミシリスが反応する。
「な・・・!?」
レインが顔を赤面させた。
「二人とも、馬鹿なことを考えるのは止めなさい!!」
そういって、エミルさんは私たち二人のわきの下に腕を入れ、そのまま持ち上げた。
「な、何をするんですか!!」
「ぎゃ、ぎゃくたいです!!うったえますよ!!」
「どこに訴えるんだか・・・。さ、挨拶は済んだでしょ。行くわよ。レイン様、ピイ様。この寮は少し賑やかすぎて落ち着けないかもしれませんが、そこに目をつむれば快適な空間ですし、お困りごとがありましたら下の階に行けば私共のようなメイドがおりますので、なんなりとお申し付けください。殿方様にもよろしくお願いいたします。」
「あ、はい!こちらこそ、しばらくお世話になります!色々と、ありがとうございました!!」
「じゃーね。」
「ここは壁が厚いからね。夜に何してもだいじょ・・・。」
エミルさんが私の口をふさぎ、そのまま私たちを両脇に抱えたまま階段を下りていった。
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「・・・朝か。」
やけに重たい体を起き上がらせ、ベッドから降りる。
時計は6時30分。目覚まし時計はしっかりと機能したようだ。
寝巻のジャージを脱ぎ、学生服を着る。
「!そういえば・・・。」
机を見る。しかし、あの悪趣味な絵は残ってはいなかった。本当に夢世界に行ってたみたいだ。
まあ、どーでもいいや。
そのままリビングルームへ足を進める。
机の上に用意されていたのはお茶漬けと昨日の夜の残りの味噌汁。いつも通りの手抜きようだ。
「いただきます。」
カチャカチャと音を立てながら朝ごはんを腹の中に入れていく。
いつもと変わらない味。
「ごっそーさん。」
「食器洗っといてーーー。」
掃除から食器洗いまで、大体俺任せな母親。ニュースを見つつ携帯をいじりながらそう言った。
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「おはよー、日向。」
デカが机にスクールバッグを置き、俺に行った。
「うむ、おはようございます。」
「珍しいな。お前が起きてるなんて。」
「久しぶりにぐっすり寝れちまって、眠気がないんだよ。だからぼーっとしてる。」
「・・・いや、せめて何かやることはあるだろ。そうだ、俺が教科書から問題出すから答えてみろよ。」
「ばっちこい。」
「よし、じゃあ問題。あ、社会な。日本は、1940年にドイツとイタリアとある同盟を結びました。それは何でしょう?」
「・・・。ヒントは?」
「早いな・・・。少しくらい考えろよ。」
「俺がそんな簡単にわかるとでも?」
「って思うんなら勉強しろよ・・・。ヒントは第二次世界大戦だ。」
「・・・日本ドイツイタリア同盟。」
「新しい言葉を作るんじゃない。まあ、でもそんな感じだ。答えは[日独伊三国同盟]だよ。じゃ、次。少し前の所から出そうかな・・。じゃあ、1840年、イギリスが台湾を手に入れた時の戦争と、その条約の名は?」
・・・何か聞いたことがあるぞ。あ、そうだ。一派信仰だっけ?
「アヘン戦争とかぼちゃ・・じゃなくて南京条約。」
「え?」
デカが俺を真顔で見つめてきた。
「・・あれ?違った?」
「いや、あってるけど・・。どうした?お前。ちょっと頭良くなってるぞ?」
「ひどい言いようだな。」
その後も俺とデカはこのクイズを続けた。結局俺が答えれたのはそれだけだった。
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3限目 社会科の時間
「おーし、時間が余ったからプリントするぞー。」
クラス中から落胆の声。その声に俺は含まれていない。だってどーでもいいもん。
前から小さなプリントが配られる。
「よし、時間は10分。簡単な復習だから早い奴は5分もかからないかもな。それじゃあ、はじめー。」
気の抜けた声とともにクラスが静かになり、シャーペンの音が響く。
みんなまじめにやっている理由は、今終わらせないと宿題になるからだ。
というわけで仕方なく俺もプリントに目をやる。
ん?
見たことは無いが知ってる問題が書いてある。そういえば今朝デカとやった問題だ。なんて運がいいんだ。これも俺の日ごろの行いがいいから(ry
流石に全部とまではいかなかったが、ほとんど埋めることができた。デカが解説してくれたところもあったしな。
ボーとしてたら10分なんてすぐに過ぎた。
「よし、やめろ。出来てない奴は宿題!隣同士で交換で丸付けしろ。」
いつもなら回答が配られた瞬間に答えを映してから交換するが、今日はその心配がない。
隣にいる女子とプリントを交換。全くと言っていいほど会話をしたことがないが、少なくとも真面目な事は知っている。
手元に残ったプリントは赤丸でいっぱいになっていた。
「え?」
隣で驚くような声。
「よーし、丸付けできたか。それじゃあ、返してやれ。これで終わるぞ。」
隣の女子が信じられないとでも言いたそうな表情でプリントを返した。帰ってきた俺のプリントには空白以外の殆どに赤い丸が書いてあった。
自分でもびっくり
運動不足ですね。でも日光を浴びたくない・・・。