4限目 階段
昔の教科書引っ張り出したらアルバムが出てきた。
「・・・ありぇ?」
夢の中で意識を取り戻す。目の前には開いたはずの扉が再びその口を閉じてたっていた。
近づいてみると、そこには先ほどと同じように液晶が、しかし映し出されている文章は全く違うものだった。
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19世紀ごろ、イギリスが清から香港を手に入れた条約を何というか?
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「・・・社会科?」
確か清は今でいう中国の昔の名前だったはずだ。
・・・分かる情報はそれだけだ。よし、起きて答えを確認するか。
そして俺は現実の俺が起きるイメージをし・・・・。
あれ?おかしいな。起きれないぞ。どういう事だ?
『残念じゃったな。おぬしの体は今最も深い眠り状態にある。ちょっとやそっとじゃ、当然起きられないぞ。』
「え?誰の声・・・。」
後ろを振り返る。
そこにはなぜかあの体育倉庫で見つけた絵が落ちていた。
『儂の名はリャーギェル。ギャベロンと呼ばれることもある。決して怪しいものではない。』
「・・・お、おう。」
いや、怪しい。怪しすぎる。
てか何で夢にまで現れるんだよコイツ。ふざけるんじゃねえよ。悪夢にもほどがあるだろ。
『おぬし、その問題に苦戦しているようじゃの?儂が力を貸してやってもよいぞ?』
「ほ・・本当か?」
『勿論。儂は嘘はつかぬ。』
前言撤回だ。こいつ・・・リャーギェルは怪しくなんかねえ。超いい奴。救世主。ヒーローだ。
「で?答えは?」
『いや、待て待て。儂は力を貸してやるといっただけ。答えまでは教えられない。おぬしにはヒントを与えるだけじゃ。』
「・・まあ、いいだろう。で?ヒントは?」
『うむ。そもそもじゃ。この条約では清のほうは全くと言っていいほど得をしておらぬ。なぜかわかるか?』
「香港を取られたから?」
『そうじゃ。これだけでなく、清は他の欧米諸国とも不平等な条約を結ばされておる。しかし清はこの条約を結ばざるを得なかった。理由は戦争に負けたからじゃ。その戦争とは[アヘン戦争]。イギリス、インド、清との間ので、イギリスはインドに、清にアヘンという麻薬を密輸するようにさせた。その対価として銀がインドに回ってくる。このころイギリスは茶などを清から一方的に輸入してたのでそれに払う銀が不足していた。なので、今度は儲かったインドに工業製品を輸出してぎんを取り戻した。これがいわゆる[三角貿易]・・・っておい、おぬし。』
「zzz・・・。」
『おぬし!!夢の世界でさらに寝るでない!!!起きんか、これ!!』
「んあ?銀がなんだって?」
『・・全く聞いておらぬようじゃな。とにかくこれは[1840こう(一派信仰)アヘン戦争]で覚えとれ。宗教に取りつかれるかのように清の者たちがアヘンにおぼれたという具合にな。まあ、戦争を仕掛けたのはイギリスからじゃがの。』
「・・・で?条約の名は?」
『・・・こういった条約は結ばれた場の地名を使う事が多い。ヒントはかぼちゃじゃ。』
「かぼちゃ・・・?あ、南京(南瓜とかけた)か!!てことは、南京条約ってことね。」
『ほとんど答えを言ってしまったな。』
「サンキュー!リャーギェル。」
俺は端末に南京条約と入れて扉を開けて・・・。
目の前に移ったのはナイフを振りかざした少女だった。
――――――――――――――
「これで扉が開くかな・・・。」
手に持ったナイフを見る。
ナイフなどを扱ったことは無いが、切れ味は良さそうに見える。扉の材質はおそらく木だろう。思いっきり振り下ろせば行けるはずだ。
ナイフを振り上げる。
その時だった。
急に扉が開き、出てきたのは・・・。
「ああああああああぶねえええええええええええええええ。」
叫んでいるヒナタさんだった。
「あ。」
ボクはそのままの勢いでナイフを振り下ろしてしまう。
まずい、これじゃあヒナタさんが・・・。
『【Fe】』
キーン!!!
耳を劈くようなく金属音。腕がしびれる感覚。
目を開けてみるとボクが刺したのはヒナタさんの肉ではなく、鉄の板だった。
「え?ナニコレ。」
向こうでヒナタさんがつぶやく。
『いやあ、ビックリしたのう。儂の反応が少しでも遅れていればおぬしの頭は切り落とされていたじゃろうな。』
後に続く聞き覚えのある声。まさか・・・
「リューギェル・・・?」
『いいや、違うぞ。儂はリャーギェル。おぬしもちゃんとリューギェルに会えたのじゃな。』
「ちょっと待て。俺全然ついてけない。」
『ふふふふふ。では、私が説明してもよいのかな?』
「ひ!?」
後ろから聞こえる抑揚をつけた生ぬるい声。
駄目だ。生理的悪寒が走る。振り向きたくもない。
『おや?レイン。ひょっとして忘れたのかなぁ?』
『よさんか。リューギェル。無理に警戒させてもしょうがないじゃろう。』
『そうですね、リャーギェル。レイン、先ほどのような下品な真似は止めてあげよう。』
「・・・わざとやってたのね。」
恐る恐る後ろを振り向く。そこに立っていたのは、顔はあのはく製と同じものだが恰好はタキシードを着た、まるで紳士のような人?だった。
「?????」
『ま、混乱するのも無理はないよねえ。』
後ろにあった鉄の板が消える。
『儂もこの紙の中はどうも落ち着かん。』
ボン!!という音と白い煙とともに現れたのはシルクハットをかぶった、リューギェルと足元から頭の先まで瓜二つの人?だった。
『やはり元の姿が一番じゃ。それではリューギェル、彼らに事の説明を。』
『分かりました。ではヒイラギヒナタ、レイン・フォレスター。君たちがこの世界に来た経緯を説明しましょう。』
・・・何の話が始まるのだろうか。
『いや、やっぱり一度城に来てもらったほうが早いですね。【座標移動】』
「「は!?」」
ボクたちの立っていた場所が突如光に包まれる。
「「えええええええええ!?」」
『はーはっはは、やっぱり期待通りの反応をしてくれるねえ。』
「う、うるさい!!」
抵抗などできず、ボク達はその光に吸い込まれるようにこの草原から消えた。
――――――――――――――
「・・・ここは?」
俺が気づくと立っていたのは門の前。だがひとえに門とは言ってもさっきと違い、門の両横には鉄の鎧をまとい長い槍を持った門番が立っている。熱いのにご苦労様です。
それだけでなく、門の向こうには大きな噴水が、さらにその奥には王道RPGに出てきそうな青い屋根の城が建っている。周りにもタペストリがいくつもかかった城壁など、まるで夢でも見てるのでは(ry
『ここがこの国の中心部である[ノモスコンスティ城]。君達には今からこの国の王にあってもらうよ。』
「は?王?何で?」
『それは行けば分かるじゃろう。ちょうど迎えも来たようじゃ。』
「迎え?」
『ヒナタ様、並びにレイン様、お待ちしておりました。』
突如目の前にはリャーギェル、リューギェルと瓜二つの恰好をした紳士が礼をしていた。
『ワタクシの名前はリョーギェル。そこのリャーギェル、リューギェルと共にこの城の執事をしております。どうぞ、お見知りおきを。』
リョーギェルが顔を上げる。
うん、やっぱ顔もおんなじだ。
「あ、ボクはレインです。こちらこそ、よろしくお願いいたします!」
横でレインが畏まって礼をする。
すこし焦ってるとこが可愛い。
『ええ、ぜひ今後ともよろしくお願いいたします。ヒナタ様も。』
「あ、おう。ヨロシク。」
・・・何か適当な挨拶になっちまったな。
『・・・リューギェル。急に城へ来るなんて言わないでください。こちらはこちらで大変なんです。』
『ふふふふふふふふ。いや、私が説明しても理解できないかもしれないかなと思ってつい。』
・・・俺の事か?
『リョーギェルよ、王は今どちらに?』
『玉座で首を長くして待っておられます。機嫌を損ねられるのもなんですので、なるべく急ぎ足で向かわれるのがよろしいかと。』
『うむ、そうか。ではヒナタとレインよ。城へと向かおうぞ。』
3人(匹?)が先導するように歩き出す。それに続いて俺達も歩き出す。
「あの・・・。ヒナタさん。」
「なんだ?」
「さっきは、すいませんでした。急にナイフなんか降ろして。」
「ああ、別にどうってことないって。生きてるし。それよりも、俺達王にあって何すんだろうな。」
「・・・何でしょうね。わざわざ夢の中でなんて。」
「本当にこれ夢か?思い通りになるってわけじゃないし、痛みもあるし。」
そんな話をしながら城内の庭を歩く。舗装された道の傍には見たことのある花も、知らない花も色とりどりに植えられ、数々の兵が出入りしていた。
前の景色に気を取られて気が付かなかったが、振り向くと町も見えるし、栄えている国なのだろうか?
『さて、あとはこの階段を上がれば入口ですよ。』
リョーギェルの言う通り、目の前に現れた階段には城の屋根と同じ青色に金色の装飾がされたカーペットが敷かれていた。
それはいいのだが・・・。
「なあ、リョーギェル。この階段何段あるんだ?」
「さあ?120段ほどでしょうか?」
・・・動く城じゃなくてよかったよ。
とにかく、階段を上っていく。
俺はまだ運動部に入ってて階段ダッシュとかには慣れてるが、華奢な体のレインが辛そうだ。
「大丈夫か?レイン。手、貸すぞ?」
「大丈夫です・・・。ボクだって足手まといにはなりませんから。」
そういって俺を見上げるレインの額には汗が浮かんでいた。
その水滴は頬を伝い、白いTシャツにしみこんで胸元が・・・。考えないようにしよう。
そういえば、服装について何にも言っていなかったが、俺は黒の半袖のパーカーにダメージジーンズ、そして白いスニーカーを履いている。おそらく、良く着る服だから夢にも適応されたのだろう。
変わってレインは、少し大きめのTシャツにデニムのショートを履いている。スラリとした透明感のある白い足が魅力的だ。
・・俺はいつの間にコーディネーターになったんだ?
『さて、もう少しですよ。』
地面が見えてくる。あと15段ほどだ。
「よし、もうすぐだ・・・。うわあ!?」
あとすこしというところで、俺の目の前を小さな丸い生物が通り過ぎる。
・・・俺はそれに驚いてのけぞり、気づいた時には地面に寝ころんでいた。
「大丈夫ですか!?ヒナタさん!!」
ようやく登り切れるところまで来ていたというのに、疲れも気にせずレインは俺のもとへと駆け寄ってくれる。天使だ。
「なんだ?今の生き物・・・。」
『いやあ~。派手に転んだねえ~。」
リューギェルも降りてきて、嫌味ったらしく言ってくる。コノヤロー。
『そういえばこの世界の生き物について特に言っていませんでしたね。あの生物の名は[テュエンピイ]といいます。不規則的な行動が好きなようで、止まる時間よりも動く時間のほうが長いくらいですから。』
「動くテュエンピイ・・・。なんか現実にもそんなのあったな。お世話になってるよ。」
『まあ、それよりも大きなけががなくて良かったです。100段ほど上から落ちたのに軽い痣程度で済むとは。』
「・・・こういう人間なんすよ。夢なのに痛え~。」
「ハンカチ・・・。貸してあげましょうか?」
レインがそっと日の香りのした白いハンカチを差し出す。太陽と重なって後光が刺しているように見える。天使ではない。もはや神だ。
「いいよ、そんな綺麗なハンカチ、汚したら駄目だって。どーせ夢なんだし。」
「いえ、そんな・・・。」
『では、儂が直そう。【応急処置】。』
そうリャーギェルが唱えると、体の痛みが引いていくのが感じる。
『これでいいじゃろう、ではもう一度上るとするかの。』
「なあ、そのさっきから鉄の板出したり瞬間移動したり、どうやってるんだ?」
『・・・それも来れば分かるじゃろ。』
リャーギェル達は前を向き、再び歩き出した。俺達もそれにまたついていった。
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思い一歩を踏み出す。
「あーーーーーー。やっと着いたー。」
「本当ですね・・・。」
時間にしては1,2分の事ではあるが、とても長く感じた。さっきのくだりもあったし、精神的な疲れもあったのだろう。例えば振り向くたびにレインの服が透けてるとか。目のやり場に困りました。
「・・・でけえ。」
上を見上げれば陽は屋根の先のポールで隠れ、前を見ればそこには厳重に閉じられた鉄の扉とその横に並ぶ数十人の兵士が、俺を威圧するかのように立っていた。
後ろを振り向く。
広がっていたのは、階段下の少し横に広い道とその先にある大きな噴水。そして城壁の向こうに見える町と山々。まさにそれはテレビでしか見ることのできない仮想現実の世界だ。
『さて、慣れないのも分かりますが行きましょう。兵よ、扉を開けてください。』
目の前の景色に魅入っていた俺を、警戒している風に感じ取ったのだろうか。リョーギェルがそういって俺を催促した。
ガチャン
扉が開き、中ではリャーギェルたちと違い人間の執事、それからめいどさん.そして数々の煌びやかな装飾と左右に分かれて道を作った兵士たちが迎えてくれた。
『まあ、ああいったふうにあの者たちはしておるが、畏まる必要はないからの。おどおどせずとも堂々と入ればよい。』
そう言うが、流石に無理だ。
通り過ぎる度に敬礼をする兵士、ボインなメイド、城内の高級ホテルのようないいかほり。右手と右足が一緒に出てしまいそうになる。
『玉座の間は、正面の階段を上ってその奥の螺旋階段を上ったすぐ前の部屋じゃ。ここからは少し別行動になるでの。迷わんように。ではまたあとでな。』
そういってリャーギェル達は階段下へと姿を消す。
「・・・また階段か。」
「ここに住むと思ったら、大変ですよね。」
「ああ、毎日筋肉痛じゃあすまなそうだ。」
といいつつも、しっかりと階段を上る。後ろからの気配が怖すぎて、また何度か転びそうになってしまった。
次の螺旋階段だが、まさかの手すりが内側にしかついておらず、なんて欠陥住宅だと心の中で突っ込みを入れてしまった。
あ、転んだわけじゃありませんからね?
「ふう、登り切ったな。心臓に悪いぜ。」
「見てください、向こう。」
そうレインが指さしたのは、入れと言われた扉とは反対側の方。
そこには、ベランダのような、少し広い空間があった。
窓はなく、澄んだ空とその下には町が広がっている。おそらくここで演説とか何やらを行っているのだろう。城に入る前の階段下のスペースはそのためか。
「さて、行きましょうか。」
「あ、ああ。」
・・・胸がバクバクする。怒られるわけでもないのに、心臓がはちきれそうだ。
「開けるぞ?」
「はい。」
重厚感のある観音開きの扉を金色の取っ手をしっかりと握り、ゆっくりと押した。
今の中学生ってやっぱ携帯で勉強とかしてんのかな?




