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壁|w・)日曜ですが、まだ余裕があるので投稿しておきます。
「そろそろですね。くーちゃん、ごはんだよ」
お椀の準備をしながらアリスがそう言うと、クルーゼがアリスの陰からようやく出てきた。セフィとロゼを一瞥して、アリスの隣に座る。アリスがお椀にシチューを注いで目の前に置いてやると、早速とばかりに食べ始めた。
それを微笑ましそうに見つめるセフィとロゼにもお椀を差し出す。二人はお礼を言ってそれを受け取り、こちらもすぐに食べ始める。おお、と二人揃って口を開いた。
「美味しい! これすっごく美味しいよ!」
セフィが興奮したように叫び始める。喜んでもらえて何よりだ。アリスはありがとうございます、と小さく頭を下げた。
「うん。いやほんとに。これで商売できるよ。私と一緒にお店でもしない? 私がウェイトレスをやってあげてもいいよ」
「だめ。一日でつぶれる」
「どういう意味かな?」
セフィがロゼの首に腕を回し、力を入れ始める。すぐに、ぎぶぎぶ、と言いながらロゼがセフィの腕を何度も叩いた。
その様子を眺めながら、アリスもシチューを口にする。我ながら今日は美味しく作れたと思う。これもウサギの肉のおかげだろう。
その後は黙々とシチューを食べ進める。二人とも何度もお代わりをしてくれた。もらった肉が少し多めだったのでそれに合わせて量を増やしたのだが、どうやら正解だったらしく、食べきってもらえることができた。
何となく嬉しく思いながら手早く片付けをする。セフィとロゼが手伝おうとしてくれたが、それは遠慮しておいた。ウサギの肉で十分だ。手伝いまでされるともらいすぎになってしまう。
アリスが片付けをしている間はクルーゼと遊ぶことにしたようで、二人でクルーゼを撫で回していた。クルーゼも諦めたのか、されるがままになっている。どことなく、満更でもないように見えるのは気のせいだろうか。
アリスが全ての片付けを終えると、お疲れと声をかけてくれた。
「アリスさんはこのままここで野宿するの?」
「はい。ここで一泊してから、改めて北の街に向かいます」
「危なくない?」
「くーちゃんがいるので大丈夫です」
アリスがそう言うと、ロゼに抱かれていたクルーゼが胸を張った。その可愛らしい仕草にアリスだけでなく、セフィとロゼの頬も緩む。
「でも頼りなくない?」
セフィのその言葉に、クルーゼがショックを受けたように硬直した。
「そんなことないですよ。くーちゃんはとっても頼りになります」
「そうは見えない」
ロゼの言葉に抗議するかのようにクルーゼがぺしぺしとロゼの腕を叩く。ごめん、とロゼが謝ると、クルーゼはよろしいとばかりに頷いた。
「うん。よし! あんなに美味しいシチューをたくさん食べさせてもらったからね、私たちもここに泊まるとしよう!」
ロゼがぎょっと目を剥いてセフィを見る。セフィはいいでしょ? とロゼに笑顔で問いかけた。どこか迫力のあるその笑顔に、ロゼは押し黙り、諦めたようにため息をついた。
「あの、私なら大丈夫ですよ?」
「いいからいいから! それに、三人でお泊まりとか、楽しそうでしょ?」
確かに、アリスにとってちょっとした憧れでもある。孤児院にあった物語の本に、旅人が数人で野宿をして語り合うという場面があった。いつかそんなことができるかも、と思っていたのだが、これほど早く実現するとは思わなかった。
「いいんですか?」
「もちろん」
念のためにもう一度聞いたアリスにセフィが笑顔で頷いた。隣ではロゼも、苦笑ではあったがしっかりと頷いてくれる。それを見て、アリスは破顔した。
「ありがとうございます! よろしくお願いします!」
「あはは。こちらこそよろしくね」
セフィとロゼの二人は寝袋などといったものとは持っていないようだった。それなのにどうしてこんな遠いところまで来たのか不思議だったが、それを聞いても二人には笑って誤魔化された。考えていなかったのか、別の何かがあったのか、アリスには分からない。
幸い、アリスのテントは小さくはあるが、詰めれば三人ぐらいは横になれるだろう。誰も寝返りを打てないが、贅沢は言えない。
「いや、私たちはいいよ? 急に泊まるとか言ったんだし」
「だめです! 外で寝てしまうと風邪をひきますよ!」
「でも……。ああ、もう! 分かった! そんな顔しないで! 甘えさせてもらうから!」
「はい! ありがとうございます!」
「礼を言うのはこっちのような気がするんだけど……!」
そう言いながら、セフィは肩をすくめた。
日が落ちて、周囲が暗くなってくる。夜は危険な魔物が多く活動し始める。テントの中で横になった後にアリスがそう言うと、両隣のセフィとロゼが目を剥いた。
「え? 夜の方が危険なの? それじゃあ、こうしてゆっくりするのは危ないんじゃ……」
「やっぱり私たちの見張りは必要?」
セフィとロゼの続けての言葉に、アリスは大丈夫ですよと微笑んだ。
「くーちゃんが周囲に目を光らせていますから。くーちゃんがいる限り、この近辺の魔物は襲ってきません」
「へえ……。そういったスキルでもあるの?」
「いえ、ただくーちゃんが強いだけです」
「強いの? あのドラゴンが……」
ロゼが不思議そうに首を傾げ、テントの入口から少しだけ見えるクルーゼの背中を見る。小さなドラゴンの姿なので、とても強いようには思えないだろう。事実、アリスもクルーゼの戦いを見た時は、本当に度肝を抜かれたものだ。
「さてさて、そろそろアリスさんは寝ないとだめだよ。私とロゼは交代で寝て、しっかりと守るから」
「お二人も寝ないと、明日に響きますよ?」
「いいからいいから! ささ、早く寝なさい!」
セフィに促され、仕方なくアリスは目を閉じる。だが、どうにも両隣に人がいると眠りづらい。嫌な感覚ではなく、もっと起きていたいと思ってしまう。
「あの……。もう少しお話、しませんか?」
アリスがおずおずといった様子でそう言うと、セフィは苦笑して、仕方ないなと頷いた。
「ロゼ、今のうちに休んでおく?」
「いい。私もアリスさんと話をしたい」
この調子では三人で徹夜になりそうだ。ただまあ、それも悪くはないと思えてしまう。
「それじゃあ、アリスさんのことをもっと教えてよ」
「いいですけど、あまり面白い話はありませんよ?」
「いいからいいから」
壁|w・)野宿イベントです。