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AIアリスの旅記録  作者: 龍翠
第五話
48/51

10

「……っ!」


 目を剥き。絶句するセフィ。何が起こっているのか、全く分からない。助けを求めるようにクロダを見ても、クロダも凍り付いたままだ。彼にとっても予想外の出来事らしい。


「セフィさん?」


 名前を呼ばれて、セフィは慌ててアリスへと頷いた。


「う、うん……。春野菜月で間違いないよ」

「分かりました」


 アリスと、そしてくーちゃんも目を閉じる。どしたのかと心配する間もなく、アリスが目を開いた。


「ネットカフェからログインできる特殊エリアにいます。同じエリアにもう一人、いますね。……認証、確認しました。浜中という人で間違いありません」

「アリス……」


 クロダの絞り出すような声。アリスはそちらへと目を向けると、柔らかく微笑んだ。


「ご心配なく。黒田さん。これは私の一存で伝えているものなので、黒田さんは無関係です」

「どこまで、ハッキングした?」

「さて、どこまででしょう?」


 くすくすと、妖艶に笑う。クロダは苦虫をかみつぶしたような渋面を浮かべ、しかしそれ以上は何も言わなかった。

 セフィにはもう何が起きているのか、理解できなくなっている。目の前にいるアリスは、本当にアリスなのか。自分の知っているアリスとは別人としか思えない。セフィが呆然とアリスを見つめていると、アリスがこちらへと向き直った。


「セフィさん」

「は、はい!」


 返事をすると、アリスが動きを止め、そして少しだけ悲しそうに眉尻を下げた。その表情は、セフィのよく知るアリスと同じものだった。


「あー……。ごめん。なに?」


 目の前にいるのはアリスだ。それに間違いはない、はずだ。アリスは安堵の吐息を漏らし、すぐに真剣な表情で、


「ロゼさんがいる特殊エリアへ繋げる準備はできています。いつでも行けますよ」

「お、おう……。なんかもう、わけがわからんですよー……」


 ネットカフェからのみ繋げられるエリアに、何故繋げることができるのか、他にも色々と聞きたいことは山ほどあるが、セフィは首を振って全ての疑問を心の中に押し込んだ。今は、それを聞く必要はない。協力してくれるというのなら、甘えさせてもらっておこう。


「アリス、お願い」

「はい。お願いされました」


 アリスはおどけるようにそう言うと、右手をそっと差し出してくる。手を取れ、ということだろう。セフィは少し逡巡しつつも、アリスの手を取った。

 直後に、セフィの視界は暗転した。


   ・・・・・


 二人がいなくなった部屋で、クロダは大きなため息をついた、あれは間違い無く、アリスだ。自身のプログラムを凍結させてしまう前のアリスだ。雰囲気はほとんど変わらないが、間違い無いだろう。でなければ、説明がつかない。

 クロダは右手を振ってウィンドウを出すと、様々な情報を引き出した。アリスがしていたであろうことを予想し、痕跡を探っていく。


 ワンダーランドのデータベースへの、第三者の閲覧履歴。しかもワンダーランド内からのものがある。ワンダーランド内からということは、ゲームから直接操作しているということになる。現在そんなことができるのはクロダだけだ。

 これも、おそらく分かりやすいようにアリスが痕跡を残していったのだろう。彼女が本気になれば、何の痕跡も残さずに全てを抜き出していく。誰にも気づかれることなく。


「さて、どうするか……」


 クロダは目を閉じると、思考の海へと潜っていった。


   ・・・・・


 気が付けば、セフィは広い草原に立っていた。見渡す限り緑色の絨毯が敷かれている。木などといった視界を遮るものがないため、すぐにそれを見つけることができた。

 離れた場所に、二つの人影があった。一人は遠目からでも分かる。ロゼだ。もう一人は見覚えのない姿だが、恐らくあれが浜中なのだろう。大剣を背負ったいかにも戦士といった姿だ。

 その姿を確認した瞬間、セフィは走り出そうとして、


「待ってください」


 アリスに手を掴まれて止められた。


「なに!? 早く行かないと……!」

「大丈夫ですよ」


 焦るセフィとは対照的に、アリスは落ち着いた笑顔を浮かべていた。何故これほど落ち着いているのか、と苛立ちが募る。それを知ってか知らずか、アリスはゆっくりと話し始めた。


「通話記録を調べました。あれは単純にPVP……、対決しているだけです」

「単純にって……。なんで?」

「詳しくはロゼさんから聞いてください。今回の原因はセフィさんの過保護とだけ言っておきます」

「は?」


 全くもって意味が分からない。セフィは首を傾げながらも、行きましょう、と歩き始めたアリスの後に続いた。

 ロゼともう一人は今もまだ戦っているようだ。ロゼが様々な魔法を放ち、もう一人は激しく動き回りそれを回避している。一方的にいたぶっているようなそんなこともなく、真っ当な戦いだった。

 ある程度近づいたところで、戦士の方がセフィたちに気が付いた。セフィを見ると、信じられないものを見るかのように目を大きく見開いている。次に苦笑を浮かべ、手を大きく振り上げて叫んだ。


「ロゼ! ストップだ!」

「ん? 分かった」


 戦士の声に、すぐにロゼが反応して魔法を止める。大きく息をつき、そうしてからセフィたちに気が付いたようで、セフィを見て凍り付いた。

 誰もが口を開かず、黙り込む。妙な沈黙が流れ、それに耐えきれなくなったのか戦士が口を開いた。


「あー……。セフィ、だよね」


 戦士の問いかけに、セフィは頷いて、


「そう言うあんたは、浜中?」

「そうだけど、マナー違反だよあんた」

「ああ……。うん。ごめん」


 ワンダーランドは不特定多数がプレイするネットゲームだ。当然ながらリアルネームを出すことは御法度だ。セフィは素直に頭を下げた。


「まあいいけどね。ここは誰も入ってこれないエリアだし。ていうか、あんたどうやってここに入ってきたんだよ。同じネカフェにはいなかったよな?」

「ちょっと特殊な方法かな。秘密ってことで」

「ふうん。そうかい。まあ興味ないからいいけどね」


壁|w・)お久しぶりです。明けましておめでとうございます。


今日から完結までさくっと毎日投稿するのです!

……多分!

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