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「魔王様のお話は何だったんですか?」
「ん? んー……。ギルドマスターと似たようなものだよ。ちょっとした依頼。難しいことでもないから、アリスは気にしなくてもいいよ」
これでうまく誤魔化せるとは思えないが、かといってこれ以上説明することもできない。アリスはやはり訝しげに眉をひそめていたが、やがてそうですか、と視線を逸らしてしまった。
「何か協力できることがあれば、遠慮無く言ってくださいね。お手伝いしますから」
「うん。ありがとう、アリス。頼りにしてるよ」
はい、と嬉しそうにアリスが笑った。その後はしばらくお互いに無言になり、静かな時間が流れていく。かといって別に気まずい沈黙というわけでもなく、こういったのんびりとした時間もたまには悪くないと思える。
「ここのお風呂、とっても広くて気持ちいいですよ。セフィさんも是非」
ふとアリスがそう言った。アリスはもうすでに入った後なのだろう。
「そうなの? じゃあちょっと行ってこようかな」
「一時間後ぐらいに夕食を持ってきてもらえるようにお願いしておきます」
「了解。ありがとう」
そう言えばまだご飯は食べてなかったな、と思い出しながら、セフィは寝室を後にした。
・・・・・
アリスも馬鹿ではない。セフィが何かを隠していることは分かっている。だからこそ、アリスはその件については触れないでおく。アリスはセフィのことを誰よりも信頼している。そのセフィが黙っているのなら、それはアリスが聞かない方がいいことなのだろう。
分厚く、けれど柔らかいステーキを小さく切り分けながら、アリスはそんなことを思っていた。目の前にはセフィが座り、膝に乗せたクルーゼを撫でている。
今はテラスにいるのだが、外とは思えないほど静かだ。時間を考えれば当然かもしれないが、何となく、心が落ち着くような気がする。
「どうぞ、セフィさん」
切り分け終えたステーキの皿をセフィの目の前へと差し出す。セフィは礼を言って受け取り、早速とばかりに口に入れた。直後に大きく目を見開き、嬉しそうな、けれど何故か少しだけ頬を引きつらせたような、曖昧な笑顔になった。
「ねえ、アリス。これって何のお肉かな」
アリスは首を傾げ、自分の肉を口に入れる。なるほど、とセフィの反応に納得してしまう。しっかりと調理されているが、間違いない。
「ミノタウロスですね」
「やっぱりか……。高級宿の料理がミノタウロスのステーキって……。いや、確かに美味しいけどさ……。釈然としない……」
ぶつぶつと文句のようなことを言いながら、セフィは肉を食べ進めていく。口ではどう言っても、やはり嫌いではないらしくその表情は緩んでいた。
「アリスは明日には北の街に行くんだよね?」
ステーキに舌鼓を打っていると、セフィがそう聞いてきた。アリスは頷いて答える。
「そうですね。朝食を食べたら早めに出発しようかと思っています。セフィさんはどうします?」
「んー……。始まりの街に戻るよ。ロゼのこともあるしね」
アリスは別れ際のロゼのことを思い出した。決して喧嘩をしたわけではないが、少しだけ、ロゼとの間に距離を感じている。きっとロゼは、大好きな姉がアリスに取られていると思っているのだろう。そう考えると、確かにセフィは戻った方がいいだろう。
「ロゼさんによろしくお伝えください」
そう頼むと、セフィは苦笑しながら頷いた。
・・・・・
翌朝。といってもゲーム内での時間の経過なので現実ではまだ二時間も経っていない。セフィはアリスがクルーゼと共に出発するのを見送ってから、魔界の王都のワープポータルに向かった。魔界でもワープポータルは同じ物のようで、すぐに見つけることができた。今すぐ始まりの街に戻れば、ロゼもまだいるだろう。
そう考えながら始まりの街に戻ってきたのだが、どうやらロゼはいないようだった。フレンドリストを見てみれば、すでにログアウトしているようだ。仕方ない、とセフィも一度ログアウトすることにした。
目を覚ました響子は少しずつ体をほぐして、最後にゆっくりと伸びをした。さて、と菜月の部屋へと向かう。先にログアウトしているなら、勉強か読書をしていることだろう。最近、菜月の好きな小説の続編が出たところなので、それを読むために早めにログアウトしているのかもしれない。
「菜月、いる?」
妹の部屋の扉をノックする。しかし返事がない。読書に集中している場合ではそれもよくあることなので、響子はいつも通りにそっと扉を開けてみる。呼んでも返事がなければ勝手に入って良い、と菜月から言われているが、さすがに無遠慮に入ることはできない。
妹の部屋は本棚で囲まれた部屋だ。本棚には小説や参考書が並んでいるのが分かる。扉の向かい側に勉強机があり、菜月はそこにいる。そのはずだったのだが、菜月の部屋は静まり返り、人の気配はなかった。
「菜月?」
部屋の中に入り、辺りを見回してみる。やはりいない。
「菜月? いないの?」
もう一度呼びかけるが、やはり返事はない。
「飲み物、かな……?」
菜月の部屋を出て、キッチンへと向かう。
春野家のキッチンはリビングと繋がっており、料理をしながらテレビを見たり、家族と話をすることもできる。料理好きの母のための多機能なキッチンだ。響子も料理はするが、趣味というほどでもないので、キッチンの機能を全て知っているわけではない。
そのキッチンにも人の気配はなかった。時計を見てみると、午後一時前後。母は買い物にでも行っているのだろう。だが、菜月はどこだ?
菜月は一人で家から出ることはない。少しずつ改善されているとはいえ、菜月は人と関わることを未だに避けている。学校の行き帰りですら、必ず響子と一緒に行動するほどだ。そんな菜月が一人で外に出たとは考えにくい。だが実際に、今、菜月は家にいない。
不安で胸が苦しくなってくる。焦燥感に苛まれるが、響子にできることは少ない。いつも一緒に行動しているが故に、菜月が行くような場所に心当たりなどない。
まずは母に連絡を。そう考え、響子はスマホを取り出して母の電話を呼び出した。何度かのコール音の後、はい、と母の声が耳に届いた。
「お母さん、菜月知らない?」
『菜月? 部屋にいるでしょう』
「いない。家にいない」
『え? ……え? 冗談でしょう?』
母の信じられないといった声。その気持ちはよく分かる。響子も未だに信じられないほどだ。普段なら喜ぶべきことなのだろうが、不安の方が大きい。
『響子。菜月の携帯は? 電話した?』
「あ、そっか! 電話してみる!」
すっかり忘れていたが、当然ながら菜月も携帯電話を持っている。菜月は最低限の機能があればいい、とのことで、スマホではなくガラケーと呼ばれる今では少なくなってしまった機種だ。
スマホを操作して、菜月の携帯電話を呼び出す。コール音の直後に、着信音が微かに聞こえてきた。その音の方へと顔を向けて、響子は顔をしかめた。
大急ぎで音がしている方、つまりは菜月の部屋へと向かう。部屋に入ると、ベッドの上で携帯電話が光っていた。どうやら菜月は置いていってしまったらしい。
「ああ、もう! 携帯電話を携帯しなかったら意味ないだろ!」
壁|w・)遅くなってごめんなさい。
仕事が楽しいことになっているので週一更新とさせてください。
それならきっと大丈夫……!
Q.響子とか菜月とか誰だっけ?
A.セフィとロゼの本名。




