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AIアリスの旅記録  作者: 龍翠
第五話
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壁|w・)年末年始は仕事が忙しくなるの、という言い訳。

遅くなってごめんなさい……。

「いいや? 俺はこちら側だ」

「え? それなのにあっちを知ってるってことですか?」


 さっきからあっちやらこっちやら何のことを話しているのか。置いてけぼりの形になってしまっているアリスとしてはあまり面白くない。だが大切な話をしているらしいことは分かる。だから何も言わずに黙っていたのだが、不意に魔王と目が合い、その目が優しく細められた。何となく恥ずかしくなって顔を俯かせると、魔王が小さく笑ったのが分かった。


「この話はここまでにしておこう。アリスが仲間外れにされて拗ねているからな」

「拗ねてません!」


 いきなりとんでもない言いがかりだ。拗ねていないから勝手に話をしておけばいい。


「あ、ごめんね、アリス。仲間外れになんてしないから、拗ねないでね?」

「だから! 拗ねてませんってば!」


 セフィの謝罪にアリスが叫ぶ。からかわれているのは分かるが、かといって流すことなどできるはずもなく。

 すっかり緊張が解れたらしいセフィの笑い声が、室内に響いていた。




 魔王に案内されて訪れた部屋は、謁見の間とは対照的な小さな部屋だった。以前アリスが暮らしていた小屋程度の広さだ。本来はもっと広い部屋だったらしいが、魔王の個人的な資料室として分けてしまったらしい。それを初めて聞いた時は驚きよりも先に呆れてしまったものだ。

 家具はベッドやテーブルといった最低限のものと、あとは本棚が一つあるだけだった。いすは三つあるが、これも来客の予定がなければ一つしかないものらしい。その来客も、アリスしかいないそうだが。


「一国の王様の私室? これが?」


 初めて見たセフィが呆然としたようにつぶやく。もしかすると平民の家屋よりも狭いかもしれない部屋だ。セフィの反応は理解できる。自分も同じことを思ったものだ。


「欲しい資料ばかり集めているとどんどんと狭くなってな。気づけばこの広さになっていた。まあ俺は寝起きさえできれば問題ないからな」


 本人が良いだろうが、周囲の人が迷惑しそうな話だ。自分たちの王をこのような狭い部屋に押し込んでいるようなものなのだから。ただ、さらに広い部屋を用意しても、この魔王ならさらに追加で資料や本を集めてしまうだけだろうことは誰の目にも明らかだ。結局、誰も何も言わないことにしたらしい。

 魔王に促されて、アリスとセフィはいすに座る。隣り合うように座り、二人の対面に魔王が座った。


「さて、アリス。もらえるかな?」

「はい。ちょっと待ってくださいね」


 リュックの中から大きめの封筒を取り出した。ギルドマスターから渡されたものであり、魔王への届け物だ。人に任せられない重要な連絡事項、とのことで、くれぐれも本人に渡すように言われていた。当然だが、アリスも中身は見ていない。興味がないと言えば嘘になるが、自分から怒られるようなことはさすがにしない。

 封筒を受け取った魔王は、そんなアリスの事情を特に気にすることもなく、中身を取り出すとテーブルに広げた。慌ててアリスが目を逸らす。見てはだめだ、見てはだめだ、と自分に言い聞かせながら。

 だがアリスの事情を知っているのは、アリスだけだ。隣のセフィは興味深そうにテーブルに広げられた資料を見ているようだった。


「うわあ……。さすがに目の前で個人情報のやり取りはしてほしくなかったなあ……」

「心配せずとも我らでは悪用できないものだ。当たり前だが、覚えるなよ」

「心配しなくても、私はそこまで天才じゃないです」


 個人情報、ということは街の人の情報だろうか。セフィが驚くのなら、冒険者の情報かもしれない。何故それをギルドマスターから魔王へと提供したのかは分からない。

 これだけあれば十分だろう、という魔王の声がして、紙を束ねる音が聞こえてきた。


「もしかして、もうすぐ魔界が解放される、とか?」

「想像に任せるとしよう。アリス、もういいぞ」


 アリスが目を開けると、広げられていた資料はすでに片付けられた後だった。少し残念に思いながらも安堵の吐息をついたアリスの目の前に、別の封筒が差し出された。差し出している者、魔王を見ると、


「これをギルドマスターに届けてほしい。急ぎではないから明日でいいぞ」

「分かりました。ギルドマスターに、ですね。本人に渡した方がいいですか?」

「そうしてほしい。彼なら、明日からは北の街にいるはずだ」

「北の街、ですね、ではお言葉に甘えて明日、届けに行きます」


 アリスも今日は少し疲れてきていたので、魔王の気遣いは素直に嬉しい。もっとも、寄り道などしなければここまで疲れなかっただろうが。だが後悔はしていないので、これでいい。


「ではご苦労だった。王都の最高級の宿を用意させているので、今日はゆっくりと休むといい。場所は分かるな?」

「いいんですか!? ありがとうございます、使わせていただきます!」


 今から宿を探す気にはなれなかったので、とても助かる。素直に礼を言って、立ち上がった。


「セフィとは少し話をしたい。すまないがアリス、一人で向かってくれ」


 これにはアリスも驚いてしまい、反射的にセフィへと視線を向けた。セフィは苦笑して肩をすくめるだけだ。その態度からセフィは理由を知っているようだと思うのだが、いくら考えてもアリスには分からなかった。


「あの、セフィさん……」

「大丈夫大丈夫。アリスは先に寝ておいてね」


 セフィにそう言われては、アリスも引き下がるしかない。後ろ髪を引かれる思いをしながらも、アリスは静かに退室した。


   ・・・・・


 扉が閉まって、さらに時間を置いてから、魔王が口を開いた。


「聞きたいことを言うといい。答えられる範囲で答えよう」


 真剣な眼差しで、セフィ見つめてくる。セフィは少し考えて、言った。


「まず、魔王様の立場は?」

「こちら側のゲームマスターといったところだ。お前たちとは違い、俺はこの場所、この世界しか知らない。細かい調整役みたいなものだ」


 魔王曰く、各街のゲームマスターは魔王のような立場らしい。この世界で生まれ、生きながらも、現実世界というものを知っている。自分たちがどういった存在で、冒険者というものがどういったものなのかも知っているとのことだ。


「現実世界の人間だけではどうしても対応できることに限りが出てくるからな。そういった時のために、俺たちがいる。まあ普段は特にすることもない。暇なものだ」

「へえ……。昔、人族と争っていたというのは?」

「ただの設定だ」

「あ、そう」


 そうだろうとは思っていたが、さすがにこの世界を生きている者に断言されると妙な気分になってしまう。この世界が薄っぺらいものになってしまったような、そんな感覚だ。それが分かっているのだろう、魔王は苦笑して言う。


「これはお前にだからこそ言っているのであって、他の者には魔王として振る舞う。当然だがな」

「ああ、そうですよね……。クロダさんから、この世界はアリスのための世界だってちらっと聞いたんですけど……」

「そこまで聞いているのか……。事実だ。この世界はあの子のための世界であり、そして」


 アリスを守るシステムだ。


 魔王がその言葉に、セフィは眉をひそめた。アリスを守る。それはつまり、アリスを狙う何かがある、ということだ。だがそれが何なのかが分からない。少なくとも、このゲームの中にはそんな存在はいないと思うのだが。


壁|w・)仕事が忙しくなっています。

明日からの更新は偶数日に変更させていただきます。よろしくお願い致します。

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