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壁|w・)土曜ですが、まだストックがあるので投稿しておきます。
冒険者と別れたアリスは、クルーゼと共にさらに北へと歩いて行く。もう少し歩けば、広い森にたどり着くはずだ。今日はその側で野宿をして、その後に『特殊な方法』で移動することになる。
夕食は何を作ろうかな、お昼に食材を結構使っちゃったから節約しようかな。そんなことを考えながら歩き続けていると、いつの間にか森の前に立っていた。さすがに注意力散漫にもほどがあるかなと反省しつつ、野宿の準備を始めるとする。まだ早い時間ではあるが、先を急ぐ必要もない。
リュックから一人用の小さなテントを引っ張り出して、クルーゼに手伝ってもらいながら手早く準備をしていく。一人用といっても、やはり持ち運ぶにしては大きいものだ。リュックの容量を三割近くも使っている。これがなければ、もっとたくさんの食材も持ち運べるのだが。
「まあ、贅沢は言えないよね」
旅をなんだと思っているのか、と自嘲気味に笑いながら、アリスは食材を取り出していく。全て取り出して、あれ、と首を傾げた。
「お肉忘れちゃった……」
時間があるのでのんびりとシチューでも作ろうかと思ったのだが、肉がないと少々寂しい。もちろん肉がなくても作れるが、できれば欲しかった。仕方がないかとため息をつくと、
「お肉が欲しいの?」
森の方からの声にアリスは少しだけ驚いた。振り返ると、冒険者らしき二人組がいた。一人は簡素な胸当てを着用して腰に剣を下げた少女だ。髪は黒で、アリスと同じ程度の長さのセミロング。もう一人はローブを着た少女で、少し小柄だ。髪は短く、小さなポニーテールにしていた。こちらも黒だ。この森に来ている人がいるとは思わなかった。
「お肉が欲しいなら、さっき狩ったウサギの肉があるよ。いる?」
剣を持った少女がそう言う。その代わり、と続ける。
「それ、私たちも食べたいな」
少女の視線の先には、未だ空の鍋がある。料理をしようとしていることは分かっているようだ。アリスは分かりましたと微笑んだ。
「美味しいかは分かりませんけど、それでいいのなら」
「いいよいいよ。それじゃあ、はい、これ」
剣を持った少女がどこからともなく肉の塊を取り出した。てっきりウサギそのものを渡されると思っていた。とても丁寧に解体され、きれいなお肉になっている。
「すごい。解体は冒険者さんがやったんですか?」
「へ? いや、インベントリに入れたら勝手に……。ん?」
ローブの少女が剣を持った少女の袖を引く。振り返り、何かの相談を始めた。
「セフィ。この子、NPCだよ。アイコン見て」
「へ? ……あ、ほんとだ。え? なんで街の外にいるの?」
「さあ、それは知らないけど……」
「聞いてみればいいかな?」
剣を持った少女がこちらへと向き直る。そして人懐っこい笑顔を浮かべた。
「自己紹介がまだだったね。私はセフィ。こっちの魔法使い見習いがロゼ」
「見習いは余計。否定しないけど」
ロゼと呼ばれた少女が小さく頬を膨らませた。小柄な見た目も相まって、とても可愛らしく思えてくる。セフィも同意見なのだろう、ああもうかわいいな、とロゼを抱きしめていた。
「やめて! セフィ!」
「あはは! 嫌がらなくてもいいのに!」
二人だけで盛り上がっている。こちらも自己紹介をしたいのだが、どうにもタイミングが分からない。アリスが戸惑っていると、それに気づいたのだろうロゼがセフィの肩を叩いた。
「ほら、困ってる」
「あ、そうだった」
慌てたようにこちらへと向き直る。小さく安堵の吐息を漏らし、アリスは頭を下げた。
「アリスといいます。南の街から来ました。冒険者の方に会えて光栄です」
「冒険者って?」
「セフィ。私たちのこと。プレイヤーはNPCたちには冒険者って認識されてる」
「ほうほう。覚えとこ」
納得したように頷くセフィと、呆れたようにため息をつくロゼ。とても仲がよさそうで、素直に羨ましいと思ってしまった。
「あと、この子がくーちゃんです」
クルーゼを抱き上げてアリスが言うと、セフィとロゼは揃っておお、と感嘆のため息をついた。
「小さいドラゴンだ。かっこいい、というよりもかわいい」
「すごい。やっぱりドラゴンもいるんだ……」
二人の視線がクルーゼに突き刺さる。居心地の悪さを感じたのか、クルーゼはアリスの腕から抜け出ると、そっと彼女の陰に隠れた。ああ、と残念そうな二人の声に、アリスは苦笑いしてしまう。
「えっと……。ではこのお肉、いただきますね」
「うん。どうぞどうぞ」
「少し時間かかりますけど……」
「いいよー。どうせ暇だし、待ってる」
分かりました、とアリスは頷いた。待っていてくれるのなら、少し気合いを入れて作ってもいいだろう。もっとも、あくまで夕食なので何時間も煮込むことはできないが。
手早くたき火の用意をして、料理を始めて行く。セフィとロゼはそれを興味深そうに見つめていた。
「料理そのものはリアルと同じか」
「NPCだけかもしれないけどね」
二人はどうやらアリスの料理に興味があるらしい。見られていると緊張してしまうのだが、彼女たちの暇つぶしになるのならここは大人しく耐えておこう。
「アリスさんはどうして街の外にいるの?」
黙々と料理を続けていると、唐突にセフィがそう聞いてきた。昼過ぎに会った冒険者もアリスが街の外にいることに驚いていたのを思い出す。やはり珍しいのだろうか。
「仕事ですね。街から街へ、お届け物や連絡を伝える仕事です」
「へえ。そんな仕事があるんだね」
「私だけの仕事ですけどね」
アリスの言葉にセフィが怪訝そうに眉をひそめた。
「どういうこと?」
「神様からこの仕事をもらったんですよ。誰もしたことのない、聞いたこともない仕事なので、多分私だけです」
「神様、ねえ。胡散臭いなあ」
胡散臭いと言えば、アリスたちにとっては冒険者もなかなかに不思議な存在なのだが。さすがに口には出さずに、苦笑だけしておいた。
「ちゃんとした神様ですよ」
「ふうん。神様に名前はあるの?」
「ウンエイ様ですね」
「ぶふっ!」
唐突にロゼが噴き出した。驚いて目を見開くアリスに、ロゼが何でも無いと手を振る。その隣では、セフィが頬を引きつらせていた。
「ウンエイって、運営?」
「多分そうだと思う」
「まんまじゃん! 手抜きか!」
「擁護できないね」
セフィとロゼの二人が怒っているような、呆れているような、複雑な表情をしている。二人は神様の名前に何か心当たりがあるらしい。まさか直接会ったことがあるのだろうか。少し気になって聞いてみると、二人は曖昧な笑顔で目を逸らした。
「会ったことはないけどね……。うん、まあ気にしないで」
掲示板のネタにでもしてやろうか、とセフィがつぶやく。掲示板に何か貼り出すのだろうか。
「掲示板を使うには許可を取らないといけませんよ?」
「え? ああ、そっちじゃないよ。冒険者用の掲示板があるんだよ」
「へえ……。そんなものがあるんですね」
機会があれば一度見てみたいものだが、冒険者用ということはアリスが見てはいけないものもあるだろう。素直に諦めておくことにする。
壁|w・)ウンエイ様にはさからっちゃいけません。
またメシかよと言われそうですが、この二人組とのメインはこの後です。一応。




