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ろぐあうと、というものはよく分からないが、とにかくミカを最後まで探さなかったことに変わりはない。アリスはさらに口を開こうとして、
「アリスお姉ちゃん。もういいよ」
他でもないミカに止められた。ミカを見てみれば、クルーゼを抱きしめながら眉尻を下げて、しかしそれでも微笑んでいた。
「こうしてお兄ちゃんに会えたから、私はそれでいいよ。それに、アリスお姉ちゃんともお友達になれたし」
だから十分、とミカは微笑む。心が広いな、と感心しながら、アリスはミカの頭を撫でた。ミカは嬉しそうに笑いながらそれを受け入れる。妹ができたみたいで、やっぱりかわいい。ミカの頭を撫でながら、アリスはクールに向き直った。
「クールさん」
「はい!」
クールがびくりと体を震わせ、姿勢を正す。何をそんなに怯えているのだろうか。
「ミカちゃんがこう言っているので、私からはこれ以上は何も言いません。ですが、ちゃんと一緒にいてあげてください。寂しくさせちゃだめですよ」
所詮、アリスは部外者だ。強制することなどできない。それでも、肉親が側にいるなら、やはり一緒にいた方がいいと思う。
クールは、分かった、と神妙な面持ちで頷いた。
ワープポータルで帰っていくクールとミカを見送って、アリスはようやく一息ついた。随分と時間を使ってしまった。早く仕事に戻らなければならない。
ちなみにミカにも指輪を渡してある。そろそろ数が少なくなってきたので、また作らなければならないだろう。そう考えながら、アリスはダンジョンの入口となっている建物の中に戻った。
片付けを終えたセフィがアリスを待ってくれていた。お疲れ、とアリスへと微笑んでくる。その笑顔を見て、セフィのことを長い時間拘束していたことに気づき、慌てて頭を下げた。
「すみません、セフィさん。すっかり長い時間手伝ってもらってしまって……」
「気にしなくていいよ? 好きで一緒に来ただけだしね。なかなか楽しかったし」
おいで、とセフィが手を前に出すと、クルーゼがセフィの胸に飛び込んだ。かわいいなあ、とクルーゼの頭を撫でるセフィ。クルーゼも嫌そうな素振りは見せず、どこか嬉しそうに受け入れていた。
「それにしても、アリスがここまで怒るとは思わなかったよ。いやあ、珍しいものが見れたね」
いたずらっぽく笑うセフィ。アリスは今までの振る舞いを思い出して、顔が熱くなってきた。確かに、今思い返せば正気を疑うことをしていた気がする。始まりの街で待っていた時はともかく、ここに来てからは少しやりすぎたと思う。クルーゼにも働いてもらったので、何かご馳走を用意しなければならないだろう。クルーゼの好きなお肉でも用意しようか。
「付き合わせてしまってすみません」
目の前に友人に頭を下げると、セフィは気にしすぎだよと手を振った。
「あそこまで怒ったのが意外だっただけだからね」
「そんなに意外でした?」
「うん。アリスは怒らないと思っていたから」
どんな聖人君子に思われていたのだろうか。自分だって怒る時はやはり怒る。それに、アリスにとって家族というのは特別なものだ。肉親がいるのなら、大切にしてほしいと思う。
そういったことを言うと、セフィは何故か複雑そうな表情を浮かべた。
「いやあ、耳に痛いね……。私も気をつけないと」
「セフィさんなら大丈夫でしょう。ロゼさんとも仲が良いみたいですし」
「あー……。まあ、ね……。色々あるんだよ」
眉尻を下げた弱り切った笑みを見て、アリスはこの話題は避けた方がよさそうだと判断した。一見仲がよさそうに見えるセフィとロゼだが、当事者にしか分からない事情もあるのだろう。こればかりは、アリスが首を突っ込んでいい話ではなさそうだ。
「何か協力できることがあれば言ってくださいね」
それだけ言っておくと、セフィは目を見開き、ありがと、と頷いた。
「アリスはこの後どうするの?」
「そうですね……。時間もありませんし、このまま次の街に向かいます。幸い、ここからは近いですから」
「そっか……。せっかくだから一緒に遊びたかったけど、仕方ないね。また次の機会に」
アリスとしてもとても残念だ。せっかく時間が合ったというのに、喫茶店で過ごしただけだった。次こそは一緒に遊びたいと思う。
「それじゃあ、アリス。気をつけてね。また始まりの街に来る時はちゃんと連絡してね。待ってるから」
「はい。もちろんです!」
セフィからクルーゼを受け取る。いつの間にかクルーゼは眠っていた。本当によく寝るな、と思いながら、セフィは一先ずその場を後にする。少し離れたところでクルーゼを起こすことにしよう。
アリスはセフィに見送られながら、次の街に向かって出発した。
・・・・・
アリスを見送ったセフィはゆっくりため息をついた。アリスの怒りの原因はよく分かる。そして同時に、とても耳が痛いことだった。妹とよくここに一緒にログインするが、学校ではまだ誰とも話せていないようだ。このままではいけない、とは思うが、セフィにはどうしていいのか分からない。
焦ってはならないとは分かってはいる。だがやはり、心配なものは心配だ。もう少し、妹としっかりと話をしておいた方がいいだろう。自分にとってはたった一人の妹なのだから。
セフィはそんなことを考えながら、メニューを開いてログアウトを押す。
そうして次の瞬間には、セフィの姿はこの世界から消え失せていた。
壁|w・)お説教キャンセル。あまりだらだらと書きたくないな、と。
第四話はこれにて終わりです。
次回はこっそり掲示板に再チャレンジ、です。
あと、次の第五話が最後となります。




