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「アリスさんは仕方がないにしても、セフィとレクスさんは有名人である自覚を持った方がいい」
「そうね。同意するわ」
アリスは、言わずと知れた『フィールドを出歩く唯一のNPC』だ。最近になって、他のNPCも全く出歩かないわけではない、と判明しつつあるが、それでも街から街へど移動するのはアリスだけだ。普段は滅多に出会えないためか、レアなモンスターよりもレアだと言われている。出会えたからといって何かがあるわけではないが、その事実だけでちょっとした自慢になるほどだ。
セフィは数少ない『高レベルのエンチャンター』として認知されつつある。エンチャントのランクを上げるためには特殊な素材が必要であり、それなりに高価なものであるため、なかなかランクを上げることができない。セフィはその中で飛び抜けたランクになっているため、自然と有名になってきている。セフィの気が向けば格安でエンチャントの代行を引き受けることでも有名だ。
レクスは『裏技を扱う木工職人』として以前から名が通っている。NPC向けにスキルを使わずに家具を作っており、それがNPCによく売れている。当初は馬鹿にする声も多かったが、今ではもうそんな声は聞こえない。このゲームのNPCたちを敵に回してしまう。また、木工そのもののスキルのランクも高いらしく、依頼すれば弓なども作れるそうだ。
この三人は、戦闘職を除けば最も有名な三人とも言える。それが一堂に会しているなどそうそう見られることではない。今も、この店の庭の外では目を剥いてこちらを見ているプレイヤーがいるぐらいだ。
「恥ずかしい」
「いやー……。あはは」
ロゼの言葉をローズは否定できない。少し距離を取っているとはいえ、彼女たちを見て驚いた人は必ずこちらにも視線を向けていく。こっそりとテーブルを移動して他人の振りをしているが、どこまで通じているだろうか。
「クールも、あのクールでしょうね……」
戦闘職の方で有名な一人がクールだ。トッププレイヤーの一人であり、三度の飯よりボス戦が好きという戦闘狂として有名だ。生まれてくる時代を間違えているやつ、と言われていることもある。どんな人かは知らないが、妹を見てそんな兄がいると誰が思うだろうか。
「なんというか、世の中というか、ゲームは狭いというか……」
「類は友を呼ぶ」
「待ちなさい。それ、私たちも入るわよ?」
「否定できない。認めるべき」
「ぐ……」
言葉に詰まったローズはしばらく口をもごもごと動かしていたが、やがて諦めたようにため息をついた。認めよう、自分は彼女たちの同類だ。なにせ、ローズもロゼも、一応は掲示板で名前を見ることができるのだから。
もっとも、有名人の関係者、としてだが。
「妙な身内を持つと苦労するわね……」
「お互いにね」
そう言って、顔を見合わせる二人。少しだけ通じ合えたような、そんな気がした。
・・・・・
レクスもセフィたちが食べているケーキに興味を持ったのか、同じものを注文していた。数は六。全員分。アリスが目を白黒させていたのが印象的だ。
「さすがに飽きそうだけど……。その心配はないみたいね」
ローズの視線の先では、ミカが新しいケーキを一心不乱に食べていた。これで三個目のケーキだ。いくらゲームの中とはいえ、自分なら三個目はいらない。二個目はまだ食べるが。
「本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになります……」
アリスが俯きがちにそう言うと、レクスは笑いながら、
「アリスさんには世話になったからな。遠慮無く食べてくれ。他にも欲しいものがあれば言ってくれよ」
「さすが金持ち」
セフィがそう言うと、レクスはにやりと口角を吊り上げた。
「それなりに儲けてるからな」
「それなり、ねえ」
間違い無くこの中で一番金を持っているのはレクスだと断言できる。彼は今では露店ではなく、小さいながらも家を買ってそこを店としているほどだ。家を持っているのは未だレクス一人ではないだろうか。
そんな他愛ない話をしつつケーキを食べ進める。全員がようやく食べ終えたところで、庭にギルドの女が入ってきた。その女がアリスと名を呼べば、アリスは弾かれたように立ち上がった。
「はい! 何か分かりました?」
「分かったのは分かったのだけど……」
歯切れ悪く、女が視線を泳がせる。あまり見ないその反応にセフィたちが目を瞬いていると、女が続けた。
「クールさんは今はダンジョンにいるわね。ここから南にある洞窟のダンジョンよ」
「南にある洞窟のダンジョンってことは、未だ攻略が終わっていないダンジョンだな。俺たちが行けるダンジョンの中でも最高難度の場所だ」
レクスがそう補足を入れてくれる。ダンジョンについてセフィは詳しくないのでとても助かる。レクスからそんな評価を出されるダンジョンなのなら、セフィたちでは攻略はまず不可能だろう。
「ということは、終わるまで待たないといけないかな?」
「そうなるわね」
ローズが同意するように頷いた。どれほどの広さのダンジョンかは分からないが、すぐに帰ってくるというわけではなさそうだ。どうしようかな、と思っていると、ロゼの表情が目に入った。
何故か少し青ざめているロゼの表情が。
「ロゼ?」
どうしたのだろうかと呼んでみると、ロゼは頬を引きつらせたまま何も答えない。ロゼの見ているもの、つまりはアリスの方を見て、そしてセフィも息を呑んだ。
アリスの目が、据わっていた。初めて見る表情だ。どう見ても怒っている。
「あ、アリス?」
少しだけ震えているセフィの声に、アリスははっと我に返ったようだった。セフィを見て、何でも無いですよ、と微笑みかける。何でも無いのなら目も笑って欲しい。
「クールさんは、ミカさんがどこにいるのか分からないまま、ダンジョンに行った、と。そういうことですね?」
「そ、そうなるわね……」
ギルドの女も恐怖からか後ずさりしていた。それほどまでアリスから感じる威圧感はすさまじいものだ。大人しい人ほど怒ると怖いというのは本当なんだな、と他人事のように思ってしまう。
「その人は何を考えているんですか? 私はてっきり、その人もミカちゃんを探してまだこの街にいると思っていたんですよ。それなのに、ダンジョン? 意味が分かりません」
「あー……。その、友達に誘われて、どうしても断れなくて、とか……」
「そんなことミカちゃんには関係ないです。ミカちゃんはずっと不安な気持ちでお兄ちゃんを探していたんですよ? それを放り出して、ダンジョン? は?」
どうしよう。アリスが怖い。セフィが助けを求めるように周囲を見れば、ほぼ全員と目が合った。視線が物語っている。アリスの友達ならお前が何とかしろ、と。できるわけがない。
壁|w・)明日は日曜なのでお休みします、よー。




