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ミカの手を引き、アリスはギルドへと向かう。ミカの歩幅に合わせてゆっくりとした歩みだ。ミカは機嫌良さそうに鼻歌を歌っていた。
どうにも周囲からの視線が気になる。間違い無く見られているとは思うのだが、何故だろうか。これほど幼い冒険者というのは珍しいので、やはりそれが理由かもしれない。
「えへへ」
「どうしたの?」
「お姉ちゃんとおそろい! 私、お姉ちゃんがずっと欲しかったの!」
おそらくは服のことを言っているのだろう。アリスが今着ているローブは友人からもらったもので、冒険者が使っていたものだ。つまりは同じ黒のローブである。
「そうだね、おそろいだね」
「うん! おそろい!」
おそろいおそろい、と不思議なリズムで歌いながらくるくるとアリスの周りを回る。歩きにくいよと苦笑しつつも、止めることはしなかった。
「ぐふ……」
「はかいりょくが……」
「何なのあの癒やし空間……」
囁き声が聞こえて周囲を見回すと、何人かの冒険者らしき人と目が合った。彼ら彼女らはアリスから慌てて目を逸らし、立ち去っていく。だがその後も、多くの冒険者から見られているようだった。
「何なんだろう……?」
ミカの相手をしつつ、少しだけ警戒しながらギルドへと急ぐ。
幸い、特に何事もなく無事にギルドにたどり着くことができた。だが当然ながらここにも冒険者はいるわけで。すぐに大勢の視線がアリスたちへと突き刺さる。
「あ……」
ミカが怯えたようにか細い声を漏らし、アリスの後ろへと隠れた。それを見た冒険者たちが、自分たちの視線で怯えさせたことに気づいたのだろう、気まずそうに目を逸らす。だが時折ちらちらとこちらを見ては、微笑ましそうにしていた。ここにいる冒険者は優しい人たちのようだ。
「先にどうぞ、アリスさん」
アリスたちが受付へと向かうと、何かの手続きをしていたらしい冒険者が順番を譲ってくれた。どうして名前を知っているのか、と思うが、そう言えば今の自分はフードを被っていない。友人の一人が、自分のことが有名になりつつあると話しているのを思い出した。もしかすると、道中の視線はアリスそのものに原因があったのかもしれない。
「ありがとうございます」
普段は遠慮するところだが、今日はミカもいるのでお言葉に甘えることにする。笑顔で礼を言えば、譲ってくれた冒険者は顔を赤くしながらそそくさと立ち去っていった。
「いらっしゃい、アリス。どうしたの?」
受付の前に立つと、顔見知りになっている女が声をかけてきた。だがその視線はアリスの隣のミカに釘付けになっている。ミカはその視線が怖いのか、相変わらずアリスの後ろに隠れたままだ。
「迷子を保護しました。多分、冒険者の関係者だと思います」
「それでギルドに来たのね。その子がそう?」
「はい。お願いします」
アリスはそう言うと、一歩後ろに下がった。戸惑うミカの背を押し、女の前に出す。ミカは怯えたままだったが、大丈夫、とアリスが囁くと、小さく頷いて女へと顔を上げた。緊張に顔が強張っていたが、まあ大丈夫だろう。
「初めまして。お名前を聞かせてもらえる?」
「ミカ、です……」
「ミカさんね。見たところ魔法使いのようだけど、間違いない?」
「え? えっと……。そうだったと思います……」
「うんうん。魔法使いでミカ、と……」
女は奥の方へと小走りで向かう。少し待つと戻ってきて、書類を一枚手に持っていた。
「あったわ。確かに冒険者として登録されているわね。剣士のクールさんが同行者で登録されているけど?」
「お兄ちゃんです」
「ああ、ご兄妹なのね。いいわねえ……」
頬に手を当てうっとりとする女。何を考えているのだろうか。アリスの冷めた視線に気が付いたのか、慌てたように咳払いをした。
「ではこちらでクールさんに連絡を取ります。しばらくお待ち下さい。アリス、あとはこちらで引き受けるわ」
よろしくお願いします、と女に頭を下げて、次にミカへと言う。
「あとはこのお姉ちゃんに任せれば大丈夫だからね」
「アリスお姉ちゃんは一緒にいてくれないの?」
泣きそうに顔を歪ませ、ミカが言う。う、とアリスは言葉に詰まってしまう。一緒にいてあげたいが、かといって仕事を放棄するわけにもいかない。アリスの仕事は代わりにできる人がいないので、誰かに任せるわけにもいかない。
「お姉ちゃん……」
ミカがアリスの服の端を掴む。上目遣いに、アリスを見つめてくる。そんな瞳を向けられてしまうと、誰かに任せて終わり、などできなくなってしまう。
仕方がない、とアリスは受付の女に言った。
「すみません。私も一緒に待たせてもらってもいいですか?」
「ええ。いいわよ。ギルドマスターにもこちらから連絡をしておくから安心しなさい」
笑いを堪えながらの言葉に、アリスはお願いしますと頭を下げた。
ミカを連れて、アリスはギルドの隣の建物に向かった。そこは喫茶店となっており、多くの冒険者が利用する有名な店でもある。庭付きの、二階建ての一軒家だ。二階部分が居住空間となっており、一階部分と庭が喫茶店となっていた。店の性質上、女性客が多い。余談だが、ギルドの逆隣は酒場となっており、こちらは男性客が多い場所だ。
アリスは庭の、通りがよく見える席に座った。丸テーブルの向かい側にミカが座り、メニューを開いて瞳を輝かせている。アリスはその様子に微笑みながら、通りへと視線を向けた。
こちらから通りがよく見えるということは、通りからもこちらを見ることができるということだ。あまり目立ちたくはなかったが、ミカの家族が通った時にすぐに分かるようにしたいという考えから、この席にした。ギルドで隣の喫茶店にいると伝えてはいるので大丈夫だとは思うのだが。
「お姉ちゃん、何を頼んでもいいの?」
「うん。いいよ。何が食べたいの?」
「これ!」
ミカがメニューを開いて指差したものは、苺のショートケーキだった。この喫茶店には苺のショートケーキが二種類あるのだが、高い方だ。安い方と比べると値段が五倍ほどになっている。アリスの笑顔が一瞬だけ凍り付いたが、しかしすぐにいいよ、と頷いた。
何を頼んでもいいと言った。自分にそれほど高尚な誇りもプライドもあるわけではないが、幼い女の子に言った言葉まで撤回したくはない。しばらく色々と我慢すればいいだけだ。
テーブルの隅に備え付けられた丸いボタンを押す。どういった仕組みかは分からないが、これを押すと店員が来てくれるようになっている。それほど待たずに、建物から店員が出てきてこちらへと駆け寄ってきた。
「お待たせ致しました! ご注文をどうぞ!」
若い女の店員の笑顔の声に、アリスはメニューを指差して言った。
「このスペシャルイチゴショートをお願いします。あとはオレンジジュースを二人分」
「畏まりました」
頭を下げる店員にお金を渡す。店員はすぐにもう一度一礼すると、戻っていった。
壁|w・)のんびりまったり。
普通のショートケーキ→日本円で600円ぐらい。
スペシャルイチゴショート→日本円で3000円ぐらい。
アリスさんのお財布がピンチ。
明日は水曜日なのでお休み、ですよー。




