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AIアリスの旅記録  作者: 龍翠
第一話 仕事の始まり
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 街の外はとても広い草原になっている。森すら丸一日歩かなければたどり着けない。しばらくは見通しの良い草原を歩き続けることになる。

 決まりとして、街から街への移動はある特殊な方法を使うことが許されている。ただその方法は、街が完全に見えなくなってから、という決まりもあった。混乱を起こさないためだ。

 届け物を詰めたリュックを背に背負い、アリスはのんびり歩き続ける。リュックにはくーちゃんが乗っており、うたた寝をしていた。とてもかわいい。抱きしめたい。


 そうしてしばらく歩いていると、誰かの怒声や悲鳴のような声が聞こえてきた。目をこらし、声の方向へと視線を投げる。冒険者らしき三人組が狼と戦っていた。どうやら祭りにはさほど興味を示さず、早速狩りを始めているらしい。しかしまだ戦いには不慣れなのか、あちこち怪我をしているのが遠目でも分かってしまった。


「くーちゃん、お昼ご飯まだだったよね。お腹減らない?」


 クルーゼに問いかけると、甘えるようにすり寄ってきた。クルーゼの頭を撫でながら、アリスは冒険者たちの方へと歩いて行く。アリスは戦うことはできないが、休憩ついでに食事を提供することはできる。少しは疲れも取れるだろう。


「こんにちは」


 戦闘が終わるのを待ってから冒険者たちへと声をかける。彼らは驚いたようにこちらへと振り返った。


「えっと……。俺たちですか?」


 冒険者のうち、一人が困惑しつつ聞いてくる。アリスは笑顔で頷いた。


「はい。冒険者の方ですよね。私はアリスといいます。この子はクルーゼです」


 リュックの上からクルーゼを抱き寄せて彼らに見せる。三人ともに大きく目を見開いた。


「え? テイマー? いや、でもまだそんなスキルはなかったよな……?」

「始まって数時間でそんなスキルは見つからないだろ」

「お前ら落ち着け、アイコンを見ろ、NPCだ」

「は? あ、マジだ。街から出てくるNPCなんているのかよ……」


 三人はしばらく囁き合った後、こちらへと向き直り、


「すみません、お察しの通り冒険者です」

「やっぱり! お祭りには参加されなかったんですか?」

「え? あ、はい……。その、あまり騒がしいのは合わなくて。せっかく俺たちのために用意してくれたのに、すみません」

「いえいえ。仕方ないです。でも、だとしたら食事はまだじゃないですか?」


 そう問うと、冒険者たちははっとしたような顔になった。三人揃って俯き、指を動かしている。何をしているのか分からないが、邪魔をするのも悪いだろう。そうしてしばらく待っていると、三人は顔を見合わせてからアリスへと言った。


「そうですね。空腹度……、は伝わらないか。ご飯を用意するのを忘れていました。今から街に戻ります」

「私もそろそろご飯を食べようかなと思っていたところですから、ご一緒にどうですか?」


 三人が不思議そうに首を傾げる。返答は聞いていないが、何も言わないのなら用意してしまおう。余れば、クルーゼが全て食べてくれるはずだ。

 アリスはリュックからお鍋や野菜などを取り出していく。それを見ていた三人が目を瞠った。


「どうやってあのリュックにあんな鍋と大量の野菜が入るんだよ」

「あのリュックが俺たちにとってのインベントリなんじゃないかな」

「ああ、納得。設定的にはどうなってんだ?」


 お鍋に水を入れて、クルーゼに頼んで小さな火をおこす。そうしていると、冒険者の一人が声をかけてきた。


「あの、そのリュックにどうやってそれだけの荷物を入れていたんですか?」

「え? あれ? 冒険者の方ももらっていますよね?」


 このリュックは冒険者全員にも配布されると聞いたことがある。そう思って首を傾げると、冒険者は慌てたように言った。


「いや、もらってはいるんだけど、理屈というか、仕組みが分からなくて……」

「ああ、なるほど。不思議ですよね。優秀な魔法使いさんが空間を広げている、と聞いたことがあります」

「そういう設定なのか……。ありがとうございます」

「はい。あ、手軽さを優先するので味は少し落ちますけど、すぐにできあがりますから」


 もう少しだけ待ってくださいね、とアリスが微笑みながら言うと、冒険者は顔を真っ赤にして何度も頷いた。体調でも悪いのだろうか。


「やばい、あの子すっごいかわいい」

「落ち着け、NPCだぞ」


 なにやら冒険者たちが騒いでいるが、アリスは気にせず料理を続ける。そのアリスの隣ではクルーゼが呆れたように冒険者たちを見つめていたが、誰もそれには気づかなかった。




「美味しい! 美味しいですアリスさん!」


 料理、といっても簡単なスープのようなものだが、それが完成して三人に振る舞うと、予想以上にとても喜んでくれた。こちらとしても作ったかいがあったというものだ。


「いやあ、こっちとはいえ、女の子の手料理を食べられるなんてなあ。長生きするもんだ。まだ学生だけど」

「結婚したい」

「やめろばか」


 三人はそんなことを話しながら、どんどんと食べ続ける。それぞれ二回ずつおかわりをしてくれた。本当に気に入ってもらえたらしい。


「アリスさんはこの後はどうするんですか? 街に戻るのなら送りますよ」


 冒険者の一人がそう提案してくる。有り難いことではあるが、アリスは首を振った。


「いえ、大丈夫です。私は北の街に行く用事がありますから」

「そうなんですか。正直、驚きました。街の人たちはあまり外には出ないと思っていました」

「そうですね。ほとんどの人はあまり出ません。私が例外なだけですから」


 街に暮らす多くの人が、一生をその街で終える。王や一部の権力者などは視察などで出ることもあるが、それでもわざわざ街の外を通ることは少ない。それぞれの街を繋ぐ転移の魔方陣で移動するためだ。アリスがそれを使わない理由は、その使用を神によって禁じられているためである。神の意図を察することはできないが、アリスも外の世界には興味があったので文句を言うつもりはなかった。それに、優秀な護衛役もいる。

 全員が食事を終えて、アリスは手早く荷物を片付けた。あまりここで話し込んでしまうと、今日の目的地までたどり着けなくなってしまう。


「それでは、私はそろそろ行きますね」

「あ、うん。そっか……。普段はどこにいます? よければ、また会いたいなと……」


 一人が言って、他二人がその冒険者を呆れた瞳で見つめた。アリスは眉尻を下げて、ごめんなさいと頭を下げた。


「今の私は定住していません」

「へ?」

「私は街や村へと大切な連絡や荷物を運ぶ仕事をしています。なので、定住している街や家はありません。昨日までなら、あったんですけど……」


 それを聞いた冒険者は残念そうに肩を落とした。


「そうなんですか……。それなら、仕方ないですね」

「ごめんなさい。もしまた機会があれば、一緒にご飯を食べましょうね」


 そう言って、三人へと優しく微笑む。三人は顔を真っ赤にしながら、是非、と頷いた。


壁|w・)チュートリアルをすっ飛ばす人だっていますよね? ええ、私です。

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