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「ああ……。当然だ。アリスは私たちの全てだ。このゲームも、この世界も、全てはアリスのために用意されたものだ」
「え?」
セフィとロゼが間の抜けた声を漏らし、唖然とする。黒田は、余計なことを言ったな、と渋面を浮かべ、軽く手を振った。忘れてくれ、と。
「まあとにかく、今後ともアリスと仲良くしてやってほしい。その分、謝礼はさせてもらう。何がいいだろうか? ゲーム内のアイテムか? それとも、現実世界の方での金銭がいいか?」
「よく分かりませんが、いりません。私たちは好きなようにゲームをプレイします。心配しなくても、お姉ちゃんなら何も言わなくてもアリスさんと遊んでいると思いますよ」
「否定はしないけど、なんだろう、腑に落ちない」
唇を尖らせるセフィと、本当のことだし、とすまし顔で答えるロゼ。その二人の様子に、黒田は思わずといった様子で噴き出した。
「いや、すまない。それならば、もし何か必要なこと、もしくは物があれば、遠慮無く言ってほしい。すぐに手配する。連絡にはフレンドリストを使うといい」
黒田がそう言った瞬間、セフィのフレンドリストに強制的にクロダの文字が入り込んだ。無理矢理だな、と思うが、必要になるかもしれないので文句は言わないでおく。
「分かりました。ありがとうございます。……もう行ってもいいですか? そろそろアリスが心配するかもしれませんし」
「そうだな。引き留めてしまって悪かった。行きなさい」
セフィとロゼは立ち上がると、黒田へと頭を下げた。テーブルの上のクルーゼを抱き上げて、扉へと向かう。
「よろしく頼む」
黒田がそう言って頭を下げて、仲良くするだけなら、とセフィは笑顔で言って退室した。
・・・・・
黒田は二人のプレイヤーを見送ってから、大きく息を吐いた。断られたらどうしようか、とそんなことばかり考えていたが、どうやら杞憂に終わったらしい。黒田から見ても、あの二人なら大丈夫だろうと思える。一先ずは安心していていいだろう。
彼女たちの様子を見ようとモニターを出してみれば、どうやらセフィたちはワープポータルを使えないか調べようとしているようだ。始まりの街に帰るならば、それが手っ取り早いだろう。
「驚くだろうな」
くつくつと、黒田は楽しげに笑う。クロダがフレンドリストに入ったということは、彼女たち二人はゲームマスターに近い権限を有したことになっている。使い方を知らない以上何もできないだろうが、ワープポータルは別だ。全ての街に行くことができるようになっている。
案の定、二人はワープポータルの前で凍り付いていた。あとで説明のために運営としてメールでも送っておこう。
そう考えながら、セフィたちの側で不思議そうに首を傾げているアリスを見る。黒田にとっては実の娘のようなものだ。自然と頬が緩んでしまう。
今のアリスはとても自然体だ。とても楽しそうに日々を過ごし、セフィと無邪気に接している。
やはり『前回』とは違う。
だが油断はできない。楽観視はできない。アリスは、アリスだ。それを忘れてはいけない。彼女の言動には常に気をつけなければならない。
彼女は『前回』、人間そのものに失望しているのだから。
黒田は目を鋭く細め、そのままログアウトした。
・・・・・
アリスは始まりの街の宿のベッドに腰掛けていた。小さな部屋で、ベッドとテーブル、いすが一つずつあるだけの部屋だ。今日はここに宿泊することになっている。
北の街かもしくはその近辺で野宿でもしようかと思っていたのだが、セフィたちの移動に便乗させてもらうことができた。冒険者だけが使える魔法なのだろう、手を何度か動かすと、いつの間にか始まりの街の側にいた。あれには本当に驚いたものだ。
他の街にもそれで行けばいいのでは、と聞いたところ、そう簡単にもいかないらしく、色々と制限があるとのことだった。
セフィとロゼは隣の部屋に宿泊している。明日、アリスが次の街に向かうのを見送ってくれるとのことだった。それが少し気恥ずかしくて、それ以上に嬉しい。見送ってもらうというのはとても久しぶりだ。
誰かがアリスを見送ってくれたのは、最初の日だけだ。他の日はアリスはクルーゼと共に行動するだけで、見送りも出迎えもない。当たり前なのだが、それでも帰ってくる家というものがなくなってしまった気がしてしまい、悲しくなってしまう。
孤児院が家と言えば家だが、すでに独り立ちをしている以上、あそこは帰る場所とはまた違う気がする。院長はいつでも帰ってきていいと言ってくれるが、アリスとしては遊びに行くという感覚の方が強い。アリスにとって帰る場所は、ない。
だからこそ。セフィたちが見送ってくれるというのは、この街が帰る場所のような気がしてくる。もちろんセフィとロゼは冒険者だ。ずっとこの街にいるわけではないだろうが、セフィなら、いつでもアリスを出迎えてくれるような気がしている。
「本当にいい人……。ね、くーちゃん」
膝の上で丸くなっているクルーゼに同意を求めれば、眠たそうな目をこちらに向けてきた。微笑ましくなり、頭を撫でる。気持ちよさそうに目を細め、丸くなって目を閉じた。
ふと、セフィとロゼの関係を思い出す。いつも一緒にいますねと何気なく言ってみたところ、姉妹だからと返答された。あれには本当に驚いた。姉妹だとは思わなかった。だからこそ、あの二人はお互いに遠慮無く思ったことを口にしているのかもしれない。見ていて羨ましいと思える。
あの二人は、冒険者として活動していない時は、高校に通っていると言っていた。分からないだろうけど、と前置きされたが、確かに聞いたことのない場所だ。
同じ場所に通っていると言っていた。きっと、セフィならクラスでも人気者だろう。高校でもロゼと一緒にいるのだろうか。別のクラスなら、帰り道に一緒に帰る、とかだろうか。帰りにコンビニに立ち寄って何かを食べたり……。
「は?」
そこまで考えて、アリスは首を傾げた。自分は何を想像しているのだろう。何の光景だろうか。何となく、イメージのようなものが浮かんでいる。大きな建物に、同じような部屋が並び、制服という同じ服を着て勉強をしている光景。夜もずっと明るい店があり、いろいろなものが売っており、そこで温かい食べ物や冷たい飲み物を買える光景。
何の知識だこれは。
アリスは不思議そうに首を傾げ、もう少し記憶を探ろうとする。だが不思議なことに、それ以上は霞がかかったように思い出すことができなかった。いや、むしろ先ほどの光景も思い出すことができなくなっている。
「……まあ、いっか」
アリスは大きく欠伸をすると、クルーゼを抱いたままベッドに横になり、そしてすぐに整った寝息を立て始めた。まるで、そうしなければならなかったかのように。
・・・・・
「本当に、油断できないな」
壁|w・)第三話は以上となります。
おそらくですが、セフィたちが関わる時はアリスを掘り下げるお話になるかな、と思います。多分。
明日は日曜なのでお休みです。月曜から第四話を始めます、よー。




