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「ありがとうございます……。大切にします」
鞘に収めて、胸に抱いてセフィへと言う。セフィは照れくさそうに笑いながら手を振った。
「気にしないでね。私も、これからどうするか決めることができたから」
「どういうことですか?」
「うん。今まで漠然と狩りとかしてたんだけど、思っていた以上にエンチャントが楽しくて。本格的にそれを頑張ってみようかなって思う」
アリスの孤児院の院長さんにも勧められたしね、と付け加えられた言葉に、アリスは思わず絶句してしまった。あの院長は見かけや言動に似合わずとても優しい人だが、エンチャントに関してはかなり厳しい人だ。アリスは合格点をもらえるまで年単位で練習を続けたほどだ。その院長が勧めるとなると、きっとセフィにはその才能があったのだろう。
一時期、院長に憧れていたアリスとしては、セフィが少し羨ましい。
「院長先生が勧めるのでしたら大丈夫だと思います。がんばってください」
後押しするためにそう言うと、セフィはもちろん、としっかりと頷いた。
「さて、この後はどうしよう? アリスはどこか行きたいところとか、ある?」
「それはむしろ私が聞きたいのですけど。案内するとすれば私の方ですよ?」
「そうだよね……。私たちもここ数日で見て回ったからなあ……」
初日や二日目ならばともかく、冒険者がこの世界に来始めてそれなりの日数が経っている。アリスが案内できるところはあまりないだろう。案内できるとすれば、次の街に行った時だろうか。その時にまた時間が合えばいいのだが。
「どうせなら北の街に行ってみたいな、なんて」
セフィがぽつりと漏らした呟きに、アリスが動きを止めた。セフィが慌てて、冗談だよと手を振ってくる。だがセフィの提案は悪くはないものだ。
「行きましょうか。くーちゃんにお願いして全力で飛んでもらえば、一時間ほどでつきます」
「え?」
「そうです! そうしましょう! せっかくですから!」
これ以上ない名案だ。さすがはセフィだと称賛すると、セフィは複雑そうな表情で目を逸らした。その態度を不思議に思いながらも、アリスは街の北門へと歩き始める。セフィとロゼもそれに続いた。
「まじですか。冗談のつもりだったのに。というより噂は本当なんだ……」
「一番乗りだね。楽しみだけど怒られないか不安……。凍結とかされないかな?」
「アリスの提案なんだから、きっと大丈夫……のはず……」
セフィとロゼが何かしら話をしているが、どうやら二人での相談のようなのでアリスは聞かないようにした。
兵士に挨拶をして北門を通り過ぎ、クルーゼに大きくなってもらう。クルーゼの頭を撫でると、話は聞いていた任せておけ、とばかりに頷いて巨大化した。本気の巨大化だ。セフィとロゼが口をあんぐりと開けているのが少しおかしかった。
「レベル千って……」
「桁違い通り越して次元が違う」
呆然とした様子で二人は大きなクルーゼを見つめていたが、やがてはっとセフィが我に返った。
「アリス、こんな街の近くで大きくなっちゃっていいの!?」
「あ」
街を見る。一応少し距離はあるが、街はしっかりと見える距離だ。兵士がどこか慌てた様子で、早く行けと手を振っているのが見えた。
「セフィさん! ロゼさん! すぐに乗ってください!」
「どうやって!? さすがに跳べないよ!」
「くーちゃん!」
クルーゼが尻尾で器用に二人をすくい上げる。アリスはその尻尾に跳び乗り、そのままクルーゼの頭へど移動した。セフィとロゼも頭の上に下ろされた。
「狭い! 高い! 怖い!」
「大丈夫です! くーちゃんが風の魔法を使ってくれるので落ちる心配はありません!」
「万能すぎるでしょこのドラゴン!」
わあわあと騒ぐ三人など意に介さず、クルーゼが翼を広げて跳び上がった。そして一気に速度を上げて、北へと目指す。目的地は北の街だ。
「おお……。セフィ、下見て。景色が流れるを通り越して、速すぎてよく分からなくなってる」
「見ない。怖い」
高さか、それとも速さか。何かしらが怖いようで、セフィは目をきつく閉じていた。そして、アリスにしがみついていた。
「セフィ。アリスさんが迷惑する」
「ごめんアリス。でもお願い。いや本気で。嫌なら、離すけど」
そう言っている間も、セフィは顔を上げようとはしない。アリスは小さく笑いながら、そんなセフィの頭を撫でた。
「私は大丈夫です。気にしないでくださいね」
「うう……。情けない……」
セフィのその様子に、アリスとロゼは顔を見合わせ、小さく微笑みを交わした。
一時間ほど飛び続け、クルーゼがゆっくりと速度を落とした。すでに北の街は見えている。本来ならもう少し離れた場所で降りるのだが、時間がないので許してもらおう。北の街の人ならクルーゼのことを知っているので、それほど問題にはならないはずだ。
「アリス、ありがと……」
大地に立ったセフィの第一声がそれだった。アリスは笑顔で言う。
「とってもかわいかったです」
「うあー……」
その場でうずくまるセフィ。そのセフィをロゼが半眼の冷たい瞳で見つめていた。
「情けない」
「面目ない……」
セフィは立ち上がったものの、未だ悄然と項垂れたままだ。アリスはあまり気にしていないので、セフィも気にしなくていいと思うのだが。
小さくなったくーちゃんを抱いて、北の街へと向かう。すぐ後ろを、セフィとロゼが続いた。
北の街に入れば、きっと元気になるだろう。そんなアリスの楽観的な考えは、どうやら間違っていなかったらしい。
「おお!」
セフィとロゼが瞳を輝かせている。先ほどは街に入るのに何故か緊張していたようだったが、いざ入れば子供のように瞳を輝かせていた。
「綺麗な街だね」
セフィの陶然としたような呟きに、アリスは笑顔になった。
「喜んでもらえたのなら良かったです。冒険者さんの中では、アリスさんとロゼさんが一番乗りですよ」
「うん……。ちょっと方法はずるかったけどね」
「空をひとっ飛び、なんて、誰にもできないだろうしね」
セフィとロゼはどこか遠くを見るような目になってそう言った。確かに、冒険者では使えない方法だ。というよりも、現在はアリスにしか使えない方法だ。もっとも、もう少しすれば冒険者はもっと気軽な方法でここに来られるようになるらしいが。
「それでは、北の街を案内しますね」
「うん。よろしくね」
今ならまだ冒険者はいないので、始まりの街よりもゆっくりと見て回れるはずだ。期待に瞳を輝かせる二人を連れて、アリスはどこに行こうかと考え始めた。
壁|w・)ほのぼの。
明日は水曜日なのでお休みします。




