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AIアリスの旅記録  作者: 龍翠
第三話 友達
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 菜月はある理由から家族以外の人に対して心を閉ざしている。誰とも関わろうとせず、会話もしない。人間不信と言っても過言ではないだろう。家族に対してはある程度心を開いてくれているだけまだ良い方なのかもしれない。

 いつか、菜月には昔のような明るさを取り戻してほしいと思っているが、それがいつになることか。ネットゲームならと菜月を誘ったところ、結構乗り気だったことには驚いたものだ。ゲーム内では響子以外とも会話がある。ただし、相手は全員NPCだが。


「今日はプレイヤーの誰かとパーティを組んでみようかな? いや、でも無理はだめだね。どうしようかな」


 そんなことを考えながら、響子は自室に入った。

 響子の部屋は、入って左奥に勉強机がある。右奥にはベッドがあり、扉の向かい側には窓があった。本棚もいくつかあり、そのうちの一つはぬいぐるみが占拠しているため本の類いはない。ベッドにもいくつかぬいぐるみが置かれている。

 勉強机の側には古いブラウン管のテレビほどもある機械が置かれている。中がどういった構造になっているかは分からない。その機械から太い線がいくつか延び、それら全てがベッドの側に置いてあるフルフェイスのヘルメットのような機械に繋がっていた。


 これがVRMMOをプレイするための機械だ。かなり高額で、今まで使わずに貯めておいたお年玉の大半を使ってしまった。ただその価値はあったと思っている。

 響子はヘルメットのような機械を頭に被ると、ベッドに横になった。ヘルメットの横側にあるスイッチを押す。ゆっくりと、響子の意識は眠りに落ちた。




「と、いうわけで! 一緒に考えて!」

「何がというわけなのか分からない。説明希望」


 始まりの街の広場で両手を合わせて頭を下げるセフィと、それを半眼で見つめるロゼ。セフィはログインしてからロゼを待ち、ロゼもログインしてきたところでずっと頭を下げていた。


「アリスにこの間のお礼に何か贈り物でもしたいんだけど、何を送ればいいのか未だに分からなくて。何かいい案はない?」

「私に聞かれても困る。アリスさんが暮らしてたっていう孤児院にでも行けば?」

「それいいかも! あ、でも、急に見知らぬ人が行って、アリスに何を贈ればいいですかって聞いても怪しまれるんじゃ……」

「お姉ちゃんの指には何があったっけ?」

「……あ、そっか」


 セフィは自分の右手の指を見る。アリスからもらった指輪であり、アリスと友達であることの証だ。これをつけて買い物をしたところ、本当に多くの店で優遇してもらえた。しかもその一度で覚えられたらしく、二度目以降は指輪をしていなくても同じように優遇してもらえている。アリスには頭が上がらない。


「よし善は急げだ! 行くよ!」


 ロゼの腕を掴み、歩き出そうとして、


「場所は分かるの?」


 ロゼのその問いにを動きを止めた。


「まったく、頼りにならないお姉ちゃんだよ……」


 ロゼに腕を掴まれ引っ張られていく。どこに行くのかと聞いてみれば、ギルド、という短い答えが返ってきた。そこなら指輪を見せれば場所を教えてくれるだろう、と。なるほど、とセフィも納得した。


「ロゼは頼りになるなあ……」


 しみじみとつぶやいたセフィに、


「はいはい」


 ロゼはぶっきらぼうにそう返した。少しだけ顔が赤くなっていたのは気のせいだろう。




 結論から言えば、孤児院の場所はあっさりと教えてもらうことができた。アリスの友達なら、ということで地図までもらっている。至れり尽くせりだ。

 その分、贈り物のハードルが高くなっているような気がするが。

 孤児院は現実世界でいうところの保育所のような建物だった。広い敷地に横長の二階建ての建物がある。広い庭で何人かの子供たちが遊んでいた。


「インターホン、とかないよね?」

「時代背景考えなよ」

「ファンタジーにそんなことを考えるなんて無粋の極みだよ」

「時々お姉ちゃんが何を言っているのか分からない……。誰か呼べば?」


 そうしよう、とセフィは庭で遊ぶ子供に声をかけた。一人に声をかけると、次々と集まってくる。別にそんなに人数はいらないのだが、と頬を引きつらせながらも、セフィは大人の人を呼んで欲しいと伝えた。


「大人? じゃあ院長先生かな?」

「ぼくいってくる!」


 少年が一人、建物へと走って行く。待っている間は子供たちと話をすることにした。


「アリスって子、知ってる?」

「アリスお姉ちゃんを知ってるの?」

「うん。友達だよ」

「友達! じゃあ証拠は?」


 友達の証拠って何だ、と一瞬思うが、とりあえず指輪を見せてみる。子供たちはそれを見ると、首を傾げた。


「おい、誰か分かる?」

「わかんない。アリスお姉ちゃんが作っていた指輪に似てるけど……」

「魔力の色とか分からないよね。院長先生待たないと」


 結局はその院長先生を待つしかないらしい。だがあまり待つこともなく、建物から一人の老齢の女が出てきた。女はすぐにセフィの元まで歩いてきて、指輪を見て目を瞠った。


「へえ……」


 女は薄く微笑むと、セフィを興味深そうに見つめてくる。その視線に困惑していると、失礼、と女が小さく頭を下げた。


「いらっしゃい、よく来たね。何もないところだけど上がっておいき。アリスの話を聞かせてほしいからね」


 どうやらこの女はアリスの指輪のことが分かるらしい。一先ず胸を撫で下ろし、セフィとロゼは女に続いて建物へと向かった。

 そうして案内されたのは広い部屋だ。部屋の中央にはテーブルとソファがある。応接室のようなものなのかもしれない。両隣の壁には本棚が並べられ、多くの本が収まっている。


 女、つまりは院長に勧められて、セフィとロゼはソファに座った。院長はその向かい側に座る。三人が座った直後に部屋の扉が開かれ、年長だろう子供がカップとポットを持って入ってきた。三人の前にそれぞれカップが置かれ、ポットの中身が注がれる。オレンジジュースだった。


「さて。あんたらは冒険者だね? その指輪を持ってるってことは、アリスと会ったのかい?」

「はい。色々とお世話になりました」

「はは。お世話に、ね。あの子はのほほんとしてるからねえ。迷惑をかけなかったかい?」

「そんなことないですよ。とっても楽しく過ごせました」

「そうかい。それは何よりだ」


 院長は機嫌良く笑いながらカップに口をつけた。途端に眉をひそめ、カップの中身を見る。次にポットを見て、苦笑を浮かべた。


「ポットにオレンジジュースときたかい。あの子らしい。あんたらはオレンジジュースで良かったかい? 子供ばかりだからあまり量はないが、紅茶やコーヒーもあるよ」

「いえ。むしろオレンジジュースの方がいいです」

「アリスと同じことを言うねえ。……子供だね」

「子供ですから」


壁|w・)ロゼ(菜月)についてはもうしばらく先の予定。


土日休みから水日休みに変更しました。よろしくお願いします。

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