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AIアリスの旅記録  作者: 龍翠
第二話 トッププレイヤー
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 狼たちへと剣を向ける。幸い、まだ囲まれてはいないらしい。狼たちの唸り声が大きくなり、大きな狼が足を振り上げ、その場に振り下ろす。大きな地響きにレクスは顔を青ざめさせた。

 あ、無理だこれ。

 レクスは叫んだ。


「走れ逃げろ全速力だ!」


 子供たちへと叫び、驚きながらも走り始めた子供たちの後に続きレクスも走る。すぐに狼たちも追ってくる。


「どこだどこだ……」


 インベントリの枠を表示させ、レクスはアイテムを探す。走りながらなのでなかなか見つけられない。そうしている間にも狼はどんどんと近づいてくる。


「あった!」


 見つけることができたそれをレクスは背後へと放り投げた。

 茶色の玉と赤い玉。ビー玉のようなその二つを後方へと投げる。以前、始まりの街のプレイヤーの露店で購入した道具だ。ちょっとした魔法が封じ込められている。


 茶色の玉が地面に落ちた瞬間、その周辺の広範囲が液状化した。底なし沼に等しいその場所に、狼たちが突っ込んでいく。足を取られ、沈んでいく狼たち。その後続はその狼を足場にして飛び越えようとして、今度は赤い玉が作動。轟音と共に強烈な閃光が狼たちを襲った。

 この二つは足止めようのものだ。赤い玉は閃光だけで爆発がない。つまりはダメージ判定はない。ただ目くらましの効果は十分に得られる。レクスが後ろを振り返ると、狼たちはその場で混乱しているようだった。


「よし! 今のうちに村の逃げ込め!」

「はい!」


 必死になって走るレクスたち。森を抜け、草原に出る。村はもう目に見えている。しかし、大きな足音が後ろから響いた。まさか、と思い振り返る。リーダーであろう大きめの狼が森の奥から姿を現した。先ほどまでは部下に任せていたのだろう。それがいつまで経っても仕留めてこないので、自ら出てきた、というところか。

 その狼はレクスたちを睨み付けると、一気に駆けだした。他の狼よりも遙かに速い。ぐんぐんと距離を縮められる。


「ちっ!」


 レクスは大きく舌打ちをすると、その場で立ち止まり、狼へと向き直った。


「兄ちゃん!?」

「ここで食い止める! さっさと行け!」

「でも……」

「あとでおもちゃでも作ってやるから、さっさと行け!」


 子供二人は悲壮に顔を歪め、しかしそれ以上は何も言わずに村へとまた走り出した。これでいい、とレクスはうなずき、そして内心で頭を抱えた。

 いくら何でもテンプレすぎるだろう、と。さらには自分で死亡フラグを立てている。馬鹿だ、馬鹿がいる。ちゅうにびょうはそつぎょうしたはずなのに!

 内心で悶えていると、いつの間にか狼が目の前に立っていた。気づけば他の狼たちも追いつき、レクスへと唸り声を上げている。ゲームと分かっていても、恐怖に泣きそうになってしまう。


 俺一人なら死に戻りも気楽だな、と逃避気味の思考をしつつ剣を構え、狼たちがこちらへと襲いかかろうと一歩を踏み出し、

 そして直後に時が止まった。

 レクスも、狼たちも、完全に動きを止めている。レクスは冷や汗が止まらない。いつの間に夜になったのか、と思うほど周囲は暗くなっている。なんかさっきもどこかで見たような、と思いながら空へと視線を上げて、やっぱりか、と頬を引きつらせた。


 いつからいたのか、あの巨大なドラゴンがレクスたちを静かに見下ろしていた。敵意も何も感じない。だがその存在そのものの威圧感だけで、レクスは狼たち以上の恐怖を感じていた。それは狼たちもきっと同様だろう。一歩も動かず、むしろ逃げ腰になっているのだから。

 ドラゴンがわずかに顔を動かす。レクスと目が合った。そして、笑ったような気がした。


「は?」


 レクスが戸惑っている間に、ドラゴンはそのままゆっくりと、レクスと狼たちの間に無理矢理降りてきた。何体か狼たちを踏み潰したが、どうやら気にもしていないらしい。ただレクスの目の前には猟奇的な光景が広がっている。もしレクスが高校生か、もしくは設定を変えていれば、今見ているものに何らかの制限が入ったのだろうが、残念ながら吐き気を催しそうなほど見るに堪えないものが目の前に広がってしまっていた。

 生物が押し潰されたものなど、見たくはなかった。


「うわあ……」


 思わずそう声を漏らしたレクスの前で、ドラゴンは尻尾で前方を薙いだ。ただそれだけの動作で、狼たちが吹き飛ばされていく。あっという間に狼たちが絶命していく。ちなみにリーダー格の大きな狼は最初に押し潰されたうちの一匹だ。さすがに同情してしまう。

 そうして気づけばドラゴンによる虐殺は終わりを告げ、静かになっていた。だが目の前には今もあのドラゴンがいるので、気を抜くことはできない。レクスが警戒していると、ドラゴンがこちらへと振り返った。


 そして、小さくなった。

 レクスの目の前には、見慣れたドラゴン。アリスのお供のくーちゃんがそこにいた。可愛らしく小首を傾げている。


「ああ……。うん。助かった。ありがとう」


 レクスがどうにかつぶやくと、ドラゴンは嬉しそうに頷いた。

 ようやく、察しの悪いレクスでも理解できた。

 あの時、アリスと出会う前に現れた巨大なドラゴンは、最初からこのくーちゃんだったのだろう。タイミング良くアリスが現れたのではなく、最初からすぐ近くに、もしかするとあのドラゴンの背にいたのかもしれない。


「はは……。冗談きついな。最初から教えておいてくれよ」


 肩を落とすレクスを、ドラゴンはつぶらな瞳で見つめていた。


   ・・・・・


壁|w・)土日は休みだと言ったな? あれは嘘だ。

ですが、普段よりちょっと短め。

2500文字を目安にして投稿しているのですが、今回は2100文字ちょっとしかありません。

ここまでが限界でした……。


友人にタイトルについてご指摘を受けたので、第二話を区切りにして変更するかも、です。

連絡員の名称がほとんど出てないけど、と。のんびりまったり考えてきます……。

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