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AIアリスの旅記録  作者: 龍翠
第二話 トッププレイヤー
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「大人に聞いても、あとで作ってやるって言われてさ。でもみんな仕事で忙しそうだから、無理言いたくないんだよ」

「ふうん……。何を作りたいんだ?」

「そうですね……。みんなで座れる大きないす、とか?」


 なるほど、とレクスが頷いた直後、ぴこんと軽い音が頭に響いた。子供たちには聞こえていない音にレクスは少し驚きながらも視線を右上へ。小さな枠が浮かび上がり、文字が表示されていた。

『わたしたちにいすをちょうだい!』のクエストを受理しました。


「何だこのクエスト」


 レクスのつぶやきに子供二人が首を傾げる。レクスは気にするなと手を振り、指でその文字を軽く叩く。すると詳細が表示された。

 子供たちにいすを納品してください。

 詳細が詳細の役目を果たしていない。頬を引きつらせながらも、報酬の部分を見る。報酬は、なし。誰がやるんだこんなクエスト。


 内心で呆れながら、二人に断るために口を開こうとして。

 男の子と女の子の、期待と不安がない交ぜになった目を見て、言葉を呑み込んだ。

 反則だろう、これは。内心で悪態をつく。ただのNPCだ。そう分かっているのに、こんな子供を突き放すようなことはできない。

 仕方なく、レクスは剣を手に持った。


「な、何をするんですか?」


 困惑する女の子を離れさせ、頭の中で図面を描く。

 釘などといったものは期待しない。というよりも、そこまで用意する手間が惜しい。幸い、レクスはいすの作り方を知っている。釘を使わずとも組み立てるだけで良いほぞ組みのいすの図面も、頭に叩き込まれている。

 何度も。何度も見てきた。父の仕事を。仕事を継がなくても役に立つだろう、と物心ついた時から叩き込まれた。父の技術を。

 あとは、このゲームがアシストしてくれるだろう。

 試しに丸太の隅へと剣を振る。レクスが思い描いた通りに、寸分違わず斬ることができた。


「まあ、何とかなるか」


 剣を振る。何度も何度も振り、穴を作るために時には突き刺したりもしていく。これが現実世界ならこんな簡単にはできない。さすがはゲームだ、と思いながら、作業を続ける。

 やがて何本もの木の板ができあがる。所々に凹凸がある木の板だ。レクスは剣をしまうと、それを組み立てていく。そうしてできあがったのは、子供が五人は並んで座れるいすだった。


「すごい……」


 子供たちが感嘆のため息をもらす。少しだけ得意げに頬を緩ませた。意味も分からずに叩き込まれた技術も、たまには役に立つものだ。


「どうだ?」


 そう言いながら振り返ったレクスは、目を見開いた。いつの間にかあの二人だけでなく、広場にいた子供たち全員が集まっていた。好奇心に輝く瞳は完成したばかりのいすに釘付けになっている。レクスが何も言えずに立ち尽くしていると、


「すげえ! あっという間にいすができた!」

「なにこれ! なにいまの! すごいすごい!」


 子供たちがとても楽しげにはしゃいでいる。どの言葉もレクスを褒め称えるものだ。少しむずがゆくなるが、悪い気はしない。むしろちょっと嬉しい。だらしなく頬が緩んでしまう。


「なあ、兄ちゃん、他にも何か作れるのか?」

「ん? まあ、家具ぐらいなら、難しいものじゃなければ……」

「もっと見たい!」


 すぐに子供たちが次の催促をしてくる。彼らの剣幕にレクスは目を瞬かせ、しかし申し訳なさそうに肩をすくめた。


「材料がない」

「あ……」


 最初にあった丸太はいすでほとんど使い切ってしまった。まだ残っていることは残っているが、さすがにもう一つ何かを作れる量ではない。子供たちが残念そうに肩を落とす、レクスの責任ではないのだが、何故か罪悪感がわいてくる。


「あー……。材料、とりにいくか?」


 そう提案してみると、子供たちは再び瞳を輝かせた。


「行く!」


 そういうことになった。




 レクスは丸太の前で悩んでいた少年と少女を連れて、村の側の森に訪れた。この二人は村の子供の中では最年長らしく、少しずつ大人たちの仕事を覚えているところなのだそうだ。


「この辺りの木なら切り倒しても大丈夫のはずです」


 少女がそう言って周囲を見回す。他の場所と違いがないように思えるが、何か目印でもあるのだろうか。ともかく早速すぐ側の木を切り倒すことにした。さすがに現実世界でもそこまでやったことはないが、まあ何とかなるだろう。

 だが忘れてはいけない。ここはゲームであり、村の外だということを。

 剣を振り下ろそうとしたレクスは、振り上げたままで動きを止めた。何かが聞こえてきた。獣の唸り声のようなものが。そしてそれは、つい最近、聞いた覚えのあるものだ。


「兄ちゃん、どうしたんだ?」


 少年がそう問うてくる。レクスは剣を静かに下ろし、周囲を警戒する。しばらくすると、木の枝を折るような軽い音が聞こえてきた。


「え?」


 子供二人もそれが聞こえたらしい。そしてすぐに、二人ははっとして顔を青くした。


「お、おい! お守りは!?」

「持ってないの!? 私も持ってないよ!」

「お守り? 何のことだ」


 警戒を続けながら聞いてみると、すぐに教えてもらうことができた。村には魔物よけのお守りがあるらしく、外での仕事の時は必ずそれを持ち歩くことになっているらしい。それがあれば魔物から襲われなくなるのだとか。そんな便利なものがあるのか、と驚くが、今はそれどころではない。


「つまりは魔物か……」


 再び先ほど同じ軽い音。そちらへと目を向ければ、黒い狼のような魔物がこちらを睨み付けていた。心なしか、アリスと出会う直前に遭遇した個体よりも一回り大きく見える。表示されているレベルを確認すれば、四十。レクスの頬が引きつった。さすがに倍のレベル差は覆せる気がしない。

 さらにその周りには一回り小さな黒い狼たち。おそらくはあの大きな狼がリーダーのようなものなのだろう。やっかいなことに、群れと遭遇してしまったらしい。


「なんだよ、結局死に戻りか……」


 そうつぶやいたところで、レクスの思考は一瞬固まった。ゆっくりとした動作で子供たち二人へと振り返る。二人とも怯えたような表情をしていた。

 プレイヤーは戦闘不能になっても、死に戻りをするだけだ。経験値などにペナルティはあるが、二度とログインできなくなるということはない。どこかの小説みたいに、現実で死ぬというようなことも当然ない。


 だが、NPCはどうなのだろうか。

 フィールドに出歩くNPCはアリスのみ。これはクエストも含まれる。今現在、NPCを護衛するというクエストは確認されていない。それ故に、NPCが死んだ時のことなど誰も知らない。

 だが子供たちの様子を見てみれば、死ねばどうなるかなど一目瞭然だ。恐らく、消えてしまうのだろう。NPCが高度なAIを有している以上、あやふやなことはできないのかもしれない。


「くそ……」


 この二人をここまで連れてきたのはレクスだ。先ほどまで楽しそうに笑っていた二人をこのような場所に連れてきたのは、レクスだ。ならば自分が送り返さなければならない。でなければ、この二人が消えてしまう。


「上等だくそったれ!」


壁|w・)やったねイベント戦だよ!


ほぞ組について。ざっくばらんに言うと、凹凸を使って組み立てる方法です。

作中ではさくさく作っていますが、実際はそんなに簡単じゃないです。もちろん。


Q.子供二人、フィールドに出てない?

A.それについては一応の説明が入る予定です。


今週は忙しいので、土日はお休みします。

時間があれば、どちらかでもう一度更新したいところではあります……。

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