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AIアリスの旅記録  作者: 龍翠
第二話 トッププレイヤー
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 眼下の景色が流れていく。草原を過ぎて、森を飛び越えていく。飛行を邪魔する者は誰もいない。鳥の姿をした魔物たちですらドラゴンには近づいてこなかった。

 一時間もすればレクスの恐怖心も和らぎ、少し余裕を持って景色を楽しむことができた。ただし、あくまで和らいだだけだ。必要以上に身を乗り出そうとは思えない。


「はは……。すごいな……」


 今まで苦労して歩いてきたことが馬鹿らしく思えてしまう。ゲーム内とはいえ不眠不休で歩いていたが、そんなレクスの苦労をあざ笑うかのようにドラゴンは飛び続ける。レクスが歩いた距離など、このドラゴンなら数時間で飛びすぎてしまうだろう。


「一つ聞いていいか?」


 アリスへと話しかけると、どうぞ、という短い声が返ってきた。


「もしかしてドラゴンに一緒に乗るのは俺が初めてだったりする?」

「いえ。最初は怖かったので孤児院の院長先生に一緒に乗ってもらったこともありますし……」

「あ、違う。そうじゃなくて。プレイヤー……は通じないか。冒険者の中で」

「いますよ」


 その返答にレクスは目を丸くした。まさか自分以外にもドラゴンに乗ったことがある人がいるとは思わなかった。そう考えていると、さらにアリスが予想外の言葉を続けてきた。


「この間、くーちゃんに乗って一緒に北の街まで行きました。あ、妹さんもいたので、レクスさんは三人目ですね」

「あ、ああ……。そうなんだ……」


 北の街にたどり着けたとしても、それは一番乗りにはならなかったらしい。すでに北の街に入っていた人がいるとは思わなかった。さすがに、ドラゴンに乗って行くというのは考えつかなかった。


「どうしてその人を北の街に?」


 そう問うてみると、アリスは少し考えて、


「観光ですね。他の街に行くのが楽しみだと言っていたので、それならとお連れしました」


 予想以上に、軽い。何か、このNPCに関わるクエストか何かでもあったのかと思ったが、ただの観光とは。アリスの口振りからしても、特に何かをしてきたわけではなさそうだ。


「ふふ……」


 その話を終えてから、アリスの機嫌が見るからに良くなった。楽しいことを思い出しているらしい。アリスにとって、その二人の冒険者は特別なのかもしれない。

 レクスはそう言えばと思い出す。掲示板での話だが、アリスと友達になったプレイヤーがいるらしい、という話があった。アリスの話にあった二人がその友達なのだろう。どういったプレイヤーなのか、少しだけ興味が湧いてくる。


「友達、か……」


 現実世界を含めて、最後に友人と遊んだのはいつだったろうか。レクスは気づけばあらゆるオンラインゲームに手を出すようになり、常にトッププレイヤーの一人として名を売ってきた。最初は暇つぶしのはずだったのが、今では強くなることにこだわりすぎている気がする。

 賞賛されるのが好きだ。羨望の眼差しで見てもらえるのは気持ちがいい。だがそれも、一度落ちてしまえば失望に変わることを知っている。だから、レクスはやめられなくなった。ただただ効率を求めるようになってしまった。


「余裕がないな……」


 眼下の景色を眺める。ゲームとは思えないほどにリアリティのある世界。今までこうして景色をしっかり見ることなどなかった。


「見えてきました」


 思考に耽っていると、アリスの声が耳に届いた。アリスが指差す方、進行方向の先にいくつかの建物が見える。他と同じように田畑が多い村のようだ。


「そろそろ下りますね」


 村が見えた時点でドラゴンは飛行のスピードを落としている。まだ距離はあるように見える。戸惑うレクスへと、アリスは振り返って申し訳なさそうに眉尻を下げた。


「このまま近づいてしまうと、村の人がくーちゃんに驚いてしまいます。くーちゃんに乗せてもらうのはある程度離れた場所までで、そこからは歩いて行くことになります」

「ああ、そっか。それで始まりの街でもドラゴンを見かけることがなかったのか。いくら人が多いあそこでもこのドラゴンなら話題になるはずなのに何も聞かなかったから、不思議に思ってたんだ」

「あの街の人はくーちゃんの大きい姿も知ってますけどね。そこの皆さんを驚かせたことが、この制限の理由ですし」

「なるほどね。まあそれは仕方がない」


 確かに何も知らなければ驚くことになる。知っていても驚いてしまうのだから、知らなければそれは余計にだろう。驚かせただけでなく、もし討伐対象として見られてしまったら目も当てられない。もっとも、このドラゴンが討伐されるとは思えないが。

 ドラゴンが高度を下げていく。ゆっくりと地面が近づいていき、やがて大地に降り立った。アリスがすぐにドラゴンの背から飛び降りる。意外と身軽なようだ。レクスもそれに続き、飛び降りた。


「ありがとう、くーちゃん」


 アリスが声をかけると、ドラゴンはアリスに顔をすり寄せ、そのまま小さくなってアリスの腕の中に収まった。アリスが頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めている。そのまま目を閉じて、眠りについてしまった。


「寝ちゃったけど、いいのか?」


 このドラゴンはアリスの護衛役だったはずだ。そう思って問うてみると、すぐに質問の意味を察したのか、アリスは頷いた。


「大丈夫です。何かあるとくーちゃんはすぐに目を覚ましますので」

「そうか……。まあアリスさんがそれでいいなら、俺は何も言わないけど」


 実際にこうして旅を続けているのだから問題はなかったのだろう。レクスが気にすることでもないので、それ以上は何も言わないことにした。

 アリスと共に村へと歩き始める。同行させてもらっている立場なので、魔物はこちらで引き受けよう。そう考えてアリスの少し先を歩き、常に周囲を警戒している。アリスの方は一応警戒はしているようだが、その表情は楽しげだった。


「楽しそうだな」


 もう少しぐらい警戒した方がいいだろう。そういった意味合いで言ったのだが、アリスは無邪気な笑顔をレクスへと向けてきた。


「はい。誰かと一緒に歩くのは楽しいです」

「そう……」

「せっかくなので何かお話しませんか?」

「え? あ、うん……」


 アリスと話していると調子を狂わされてしまう。だが不思議と嫌な気分にはならない。自分だけ気を張り詰めているのも馬鹿らしくなり、ため息をついてアリスの横に並んだ。


「冒険者さんたちは別の世界からこちらに来ているって聞きましたけど、こちらの世界はどうですか?」


 そういう設定なのか、と内心で驚きながら、レクスは少し考える。どう、と聞かれても答えようがない。ここに来てからというもの戦ってばかりだ。戦わなければ、すぐに追いつかれてしまう。


「強くなるのに必死だったからな……。あまり見て回ってないんだ」


 そうなんですか、とアリスは少し残念そうに俯いてしまった。その様子を見ていると、心苦しくなってくる。もう少ししっかりと見て回れば良かった。


「どうしてそんなに強くなりたいんですか?」


 気を取り直したようにアリスがそう聞いてくる。レクスはすぐに答えた。


「誰にも負けないために」


壁|w・)アリスのセリフにある友達とのお話はまたいずれ。

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