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VR―08 Rem Village

お待たせしました!

章を聖女編から冒険者編へと変更しました。

聖女編は二章となります。

「護衛対象者を中心に展開しろ!敵影十!シルバーファングだ!油断するなよ!」

「「おうっ!」」


セルトポールから南に行く道の途中、まさに今冒険者と魔物の戦闘が始まろうとしていた。


冒険者に対するはシルバーファング。

その外見は地球で言うところの狼。

しかし、毛並みは銀色で瞳は燃えるように紅く、非常に獰猛だ。

銀級冒険者が基本的に相手をするこの魔物は連携を得意としており、仲間同士で離れた所からでも念話を使って連携することができる。


先程アマネと話していた冒険者、男の戦士と女の魔導士――ガレッドとエイミーが他の冒険者に指示を出す。

実は彼らは金級冒険者の凄腕で、ここいらでは有名なパーティーだ。


「お前ら!腰を落として低く構えろ!こっから一匹も通すんじゃねぇぞ!」

「魔導士の皆!雷魔法であいつらの動きを鈍らせるわよ!」


冒険者達はそれぞれ気合いの篭った返事をし、指示通りに素早く行動を始める。

前衛に四人の戦士、後衛に三人の魔導士といった布陣があっという間に完成した。

アマネは馬車の荷台からその様子を見て冒険者達の洗練された動きに舌を巻く。


冒険者達は完全に守りに入る体勢を取った。

前述した通りシルバーファングは連携を得意としており、 彼らは集団で弱点となる場所を正確に突いてくる。

そのため、護衛任務のように弱点である護衛対象を守るには防御に徹しなければならず、後衛の魔導士もまた動きを疎外するために速効性がある雷魔法を使用するのだ。


周りでグルルと唸りながら対峙する十匹のシルバーファングは、冒険者に警戒しながら周りを取り囲む。

冒険者もまた、包囲するシルバーファングを睥睨して緊張を緩めない。

まさに一触即発。

命の奪い合い特有の肌を焼くようなピリピリとした空気が辺りに充満している。


刹那――


シルバーファング三匹が前衛の戦士に襲いかかった。

戦士達は一斉に片手で構えていた盾を突きだして防ぐ。

それと同時に後衛の魔導士は後ろで待機していたシルバーファングに雷魔法を撃った。

バチリと電撃が後ろのシルバーファングの目の前に着弾し、追撃への牽制をする。


接敵している三匹はいわば孤立している状態。

その隙を冒険者が逃すはずもない。

前衛の戦士四人が動揺する三匹に斬りかかった。

一匹の横腹が大きく裂け、中から臓腑を出しながら鮮血が飛び散る。

残りの二匹はそれに動揺し、大きくバックステップして退避した。


残り九匹。

今度は戦士の数より多い五匹がステップを踏んでジグザグに進みながら戦士へ疾走する。

ガレッド以外の三人には一匹ずつが襲いかかり、先程と同様に盾を突きだし動きを止めた。

一方ガレッドは他の三人より実力があると勘づかれたのか、二匹が相手だ。

まず先頭の一匹がガレッドの足に噛みつこうと態勢を低くして大口を開けて襲いかかる。

ガレッドは半身をずらしてそれに対処。

しかし、その時に出来た隙に一匹目の影に隠れていた二匹目がガレッドの喉元に喰いつこうとする。

ちょうどガレッドが反撃できない絶交のタイミング。


「なめるなあぁぁ!!」


気合いと咆哮。

ガレッドは腰を捻り、体を逸らしてギリギリで回避、そして振り返り様に一閃。

シルバーファングの胴体を綺麗に両断した。

ガレッドの顔に帰り血が飛ぶが、両断した勢いのまま剣を振り抜き、攻撃を回避されて隙ができている一匹の顔面を破壊。

一方他の冒険者もまた余裕を持って一匹を倒している。

まだ冒険者と近距離で対峙していた二匹は慌てて戦線から離脱した。


残り六匹。

事態は再び膠着状態に陥る。

しかし、これが冒険者達の狙いであり、作戦だ。

敵は同様に攻めれば先程と同じように対処されると考え、攻撃する隙を見つけられないでいる。

相手が攻撃を躊躇している今が絶好の機会。

ガレッドが片手を挙げて合図を送ると、前衛の戦士達が咆哮と共にスキルを使用する。


戦士スキル『威圧』


「「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!」」


ビリビリと鼓膜を揺るがすような声が辺りに響く。

シルバーファングも思わず怯んで硬直した。

そして後衛の魔導士もまたスキルを使用。


魔導士スキル『コンセントレイト』


『コンセントレイト』によって消費魔力が二倍となるかわりに効果範囲三倍となった雷魔法を放つ。


「「雷よ!我が意に従い敵を討て!『サンダーバレット』!」」

「雷雲よ!我が意に従い仇なす者に断罪を与えよ!『サンダーレイン』!」


銀級魔導士の初級雷魔法『サンダーバレット』と、金級魔導士であるエイミーの中級雷魔法『サンダーレイン』がシルバーファングを襲う。

『コンセントレイト』によって増幅した雷は、動けずにいるシルバーファングを飲み込んだ。


辺りに豪音が響き、シルバーファングは錐揉みしながら血を撒き散らしてはじけ飛ぶ。

四匹のシルバーファングがそのまま地面に落下し、全身から煙を出しながら倒れ伏した。

しかしまだ二匹は意識があり、全身に火傷を負いながらもよろよろと立ち上がる。


「行くぞお前ら!一気にたたみかけろ!」


最後に前衛の冒険者が満身創痍の二匹に止めを刺し、この戦いは幕を閉じた。



完全勝利。

冒険者達の連携はどれも流れるように行われ、全てが嵌まっていた。

ゲームの中では到底再現ができない実際の戦闘。

血や肉の焦げた嫌な匂いが鼻につくが、それ以上に命の駆け引きを間近で目撃した高揚感がアマネを支配していた。

そして思わず声が漏れる。


「これが……。これが冒険者……。」


手をぎゅっと握って、己との力量差、実際の戦闘の違いを噛み締める。

視線を送ると、戦いに勝利した冒険者達は手を振りながらこちらに歩いてきていた。

アマネもまた手を振り返す。

自分もこの者達のようにならなければならないのだ、と改めて決意を固めながら。



―――――



日か傾き始めた頃に、ようやく一行の第一の目的地である村が見えてきていた。

道も段々と平らになってきている。

先程まで馬車が揺れてガタガタと尻をうっていたが、今はそんな事はない。

石畳で舗装された道には、同じようにレムの村へと向かう行商人の姿もあった。

なんとか今日中に着きそうだ、と誰もが安堵する。

アマネ達一行にあれから魔物の襲撃もなく、盗賊の類いもでてきていない。


御者台から冒険者が顔を出し、アマネ達にもう到着すると声を掛けた。

到着はもうすぐだ。


セルトポールから南に位置するここレムの村は、元々小さな村であった。

しかし、セルトポールが国境都市として発展していくにつれて、ちょうど馬車で一日行った所にあるレムの村もまた商人や冒険者の休憩所として発展する事になった。

そのため宿屋が多く、冒険者や商人に振る舞う酒もまた『レム酒』という特産品として有名なのだ。


アマネ達一行が乗る馬車が到着したのは、太陽が沈み東から月が見え始めた頃であった。

「ん~~っ」と声を漏らして大きな伸びをしながら下車をするアマネ。

明日その召喚武具士の狩人とやらの所へ行くつもりのようで、今日の宿屋を探す。


お世話になった商人や冒険者にお礼をしてから、とてとてと歩き始めた。


「今日の宿屋はどうしよう」


キョロキョロと建物の看板を見ながら少女は歩く。

通りにはアマネと同様に宿屋を探す商人や冒険者が行き交っている。

村という言葉から日本の田舎を想像していたアマネは予想以上の人混みに四苦八苦しながら、安くもなく高くもなさそうな無難な宿へと入っていった。

建物の前では四十代ぐらいの女性が客引きをしている。

こちらに気づくと、女性は愛想の良さそうな笑みを浮かべた。


「いらっしゃい。うちに泊まるのかい?」

「はい。とりあえず一泊お願いします。」

「はいよ。一拍五千ギルだよ。」


五千ギルと、セルトポールより格段に安い宿泊料ではあるが、ここいらの宿では高級な部類に入る。

アマネは「いやぁ、安いのに綺麗でいい宿だなあ」とひとりごちているが、当たり前なのだ。


風呂は付いておらず湯浴みしかできなかったが、まあ安宿だしこんなもんか、と納得して体を洗う。

アマネが前回泊まっていた宿が特別だとは知らない。


そのままカトールに貰ったリボンやフリフリがついた可愛らしいネグリジェに流れるように着替え――もはや違和感を感じなくなるほど洗脳されているのは言うまでもない――明日に備えて早々に眠りにつくのだった。



日付が変わり時刻は朝の七時、アマネは既に起床している。

今日は召喚武具士である狩人に会い、教えを乞わなければならない。

アマネは朝の支度をして意気揚々と一階に下りた。

まずはその狩人とやらを探さなければならない。

ではファンタジー恒例の宿の情報網を使おうではないかと、アマネは昨日客引きをしていた女性に話しかけた。


「すみません」

「ん、なんだい?」

「この村で狩人をやっていて、召喚武具士の方がいると聞いたんですが……」

「ああ、うちの娘だな」

「そうですよねぇ。そんな簡単に見つかるわけないですよね」

「娘ならもう少しで帰ってくるよ。近くの森で鹿を狩ってくるって言ってたからね」

「いやあ、やっぱり探しまわらないといけないですよね……って、え?」


目を剥いて口を開ける。

そんなアマネにやれやれと肩を竦めながら、宿の女性は口を開いた。


「よく事情はわからないけどもうすぐ来るからそこに座っときな」

「へ? そんな本当に?」

「本当だよ。ほら座った座った」


あっけなさすぎて放心としながら、アマネは入り口の側にある椅子に大人しく座る。

実は村中探しまわるのもお使いクエストみたいでいいな、と思っていてあっけなく見つかった事にショックなのはアマネだけの秘密である。


程なくして、情報通りその狩人がやってきた。

鹿の死体を肩に担いだその人物は、のそりのそりと宿屋へと入ってくる。


黒のフード付きローブで全身を隠し、その背中からは強者のオーラが漂っていた。

どこの悪役ですかと思わず言いたくなるその風貌に、小心者のアマネは声をかけるのを躊躇う。

あわよくばそのまま気づかずに行ってくれ、とアマネは念を送る。

しかし、アマネの願いむなしくローブの人物の母は問答無用でアマネを紹介した。


「この子があんたに用があるんだとさ」


それはまさに処刑宣告のよう。

鹿を置いた黒ローブの悪役はガクガクと震えるアマネにゆっくりと振り返る。

そして……。


「何この子可愛い!」

「へ?」


奇声を発しながらアマネに抱きついた。

一瞬襲われたと思ったアマネは体が硬直して動けない。


「くんかくんか。あぁ、いい匂いだわー。髪もサラサラだし。可愛いわー。お持ち帰りしたいわー」

「あ、あの……」

「あっ、でも私に用があるって事はお持ち帰りしてもいいって事? そうだよね? そういう事だよね!?」


アマネの全身をまさぐりながら、なにやら不穏な事をぶつぶつと呟く黒ローブの悪役。

それを見かねたのか母を名乗る女性の鉄槌が落ちる。

ゴツンと、鈍い音が響き、黒ローブは星を飛ばしながら横転した。


「ほら、あんたに用があんだからその子を離したげるんだよ」

「いったぁい!頭がぁ!頭が割れるー!」

「全く。悪いね、うちの娘に用があるんだろ?」

「は、はぁ……」


何故かこのやり取りに妙に既視感を覚えるアマネ。

この世界の人達は皆こんな感じなのだろうか、とこめかみが痛くなるのだった。


黒ローブの人物の再起動に時間がかかったが、なんとか頭を押さえながら立ちあがりフードをおろす。


その容姿に思わずアマネは息を呑んだ。

娘であるという発言から女であろうと予想はしていたが、黒ローブのいかにも悪役風の人物からまさか華奢な美少女がでてくるとは思うまい。


金髪碧眼、鼻はすらりと高く、芸術的な容貌はまさに美女と言わしめる。

さらに驚くべき事は彼女の尖った耳だろう。

これはファンタジー定番のエルフの特徴だ。

今は嬉しいのかピコピコと動いていて、アマネの視線を奪う。


「あら、耳がどうかした? あなたもエルフじゃないか。珍しくもないでしょ」


黒ローブの美女の言う通り、アマネも実はエルフ。

誰にも言及されなかったため、アマネはさして珍しくもないのかと深く考えてはいなかったが、実際に他人のをこの目で見るのは初めてだった。


アマネが興味津々に耳を見るのに納得するように黒ローブの女性は手をポンと叩き口を開いた。


「ああ、うちのお母さんが人族だからかな? お父さんがエルフだから私もエルフになったんだよねえ」


ハーフエルフという事なのか? と首を傾げるアマネ。

実はこの世界では両親が異種族であると、その子供はどちらかの種族になる。

しかしアマネがそれを知るのはまだ先。

この時のアマネは彼女がハーフエルフだと勝手に納得した。


「それで用って何かな?」

「あっ、はい。私は召喚武具士なんですが、恥ずかしながら戦闘について全くの素人でして、冒険者になるためにも戦闘訓練をしようと思っていまして。その、教師となる方を探しているんです」

「ああ! あなたがアマネちゃん!? カトールから聞いてるよ。いやあ、どうりで可愛いと思ったよお!」

「は、はあ。」


鼻息荒くアマネに迫り、エルフの尖った耳をピコピコと動かす黒ローブの女性。

なるほど、この女性とあの獣人の受付嬢の気が合うはずだ。

趣味趣向、性格まで似通っている。

アマネは妙に納得した。


「さて、自己紹介がまだだね。私の名前はカシル。親しみをこめてカシーちゃんと呼んでくれ。」


ピースしながらウィンクをして言う黒ローブの女性カシルを、アマネは白い目で見るのだった。

あっ、この人も変人だ、と。


宿屋→睡眠→レム睡眠→レムの村


レムの村の名前はかなり変化球で行きました。

連想ゲームって楽しいですよね。


4/7 カシルの口調を少し変更しました。

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