VR―06 Man Of Valor
すみません。今回後半がまだ書き終わっていないため途中までです。遅筆で申し訳ありません。
追記(3/23)
書き終わりました!
冒険者組合前、爛々と照りつける太陽が眩しくて二人の少女が手をかざしながら冒険者組合の大きな建物を見上げていた。
アマネは浮かない顔をしており、必死に緊張をほぐそうと深呼吸をしている。
「ひっひっふーーー!」
ここでは通じようもない使い古したネタを放り込むアマネ。
すると隣で冒険者組合を見上げていた少女コフィーが怪訝な顔でアマネに問いかけた。
「どうしたんですか? 赤ちゃん産むんですか?」
「うっそ! 通じちゃったよ! ラマーズ法こっちにもあるの!?」
「ラマーズホウ? コッチ? 」
「ナ、ナンデモナイデス」
アマネはわざとらしく口笛を吹いてごまかす。
コフィーはジト目でアマネを睨むが、アマネはさっと視線をそらした。
全て喋るとなると地球の事も触れなければならない。
となると、確実に頭のネジが数本飛んでる子認定をされるに決まっている。
ならこれ以上話すのは得策ではない。
そこまで考えてアマネは冷や汗をかきながら慌てて話題を変えた。
「カ、カトールさんは私の答えを聞いてどう言うでしょうね」
「はぁ、言いたくないなら催促はしませんよ。えっと、カトールさんですよね。そうですね。アマネさんが決めた事ですし特には何も言わないんじゃないですかね?」
二人が冒険者組合に来た目的はカトールへの返答である。
アマネは内心びくびくしながらカトールに自身の答えを告げるつもりでいた。
コフィーは話題を変えた事に口を尖らせながらも、そんなアマネに事も無げに言葉を返す。
コフィーのさも当然といった態度に、まだ短い付き合いである自分にはわからない事なのかな、と感じ、「ううむ。」と唸る。
そこでアマネは参考までにという軽い気持ちで現役の警備兵であるコフィーにも問いかける事にした。
「そういえばコフィーさんだったらカトールさんにどう答えるんですか?」
「私なら……そうですね、迷わず冒険者をやると言うでしょうね」
少し逡巡した後すぐに返答するコフィー。
何やら深い訳がありそうだと感じとったアマネは、コフィーに先を促す。
「へぇ、どうしてですか?」
「何かを守るためなら命だって賭けなければならないと思っていますからね。そのくらいで大事な物を守れるなら、私はなんでもするつもりです。今やってる警備兵もそういう理由ですしね。あっ、そういえばアマネさんには言っていませんでしたね。私がどうして警備兵をしているのか」
軽い気持ちで聞いたら思った以上に重そうな話ではあったが、正直前から気になっていたアマネはコフィーの話に耳を傾ける。
コフィーはゆっくりと自身の過去を吐露した。
「私はですね、実は孤児なんですよ。セルトポールから少し離れた村に小さい頃住んでいたんですが、ある時私以外の村人全員が盗賊に襲われて死んでしまったんです。私は両親に逃がしてもらって何とかセルトポールに生き延びて歩いてきたんですが、私は息も絶え絶えで今にも死にそうな状態でした。そんな私を拾ってくれたのが、警備兵の皆さんです。警備兵の皆さんは私を娘のように育ててくれて、街の人達は私にとても親身になってくれました。私は今まで皆さんのおかげで幸せに暮らせる事ができたんです」
コフィーは遠い目をして、過去に思いを馳せる。
その目は、辛い過去を思い出して悲しみに暮れているわけではなく懐かしい思い出に浸るような暖かい目をしていた。
「だから私は決めたんです。この大好きな街の人達や私を育ててくれた警備兵の皆さんを守るために、私も命を賭けようって」
少し間を置いてアマネの目を真っ直ぐ見てから言ったその言葉には、何事にも揺るがぬ確固たる決意が表れていた。
そこでアマネはふと、詰所で自分が起きた時からコフィーが自分にとても優しくしてくれた事を思い出す。
(人から受けた優しさを見知らぬ人にも分けてあげるなんて、コフィーさんは本当にいい子だ。私もいつかそういう風になれるといいなあ)
自身の過去を話しきった後、アマネの隣で雲一つない青空を見上げている黒紫髪の少女をちらりと盗み見て、アマネは自然と頬を緩ませた。
アマネの視線に気がついたコフィーは、恥ずかしそうにポリポリと頬を掻く。
「ま、まあ偉そうな事を言いましたが、冒険者という仕事は何かを守るために体を張る立派な仕事だと思いますよ。アマネさんが自分の夢を守るために冒険者を選んだのなら、それを誇りに思ってもいいと私は思います」
コフィーはそう言って、にへらと相好を崩す。
その笑顔は向日葵のように可憐で可愛らしく、アマネのハートを撃ち抜いた。
それと同時にアマネの鼻から大量の鮮血が噴射。
そしてがくりと膝から崩れ落ちた。
(な、何だこの子は! いい子すぎる。いい子すぎるよ! 私はロリコン紳士のはずだ。あっ、今は女だからロリコン淑女かな。いや今はそんな事はどうでもいい。重要なのは私の守備範囲をオーバーしているはずなのに胸を貫かれたような衝撃を感じた事だ。もしかしてこれは、恋? いや、違う。違うはずだ。私はあくまでロリコン紳士もとい淑女。こんな事はあってはならない。何か、何かロリコン度の高い物で補充しなければ!)
いきなり鼻から血を出して崩れ落ちたアマネに、顔を青くしながらコフィーは駆け寄る。
しかし、アマネはコフィーを手で制すると、のそりと起き上がり鼻を片手で抑えながらもう片方の手で自身のぺったんこの胸をぺたぺたと触りだした。
アマネの目は血走っており口はだらしなく半開きで、決してうら若き乙女が見せてはいけない顔だ。
極めつけに「ふへへへへ。」と奇妙な声を漏らしていて、何者も寄せ付けないオーラを放っていた。
後にコフィーはこう語る。
「あの時のアマネさんは正直気持ち悪くてドン引きしました」
それを聞いたアマネは卒倒しそうになったとかならなかったとか。
閑話休題。
アマネの発作はしばらくして収まった。
しかしアマネの肌の艶が妙に良くなっていたのは気のせいではないだろう。
そしてコフィーもアマネとの距離が心無しか遠くなっている。
上機嫌なアマネはそんな事には全く気がつかず、「さあ冒険者組合に入りましょうか」とコフィーに先を急かすのだった。
冒険者組合に入ると、昨日と同じように従業員が一斉に二人を出迎える。
「「「いらっしゃいませ!!」」」
従業員の声は相変わらず綺麗に揃っており、よく訓練されている事が伺えた。
さすがに今回は二回目なのでアマネはビクッと肩を跳ねあげるだけであったが、どうも慣れないのか体を小さくしながらカトールのいるカウンターへと向かった。
受付嬢のカトールは二人が近付いてくるとヒラヒラと手を振って答える。
そしてアマネのほうを見て小さく微笑んだ。
「さあさあ、アマネちゃん。答えを聞かせてくれるかしら。と言っても、その顔を見てたらだいたい予想が付くけどね」
そう言ってカトールはやれやれと肩を竦める。
一方、アマネの心臓は周りに聞こえるほど早鐘を打っており、緊張がクライマックスを迎えていた。
口に溜まった唾液をゴクリと飲んでから、アマネは自身が出した答えを伝える。
「私は、冒険者になりたいと思います」
アマネの答えを聞いたカトールは、はぁ、と短く嘆息してから、ギロリとアマネを睨んだ。
それは先日と同じ殺気。
アマネは小さく「ひっ!」と悲鳴をあげ、僅かに後退する。
しかし、アマネは前のようにはなるまいと唇を噛んで耐える。
コフィーの言葉を借りるなら、『自分の夢を守るために』。
カトールはアマネが必死に耐えようとしている様子を見て僅かに微笑み、すぐにその笑みを消すと口を開いた。
「まっ、何とか合格かしらね。……本当に10年前のあの子にそっくりな反応するんだもの」
最後の言葉はアマネ達に聞こえないように小さく呟くと、カトールは殺気を収めた。
アマネは安堵のためか思わず膝を付く。
カトールは先程とは打って変わって満面の笑みになると、アマネに手を差し伸べた。
「ようこそ冒険者アマネさん。私、セルトポール支部冒険者組合受付嬢カトールが、あなたを御案内致します。以後お見知り置きを」
受付嬢カトールは愛嬌のある顔でニコリと微笑んだ。
―――――
アマネが立ち直ると、カトールは冒険者について説明し始めた。
――冒険者。
それは、人類の敵である魔物に立ち向かう者達。
彼らの仕事は魔物の討伐、そして魔物が跋扈する未開地を調査するのが主である。
彼らは魔物以外と敵対する事を許されておらず、自衛以外で人類へ危害を加えてはならないと、厳しく制限されている。
これは、冒険者には腕っぷしだけ強い荒くれ者も多く所属している事が要因だろう。
また、彼らが属する冒険者組合は国家とは完全に独立した組織であり、それぞれの国は決して彼らに干渉する事はできない。
よって彼らは人類全体が所有する国際軍事力とも呼べるのだ。
「つまり、冒険者は人類を魔物から守る誇り高き戦士なのよ。私がアマネちゃんに生半可な気持ちでやって欲しくなかったのはそういう訳。理解したかしら?」
「なるほど。冒険者が魔物にしか危害を加えない事になっているのなら、盗賊とかはどうしてるんです?」
「それは警備兵の仕事ですよ」
コフィーがアマネの疑問に答える。
胸を反らして得意気な御様子だ。
カトールは、そんなコフィーをちらりと一瞥してから話を続ける。
「そう。彼ら警備兵は街やその周辺の治安を任されているわ。コフィーが所属しているのは城門警備兵。街の入口である城門に不審な輩が入ってこないかを見張るのが役目ね」
コフィーはカトールの話に満足そうに頷く。
よっぽど自分の仕事が好きなんだろうなあ、とアマネはコフィーを生暖かい目で見ていた。
「ちょっと話が逸れたわね。冒険者についてはこれくらいにして、制度について説明するわ」
前述した通り、冒険者と名乗る者は冒険者組合に属する者として各国の戦争に加担する事はできないが、魔物からの防衛であるならばその限りではない。
その場合、冒険者を国から依頼を出して雇うという形となり、褒賞金や損害費などを冒険者組合は一切負担する事はない。
また、冒険者は依頼を悪質な理由で失敗したり、組合側の不利益となるような不祥事を起こした場合、組合の永久除名に加え厳しい罰則が与えられる。
「まっ、普通にやってたらそんな事はないんだけどね」
カトールは苦笑しながらそう付け加え、ごそごそとカウンターの下から小さな金属板を取り出した。
「これが組合タグ。冒険者は常に身に付けていなければいけないのよ。これがあれば組合が冒険者と認めたって証明してくれるの。はい、これはアマネちゃんのね。」
そう言ってカトールは銅でできた金属板を差し出した。
金属板には『冒険者アマネ』と刻まれており、アマネの少年心を刺激する。
頬を緩ませながら組合タグを眺めるアマネを微笑ましそうに見ながらカトールは話を続けた。
「冒険者にはランクが決まっているの。下から銅、銀、金、ミスリル、オリハルコン。まあオリハルコン級冒険者なんて本部の次にでかいセルトポール支部にも一人しかいないんだけどね。あの子をオリハルコン級冒険者って言うのも癪だけど。」
と、誰かを思い浮かべながら苦笑するカトール。
対してアマネは、オリハルコン級冒険者自体ではなくオリハルコン級冒険者と知り合いのカトールがいったい何者なのか気になるのだった。
首を傾げるアマネをちらりと見ると、カトールはニコリと笑った。
「じゃあアマネちゃん。冒険者になった事だし、お姉さんのお家に行こっか。」
「へ?」
さっきまでのできる受付嬢の姿はどこへやら、カトールの顔はみるみるデレデレとした顔へ変わっていく。
「うふ、うふふふふ。アマネちゃ~ん。忘れたなんて言わせないわよ~。」
「ひぃっ!」
肩をがっしり掴んでアマネの退路を絶ち、カウンター越しからじりじりと顔を近づける。
そして吐息混じりに耳元でそっと呟いた。
「お姉さんがこれから一ヶ月みっちり遊んであ・げ・る!」
アマネは気絶した。
後半の冒険者の説明に思った以上に手間取りました。
冒険者って何している人達だ?何でも屋か?
ってな感じで何回もこんがらがりました。